表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/55

#8 イベント当日、元暗殺者が会場にいる理由

 土曜日の朝。

 俺は、リビングで朝食を食べていた。

 今日の予定は、一人でゆっくりNetflixを見ることだけ。そのはずだった。


「お兄ちゃん!出掛ける準備、できた!?」


 天音が階段を駆け下りてきて言った。

 手には、Re⭐︎LuMiNaのペンライトとタオル。

 完全武装だ。


「どこに」

「リリイベだよ!ミニライブがあるんだよ!ひまりちゃんのソロパートがお披露目かもしれないんだから!」

「俺は行かない」

「嘘!もう決まってるから!お母さんも許可出してるから!」


 天音はにっこり笑いながら、俺の腕を掴んだ。


「……母さん」


 俺は助けを求めるように、キッチンにいる母・詩子を見た。


「類、いいじゃない。青春してきなさい」

「……青春は、リリイベにあるのか?」

「あるわよ。アイドルのライブで叫ぶ男子高校生なんて、最高に普通じゃない」


 母は笑いながら、俺の背中を押した。

 多分、絶対に違う。


「……わかった」


 しかし、俺は諦めた。

 この家で、母と妹に逆らうのは不可能だ。


 ⸻


 ショッピングモールのイベント広場。

 前回と違って屋外だが、同じ熱気に包まれている。


(……やっぱり、人の気配がうるさい)


 俺は人混みの中、壁際に立った。

 天音はCDを積んだとかチェキが撮れるとか言って、嬉しそうに人込みの中に消えていった。


(……また放置か)


 俺はスマホを取り出そうとしたが、やっぱりやめた。

 今日は、ひまりのソロパートがあるかもしれない。

 彼女が一週間、必死に練習してきた成果が見られる。


(ちゃんと見届けないと)


 俺は壁に寄りかかりながら、ステージを見つめた。

 マイクが入って、イントロが流れる。

 次の瞬間、スポットライトが照らし出したのは――


「Re⭐︎LuMiNaですーっ!!!」


 きらりの声が響き、会場が爆発するように沸いた。

 ステージ上に、五人のアイドルが現れる。


 センターには、ツインテールのきらり。

 その隣に、黒髪ロングの麗奈。

 ピンク髪のゆめ。

 黄色いリボンのRIN。


 そして――

 緑の衣装を着た、ひまり。


(……いつもより、堂々としてる)


 以前は、ステージの端で縮こまっていた。

 だが、今は違う。


 背筋が伸びている。

 視線がブレていない。

 足の運びが安定している。


(成長してる)


 俺は心の中で呟いた。


 音楽が鳴り響く。

 アイドルたちが踊り始める。


 ひまりのダンスは――以前とは別人のようだった。

 腕の角度、視線の固定、足の着地。

 すべてが、俺がアドバイスした通りに改善されている。

 こんなに大勢の前で軽々と踊っているように見えるが、俺の指摘した所を改善しようと頭はフル回転しているはずだ。

 そんな苦労を全く感じさせないで笑顔を見せるひまりを、俺は単純に尊敬した。


 そして――

 曲の中盤で端にいたひまりが真ん中に立つ。

 ひまりが短く息を吸ったのがわかって、俺も少しだけ心臓が跳ねた。


「♪ きっと 私だけが掴む未来がある……」


 いつも地味で隠れているひまりとは思えない、力強い声だった。

 ひまりはそうやって歌うんだと初めて知った。

 会場のみどりのペンライトの光が、ひまりの瞳に映る。


「♪ もう一人でも怖くない 君がそこにいるって信じてる だから今は前を向いて歩ける……」


 短いフレーズだったけれど、ひまりの歌も動きも――完璧だった。

 俺はダンスしか見ていなかったが、歌も練習していたことがわかる。


(本当に、頑張ったんだ)


 俺は心の中で呟いた。

 そして――曲が終わった。

 会場が――一瞬、静まり返った。


 次の瞬間――


 爆発的な歓声が響いた。

 その中にはひまり個人に向けた呼びかけがある。


「ひまりーっ!!!」

「最高だった!!!」

「ひまりちゃん、大好き!!!」


 観客たちが、みどりのペンライトを振りながら叫んでいる。

 ひまりは目を潤ませながら、笑っていた。


(……よかったな)


 俺は心の中で、そう呟いた。


 そして――ふと、ひまりと目が合った。


 彼女は――俺を見つけた。

 驚いたように目を見開き――そして、誇らしそうに微笑んだ。


 ⸻


 メンバーの挨拶でミニライブが終わると、天音が駆け寄って来た。


「お兄ちゃん!ひまりちゃん、すごかったね!めっちゃ良かった!」

「ああ」

「お兄ちゃんも、そう思った?」

「成長したな、とは思う」

「おー!お兄ちゃんも、古参ファンみたいなこと言うようになったねー!」


 天音はバシバシと俺の背中を叩く。


「また来ようね!」

「……考えとく」


 俺はそう言いながら、会場を後にした。

 だが――心の中では、すでに決めていた。


(……また、来るか)


 彼女の成長を、もっと見届けたい。

 そう思っていた。


 ⸻


 その夜。

 家に帰ると、スマホに通知が来ていた。


 SNSの通知。

 Re⭐︎LuMiNaの公式アカウントからだ。


『本日のライブ、ありがとうございました!メンバーの個性が溢れる新曲、いかがでしたか?』


 その投稿には、ひまりの写真が添付されていた。

 相変わらず立ち位置は端だったが、他のメンバーと同じように笑顔だった。


(よく頑張ったな)


 そう思いながら、俺はスマホを置こうとしたが、電話が掛かって来る。

 俺のスマホは家族と周くらいしか登録していない。知らない番号だったが、指が触れて出てしまった。


『兎山さん!今日、来てくれましたよね!』


 誰だ、と尋ねる前にひまりの声が耳に飛び込んで来る。


「ああ、見てた」

『ど、どうでした?』


 ひまりは恐々と聞いてくるが、あの笑顔を向けてきたということはわかっているはずだ。


「良かった。すごく成長していた」

『本当に?!』

「ああ、俺が言ったことが全部できていた」

『で、ですよね!あぁ、でも、あんまり褒めないでください!』


 それでもひまりは嬉しくてたまらないのか、話を続けてくれた。

 マネージャーや歌の先生に褒められたこととか、終わった後の打ち合わせが怖くなかったのは初めてだとか。

 ひまりが満足するまで話を聞いて、電話を切る直前に俺は尋ねた。


「俺の番号、知っていたのか?」

『え?あの、伊波さんが聞いてないのに教えてくれました。兎山さんには後で言っておくって言ってたんですけど……』


 あいつは。

 人の個人情報をばら撒いているのか。


『えっと、マズかったですか……?』

「いや、大丈夫だ」


 ひまりの気分が陰らないようにすぐに軽く返事をする。

 それじゃあ、明日、と電話を切る。

 あの様子だと、ひまりは明日の練習で更なる成長を見せてくれるだろう。

 そして明日、俺はまず周をしめないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ