表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/55

#5 親友の勘が鋭すぎて、秘密がバレそうな件

 翌日の昼休み。

 俺は、いつものように屋上で弁当を食べていた。


 屋上は人が少ない。

 静かで、風が心地よく、誰にも邪魔されない。

 俺にとっては最高の場所だ。


 スマホを取り出し、昨日の続きを見ようと思ったその時――


「あ、類。やっぱりここにいた」


 振り返ると、伊波周が弁当を持って現れた。


「なんでここに」

「お前、毎日ここで飯食ってるじゃん。知ってるよ」

「ストーカー」

「ひどっ!友達だろ!?」


 周は俺の隣に座り、弁当を開ける。

 唐揚げ、卵焼き、ウインナー。いかにも高校生らしい弁当だ。


「つーかさ、お前って本当に一人が好きだよな」

「人混みが苦手なだけだ」

「まぁ、わかるけど」


 周は唐揚げを頬張りながら、ふと思い出したように言った。


「そういや、最近強羅さんと話してた?」

「別に」


 俺は視線をスマホに戻す。

 だが、周の視線が刺さるのを感じた。


「嘘つけ。昨日の放課後、お前が校舎裏に行くの見たぞ」

「気のせい」

「いや、絶対見た。で、強羅さんも同じ方向に歩いてった」


 周の勘の良さは、時々厄介だ。


「まさか、類、強羅さんのこと気になってんの?」

「別に」

「珍しいなー!類が女子に興味持つとか、レアじゃん!」

「だから、違う」


 俺は即答した。

 だが、周はにやにやしながら続ける。


「でもさ、強羅さんって謎多いよな。いつも一人だし、友達もいないし」

「それは俺も同じだ」

「いや、お前には俺という唯一無二の存在がいるだろ」

「だから何なんだ」


 俺がどんなに冷たく言っても、周は全く堪えていない。


「つーかさ、強羅さんって地味だけど、よく見たら可愛いよな」

「そうか?」

「そうだよ!眼鏡取ったら絶対美人だと思う!あー……眼鏡がいいってのもあるけど!難しいとこだなぁー」


 周の言葉に、昨日見たひまりの姿が脳裏に浮かぶ。

 眼鏡を外して、ダンスを踊っていた彼女。

 夕陽に照らされて、輝いていた姿。


(……確かに、綺麗だった)


 だが、それを周に言うわけにはいかない。


「お前、強羅に興味あるのか?」

「え?俺?いや、別に。ただ気になっただけ」


 周はそう言いながら、弁当を食べ終えて食後の焼きそばパンに進む。見ているだけで胃もたれしそうだ。


「でもさ、強羅さんって最近ちょっと変わったよな」

「変わった?」

「うん。前まではもっと暗かったっていうか、影が濃かったっていうか。でも最近、ちょっとだけ明るくなった気がする」


 周の観察眼は、意外と鋭い。


「気のせいじゃないか?」

「そうかなぁ。俺、結構人のこと見てるんだよ?」


 周はにやりと笑った。


「で、お前も強羅さんのこと見てるよな」

「……見てない」

「嘘つけ。今朝も授業中、チラチラ見てただろ」

「見てない」

「見てたって。俺、気づいてたから」


 周の勘の良さに、俺は内心でため息をついた。


(これ以上追及されると、まずい)


 だが、周はそれ以上深入りしてこなかった。

 代わりに、話題を変える。


「つーかさ、お前って本当に友達いないよな」

「自覚はある」

「でも、強羅さんも友達いないじゃん。お似合いじゃね?」

「どういう意味だ」

「いや、ぼっち同士仲良くすればいいのにって」


 周は笑いながら、次のクリームパンを開ける。

 俺は何も言わず、Netflixの画面を見つめた。

 家族ドラマ。父親が娘を励ますシーン。紛うことなき普通の家族の家族だ。


 そんなことを考えていると――

 屋上のドアが静かに開いた。


「あ……」


 振り返ると、そこには強羅ひまりが立っていた。


 眼鏡をかけた地味な姿。

 手には弁当箱を持っている。


「ご、ごめんなさい……人がいるとは思わなくて……」


 ひまりは慌てて頭を下げた。


「あ、強羅さん!」


 ひまりに気付いて、周が手を振る。


「ここ、結構穴場だよね。俺たちも邪魔だったら出てくけど」

「い、いえ……わたしが……」


 ひまりは視線を泳がせている。

 そして、ちらりと俺を見た。


 その目には、少しだけ――困惑の色が浮かんでいた。


(……俺がいるから、居づらいのか?)


 俺は立ち上がった。


「俺、教室戻る」

「え、マジ?」


 周が驚いたように見上げる。


「強羅さん、ここ使っていいぞ。静かだから」


 そう言って、俺は屋上を出ようとした。


「あ、あの……」


 ひまりが小さく声をかけた。


「なに?」

「昨日は……ありがとうございました」


 小さな声。

 だが、その言葉には――感謝の気持ちがこもっていた。


「別に」


 俺はそれだけ言って、屋上を出た。


 廊下を歩きながら、俺は昨日のことを思い出していた。

 校舎裏で、ダンスを踊っていたひまり。

 そして、秘密を守ってほしいと頼まれたこと。


(……あの子、本当に誰にも言ってないのか)


 アイドルであることを。

 Re⭐︎LuMiNaのメンバーであることを。


(隠さなくても、いいと思うけどな)


 疑問が頭の中を巡る。

 だが、それ以上考える前に――


「おーい、類!」


 後ろから周の声が聞こえた。

 振り返ると、周が息を切らしながら追いかけてきた。


「お前、なんで急に出てったんだよ」

「邪魔だと思った」

「邪魔って、誰の?」

「強羅の」


 周は少し考えて、にやりと笑った。


「お前、優しいなー」

「そうか?」

「そうだよ。強羅さん、お前がいたから居づらそうにしてたもんな」


 周は俺の肩を叩いた。


「でもさ、類。お前って本当に不器用だよな」

「何が?」

「強羅さんのこと、気になってるくせに、素直に話しかけないところ」


 周の言葉に、俺は少し戸惑った。


「……気になってない」

「嘘つけ。顔に書いてあるぞ」

「書いてない」

「書いてる書いてる」


 周は半分に割ったクリームパンを俺に押し付けて、廊下を歩き始めた。


「まぁ、お前のペースでいいけどさ。でも、友達くらい作ってもいいんじゃね?」

「……友達は、お前がいる」

「確かに俺は素晴らしい親友だけど!でも、俺だけじゃ寂しいだろ。強羅さんとも仲良くなれよ」


 周はそう言って、教室へ向かった。

 俺は廊下に立ち尽くしながら、周の言葉を反芻していた。


(……友達、か)


 俺にとって、友達とは何なのか。

 暗殺者時代には、そんなものは存在しなかった。

 仲間はいたが、友達ではなかった。


 だが、今――

 周という”友達”がいる。

 そして、ひまりという”秘密を共有する相手”がいる。


(……これが、普通の高校生活、なのか?)


 俺は教室へ戻りながら、そう考えていた。


 ⸻


 放課後。

 俺は再び、校舎裏へ向かった。


 昨日と同じ場所。

 ひまりがダンスを踊っていた場所。


 だが、今日は誰もいなかった。


(……来ないのか)


 俺は少し待ってみたが、彼女は現れなかった。


(まあ、毎日来るわけじゃないか)


 そう思って帰ろうとした時――


「あ……」


 振り返ると、ひまりが立っていた。

 眼鏡を外し、イヤホンを持っている。


「兎山、さん……」

「来たのか」

「は、はい……あの、昨日は……」


 ひまりは言葉を探すように、視線を泳がせた。


「昨日は……見られて、恥ずかしかったです」

「そうか」

「でも……ありがとうございました。秘密、守ってくれて」


 ひまりは小さく頭を下げた。


「別に。困ってる人を見たら、手を貸すだけだ」

「でも……」


 ひまりは顔を上げた。

 その目には――少しだけ、安堵の色が浮かんでいた。


「兎山さんって、優しいんですね」

「そうでもない」


 俺はそう言って、踵を返した。


「じゃあな」

「あ、あの!」


 ひまりが声をかけた。


「なに?」

「わたし、またここで、だ、だ、ダイエットしてるかもしれません」

「好きにしろ」

「兎山さんも、その、き、来てもいいですよ……!なんて」

「……わかった」


 俺はそれだけ言って、その場を離れた。


 だが、心の中では――少しだけ、気になっていた。


 彼女が、どんな想いでダンスを踊っているのか。

 なぜ、アイドルを続けているのか。


(……気になる)


 俺は夕陽に染まる校舎を見上げた。


 そして――

 この秘密が、これから俺の日常を少しずつ変えていく予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ