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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ
エピローグ

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元アイドルのわたしだけが、クラスで一番普通な彼の本当の顔を知っている。

「ひまちゃーん!」


 楽屋のドアが開いて、きらりが飛び込んできた。


「きらり!」


 ひまりが驚いて立ち上がると、続けて麗奈も入ってくる。


「久しぶり、ひまり」

「麗奈ちゃんも!来てくれるなんて思ってなかったよ!ありがとう!」


 2人に会うのは久しぶりで、ひまりは嬉しくて衣装が崩れるのも気にせず抱きついた。

 麗奈は活躍の幅を広げて今やドラマや映画で見ない日がない。

 対してきらりは、音楽活動をメインにしている。音楽番組には度々出演しているが、大きなホールから小さなライブハウスまで全国を飛び回っていてどこにいるのか分からないことが多い。


「せっかくなら、もっと大きな会場で発表したらいいのに」


 遅れて来たゆめが言って、ひまりは可笑しくなった。

 新人アイドルなら誰もが憧れるクリスタルアーク。

 でも、今のRe⭐︎LuMiNaにとっては、全国に数ある舞台の一つにしか過ぎない。


「ううん。わたしがここがいいって言ったの。ゆめも、来てくれてありがとう」

「後輩はみんな知ってるの?気を使って楽屋を別にしてもらったんでしょ?」


 麗奈が尋ねて、きらりは慌てて麗奈の袖を引っ張った。


「麗奈ちゃん、新メンバーが緊張するから、しばらく前からお姉さんメンバーは別室になったんだよ……」

「あ、そうなの……?」


 一番先に卒業してそれを知らなかった麗奈は、気まずそうに言った。


 Re⭐︎LuMiNaは卒業と新規加入を数回繰り返し、今やアイドルグループとして確固たる地位を築いている。

 その中で立ち上げ当初からのメンバーであるひまりと燐は古株で、燐があの性格だからひまりがグループの指導監督のような役割になっていた。入ったばかりのメンバーには、厳しい人だと思われて怯えられることもある。


「みんな以外は知らないよ。何も言ってない」

「それなら、ゆめが余計な投稿したのって大丈夫?」


 麗奈はスマホを弄っているゆめに尋ねた。

 ゆめのSNSには「今度のRe⭐︎LuMiNaのライブ!みんなで行くよ!忘れられない日になりそう……」と意味深な投稿がされていた。

 天然アイドルから炎上系人気タレントに成長したゆめは、悪びれることなく今撮ったばかりのきらりと麗奈の手だけが写った写真を投稿する。


「いーの。これがウケるんだから」

「ゆめはいっつもそうだから、もう気にしてないよ」


 ひまりは諦めと共に笑った。


 最近では、Re⭐︎LuMiNa公式から重大発表があると告知されると、ゆめが意味深な投稿をする。

 ネットが「ひまりの卒業か?」「ひまり大好き。卒業しないで」と盛り上がる。

 外れると「なんだ、ひまりは卒業しないのか」と拍子抜けする、という様式美があった。


「ああいうの、よくないわよ。ひまりとファンに失礼でしょ」

「でも、麗奈。わたしたち、そういう歳じゃん」

「うう……ッ!」


 ゆめの身も蓋もない言葉に、ひまりは胸を押さえた。

 しかし、きらりは「分かる」と深々と頷く。


「この前のドラマ、麗奈がお母さん役やってて、わたしグサーッときたもん。いや、演技は最高だったけどね」

「なのに、今度は女子高生役やるってネットニュースになってた」

「そういうこと、言わないの」


 この中で一番歳上の麗奈は、余裕のある態度できらりとゆめを黙らせた。


「アイドルは卒業しても年齢不詳なの」

「麗奈がそういうこと、言うようになったかー……」


 きらりが言って、麗奈とひまりは思わず吹き出して笑う。

 3人の写真を撮っていたゆめは、1人いないことを気にして尋ねた。


「燐は?間に合うの?」

「うん。マネージャーさんに聞いたら、途中からになるけど参加できそうって」


 きらりはスマホを見た。

 燐からは「今から行く」と短いメッセージが届いている。


「怖……このメッセージ、超キレてない?」

「そうかな?来てもらうの申し訳ないよ……映画の撮影中なのに」

「いやいや!燐を立ち会わせなかったら、ひまちゃん、一生恨まれるって!」


 きらりが笑いながら言った。

 昨晩、今でもRe⭐︎LuMiNaのメンバーである燐には、自分が卒業することをメンバーの誰よりも先に伝えた。

 電話で顔は見えなかったが、燐は泣いていたんじゃないかとひまりは思う。

 ひまりが「忙しいだろうから、来なくて大丈夫」と最後に言うと無言で電話が切れ、その数時間後には飛行機が取れたと連絡が来た。

 ゆめの言うように、燐はかなり怒っているのかもしれない。


(でも、よかった……最後は燐ちゃんと一緒がいいもん)


「それじゃ、私たちは客席から見てるね」


 麗奈がそう言って立ち上がった。


「えー?ステージに上がってくれないの?」


 ひまりが残念そうに言うと、きらりは笑った。


「もう卒業した人が上がったらお邪魔だよ!でも、全力で応援するから!」

「そうそう。ドキドキのサプライズがあるかも……ね?」

「ゆめ、思わせぶりなのはネットだけにしてよ」


 麗奈とゆめが楽屋を出て、1人残されるひまりにきらりは振り返った。


「ひまちゃん、大丈夫。これからも、ずっと楽しいよ!」

「……うん、ありがとう」


 ひまりが答えると、きらりは手を振って出て行った。

 ドアが閉まると、ひまりは一人になる。


(もう、ここまで来たんだな)


 今日のライブで、ひまりはRe⭐︎LuMiNaを卒業する。

 後輩たちには言っていない。今知っているのは限られたスタッフと、既に卒業した3人と燐だけだ。


 ひまりは、これまでの日々を思い返した。

 Starry@Prismで、初めてアイドルになったこと。

 Re⭐︎LuMiNaで、もう一度アイドルになれたこと。

 そして、一度は諦めかけたクリスタルアークのステージに、初めて立ったときのこと。


 辛いことがたくさんあったが、それよりもずっと楽しい思い出ばかりだった。

 これからももっと楽しいことが待ち受けていると確信している。

 本当はひまりが独り占めしたくなるが、それらは成長途中の後輩たちに残しておいてあげたい。


(わたしは、これから、どうしようかな……)


 これから先、何がしたいのか、自分には何ができるのかを知らないひまりは、心細い気持ちになりそうになる。

 しかし、ひまりの内面を見透かしたようなきらりの言葉を思い出す。


(今までも楽しかった……これからも、きっと……ずっと、もっと楽しい)


 これからのことを考えると、胸の鼓動が高鳴った。

 少しの不安と寂しさが混じっているが、明るい未来を期待する鼓動だ。


(それに……卒業したら真っ先に……)


 ひまりがそう考えた時、楽屋のドアがノックされた。


「はーい」


(もしかして、燐ちゃん?間に合ったのかな?)


 嬉しくなってひまりはドアに駆け寄って開ける。

 そこには、類が立っていた。


「類くん……!久しぶり」

「ああ、久しぶり、ひまり」


 10年以上前にここで別れて、それ以来一度も会っていない。

 連絡を取る手段もなく、生きているのかすら分からなかった。


 しかし、久々の再会でもひまりは驚かなかった。

 類は約束を守ってくれると信じていたし、公表していなくてもひまりが卒業することをどこかで知って必ず来るだろうと分かっていた。


「来てくれてありがとう……でも、ちょっと早いね」

「そうだよな」


 ひまりが笑いながら言うと、類は少しだけ目を逸らした。


(類くん……照れてる……?)


 お互いに大人になったのに、その仕草は少しも変わっていない。

 ひまりは自分も高校2年生のあの日に戻った気分になった。


「俺から、言おうと思って」

「え?」


 類の言葉に、ひまりは首を傾げた。 


「アイドルを辞めた後だとひまりから言われるから、俺から言いたい」


 類の言っている意味に気付いて、ひまりは目を見開いた。

 心臓が激しく鳴っている。


「類くん……」

「ひまり、俺は……」

「ま、待って!」


 ひまりは、類の言葉を遮った。

 10年以上待ったんだから、今更あと半日くらい伸びても耐えられる。

 ひまりはそう思って言ったが、あまりに嬉しくて笑顔になるのは我慢できなかった。


「わたしから言う約束だから、お願い。待ってて!」

「そうか」


 ひまりの必死な様子を見て、類は少しだけ微笑んだ。


「終わったら、すぐに行くから!」

「わかった」

「絶対に類くんのこと見つけるから!ちょっとだけ待って!」


 類はひまりの勢いに負けたように、笑って頷いた。


「わかった。待ってる」

「ありがとう!それじゃ、行ってくる!」


 ひまりは類に手を振る。あの時と同じ別れでも、今は寂しくない。

 すぐにまた会えて、約束を叶えることができるからだ。


「類くん、わたしのこと、見ててね!」


 ひまりはそう言って、ステージに向かって走り出した。

読んでいただきありがとうございます!

続編は卒業して出不精なひまりと新婚旅行に行く話とか鴉がクビになる話とか1人残された燐が覚醒する話とか、色々考えていました。

書きたい話と面白いと思ってもらえる話は違いますね……もっとやり方を変えます!

ありがとうございました!

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