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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


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#45 恋かセンターか、どちらも譲れない勝負が始まった件

 今日の練習はきらりがドラマの仕事で不在だった。準ヒロインの役を得て最近忙しいようで、全体練習の時間が合わない。

 きらりがレッスン場にいないことを確認して、ひまりは内心でほっとする。


(よかった……顔を合わせても、なんて言えばいいか分からないもん)


 ひまりは鏡に映る自分が泣きそうな顔をしていることに気づく。

 人気投票最終発表後の、きらりとの会話が頭から離れない。


 -----


「だ、ダメ!!」


 類くん、もらうね。

 そう言われて、ひまりは大きな声でそう叫んだ。

 他のメンバーやスタッフが驚いて、ひまりときらりを見る。

 ひまりは慌てて声を小さくした。


「だ、だって!アイドルは、恋愛禁止でしょ!?」


 ひまりが必死に言い返すと、きらりは可笑しそうに笑った。


「違うよー!類くんを恋愛的に好きとか、そういうんじゃないって」

「じゃあ……」

「ボディガードとして、類くんが欲しいの」


 あっけらかんと言うきらりに、ひまりは言葉を失った。


「類くんって強いし頼りになるし、わたしのこと、守ってもらえないかなって」

「……」


 類が捕まえたストーカー以外にも、きらりには問題のあるファンが何人もいた。

 人を魅了する力が強ければ強いほど、危ない人間も引き寄せてしまう。

 きらりのような人間には、類のような護衛が確かに必要だ。


(でも、欲しいって……多分、ずっと一緒にいるってことだよね……?!)


 ひまりはまだ類に告白をしていないから、恋人ではない。

 一緒にいることでしか関係を繋ぎ止められないのに、そこにきらりが入ってくると、ひまりと類は単なるクラスメート、単なる友人、他人同士だ。

 ひまりが不服そうなことに当然気づいているきらりは、首を傾げた。


「ひまちゃんには、RINがいるじゃん」

「え?」

「RIN、アイドルになる前は会社の社長さんのSPみたいなことやってたんでしょ?」

「ど、どうして知ってるの?」


 まさか、類を欲しがるあまり組織のことを独自で突き止めたのか。

 とひまりは警戒したが、きらりは当たり前だと軽く頷く。


「だって、RINのオーディションの履歴書に書いてあったもん」


(燐ちゃん……!)


 ひまりは思わずRINを見た。

 RINはひまりの視線に気づいて不思議そうに首を傾げる。

 類が隠していた過去を、ひまりにスラスラ教えてくれたくらいだ。

 RINは類や自分の過去や経歴が異質なものだと認識していないらしい。類にとって重大なセキュリティホールだ。


(後で燐ちゃんに、書類にもあんまり書かない方がいいよって、教えてあげようかな……)


「RINを雇うのってすっごく高かったんだって。ひまちゃんは無料で守ってもらえるのに、類くんと2人はずるいよ」

「きらり……」

「だから、類くんはわたしがもらうね」


 きらりは本当に屈託のない笑顔で言った。

 そこには、ひまりを困らせようという意図は微塵もない。

 だからこそ、ひまりは何も言い返せなかった。


 きらりは本当に危険な目に遭っている。類が必要な理由がある。

 そして、ひまりは類の恋人ではない。

 類がきらりを選んだ場合、ひまりにそれを止める権利があるのだろうか。


 -----


「……どうしよう」


 ひまりは小さく呟いた。


(私は類くんの……何?)


 ただのクラスメイト?

 放課後の特訓相手?

 それとも、付き合うこともできないアイドルの立場で、類を自分のものにしたくてキープしているだけの、迷惑な存在?


「うぁー……」

「ひまり」


 思わず唸っていると、背後から呼びかけられる。

 慌てて笑顔を作って振り返ると、麗奈がいつもの冷たい表情で立っていた。


「何か、悩んでる?」

「あの……ちょっとね。でも大丈夫!」


 唸っている所を見られたひまりは正直に答えたが、笑顔で誤魔化そうとした。

 しかし、麗奈は隣に座って他のメンバーに聞こえないように囁く。


「きらりと、何か揉めてるんでしょ?」


 舞台の場で演技を磨き、子役として幼い頃から大人に混じって仕事をしていた麗奈に隠し事はできない。

 ひまりは仕方なく頷いた。


「私から、きらりに言おうか?」

「え?」

「ひまりが言っても聞かないでしょ。本当はよくないけど、歴が長い私から言えば少しは聞くから」

「ありがとう……でも……」


 規律に厳しい麗奈だ。好きな人を取られそうになって焦っています、などと言えるはずがない。

 アイドルは恋愛禁止、と事務所を巻き込んでお説教をされそうだ。

 ひまりが言葉に迷っているのを見て、麗奈は続けた。


「きらりは欲しいものは絶対に諦めない。ゆめはワガママだけど、その辺はちゃんとわきまえてる。でも、きらりは違う」

「うん……分かってる」

「本当に手放したくないものなら、ひまりも本気を出さないと」

「麗奈ちゃん……?」


 ひまりは麗奈の顔を見た。


(もしかして、わたしに好きな人がいること、気づいている……?)


 麗奈は、ひまりときらりが何を巡って対立しているのか気づいている様子だった。

 アイドルとしてそれを言葉にするのはアウトだ。

 しかし、口にしないようにしながら、確実にひまりの背を押してくれている。

 ひまりが驚いているのを見て、麗奈は整った顔を崩して笑った。


「私もね、最近はひまりがアイドルに本気を出してくれて、良かったって思ってた。きっかけが『それ』なら、事務所を説得してでも『それ』も続けてほしい」

「ありがとう、麗奈ちゃん……」


 ひまりが潤んだ目で麗奈にお礼を言うと、麗奈は照れ隠しですぐに無表情に戻った。


「それで?きらりには私から釘を刺しておく?」


 麗奈に尋ねられて、ひまりは首を横に振った。


「ううん、大丈夫。これは、わたしが向き合わなきゃいけないことだから」

「そう……なら、私は応援してる」


 麗奈が立ち上がった時、レッスン場のドアが開いた。


「みんな集合ー!」


 入ってくると同時にマネージャーの声が響き、メンバーはすぐに集まる。

 マネージャーはいつにない笑顔でメンバーを見渡した。


「すごくいいニュースがあります!今日休みのきらりには先に伝えてるからね」


 マネージャーは勿体ぶって分厚い手帳を開く。

 新しい仕事の予定が入ったのかとひまりは胸が弾んだ。


「まず、人気投票お疲れ様でした!特にひまり!よく頑張ったね……!まさかきらりとあんなに接戦で2位になるなんて!」

「あ、ありがとうございます」


 マネージャーに感動で潤んだ声で言われ、ひまりは複雑な気持ちで答えた。


(2位にならなかったら、きらりは類くんが欲しいなんて言わなかったかな……)


 もしかしたら、ひまりが自分の脅威だと感じて嫌がらせのために言ったのでは、と意地の悪い予想が浮かんだ。

 しかし、ひまりはすぐにそれを否定する。きらりはそんな卑怯な手を使うアイドルではない。


(違う……わたしは2位になったから、きらりに類くんはあげないって、堂々と自信を持って言えるんだ……!)


 だから、次は1位を目指してきらりに文句を言えなくさせる、とひまりの闘志に火がつく。


「ということで、新曲のセンターは、きらりとひまり、ダブルセンターに決定!おめでとう!」


 マネージャーが笑顔で告げる。

 パチパチと拍手が起こる中、ひまりの闘志の炎は一瞬で消火されていた。


(だ、ダブルセンター?!絶対、きらりと比較される……わたし、きらりと並んだときに顔もダンスもスタイルも……自信ない……)


 ひまりはアイドルとして、いつでも可愛い自分になるように日々努力はしている。

 そして、その努力に見合ったものを得ていると自負している。

 しかし、生まれ持った骨格や性質、オーラには勝てない。

 きらりと並んだ時に、ステージ上で見劣りする惨めな自分を想像して泣きそうになった。


(やっぱり、1位の差は大きいよぉ……)


「そしてそして、この新曲のお披露目はクリスタルアークに決定!!」


 ゆめが歓声を上げたが、麗奈ははっと気づいてひまりを見た。

 クリスタルアークは、ひまりの前のグループがデビュー直前に未来を断たれた場所。

 Re⭐︎LuMiNaが目指す夢の舞台ではあるが、ひまりが立てないステージ。

 麗奈は心配そうにひまりを見つめる。


(絶対、素人とか言われる……クラスでギリ10番目に可愛いとか言われる……あぁー……炎上するのが目に見える……)


 しかし、ひまりはきらりとダブルセンターになることを飲み込むのに必死で、そこまで気にする余裕がなかった。

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