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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


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#40 届かないスタンプと小さな誤解が、涙の理由になった件

 昼休み。

 ひまりは、この3日間空席になっている類の席を見つめていた。

 フェスの日以来、類の姿を見ていない。連絡をすると、スタンプだけの返事が返ってくる。


(類くん……大丈夫かな……)


 体調が悪くて寝込んでいるのではないかと思うと、それ以上連絡をすることができない。

 それに、ひまりは類がどうしてきらりのストーカーを捕まえていたのか、きらりにも類にも事情は聞けていなかった。


(類くん、きらりに会ったのかな……きらり、初対面でも男の子でも何にも気にしないから、無理矢理頼んだんじゃないよね……)


 ひまりはつい違う方向に思考が向いてしまった。


(ううん!きらりは真面目だから、類くんとそんなことは考えないはず……!でも、類くんってなんか、人と距離が近いところがあるからな……)


 色々と考えていると、胸が苦しくなってくる。

 ひまりが頭を抱えて唸っていると、春藤が近づいてひまりの机にぱんっと手を置いた。


「ひまり!大丈夫?」

「う、うん?大丈夫だよ!」

「兎山くんのこと、心配なんでしょ?」

「え……なんで、わかったの?」

「珍しいよねー、今まで休んだことないんじゃない?伊波ー!」


 春藤はひまりの質問を無視して、周の方に走っていく。

 すやすやと昼寝をしていた周は、春藤に揺すぶられて目を覚ます。


「なんだよー……?」

「伊波!兎山くんから連絡あった?」

「ああ、LINEで『大丈夫!』ってスタンプだけ返ってきた」


 周がスマホの画面を見せる。

 会話の終わりに類がいつも使っているウサギのスタンプが一つだけ表示されていた。


「ふむ、連絡が取れるなら一応生きてるんじゃない?」

「でも、おかしいんだよな」


 身も蓋もない春藤の言葉を聞き流して、周は首を傾げる。

 ひまりは不安になって尋ねた。


「周くん、何がおかしいの?」

「類はスタンプで終わるような会話は既読無視する。スタンプで返事をしてくるのは妙だ」


 周が画面をスクロールすると、確かに話が類の既読だけついて終わっているものが多い。

 ひまりは一つの予想を思いついたが、周のために黙っていた。しかし、春藤は遠慮なく口に出す。


「伊波、兎山くんに嫌われてるの?」

「それは無い。俺は類の親友だから」

「自称親友の重すぎる友情をウザがってるんじゃない?」

「違うっつの。フジと違って類はシャイなんだよ!俺がぐいぐい行くくらいでちょうどいいの! ね、ひまりちゃん!」

「う……わたしからは、何とも……」

「ほら。ひまりが言ってんだからそうなんだよ。伊波、ウザいんだって」

「ひまりちゃんは何も言ってねーだろ」

「でも、顔に書いてあったよ。『兎山くん大変だなぁ』って」

「書いてねーし!ひまりちゃん、そんな顔してなかったよな?!」

「あの、わたし、ちょっと……」

「伊波、ひまりと兎山くんに迷惑かけんなよ」

「かけてねーよ。フジこそ一々声がでかいんだよ」


 周と春藤が言い合いを始めて、ひまりは逃げるように教室を出た。

 そのまま中等部の校舎に向かう。

 学年しか知らなかったが、教室を覗いて探すと天音の姿があった。


「天音ちゃん……!」


 ひまりが教室の外から声をかけると、天音は席を立って廊下に出てくる。


「強羅先輩、どうしました?」

「あのね、類くんの体調どう?まだ治らないのかな……?」


 ひまりが尋ねると、天音は困った顔をした。


「お兄ちゃん、寝てる」

「……え?」

「ずっと寝てて、部屋から出てこない」

「ずっと……?」


 ひまりが繰り返すと、天音は不安そうに頷いた。

 類が怪我をして3日だ。食事もできないほどひどい怪我なのか、とひまりは息を飲んだ。


「あの、病院とか行けないの?」

「わからない。お母さんは、危ないから部屋に入っちゃダメって言ってて……」


 ひまりを見つめていた天音は、みるみる涙目になった。


「お兄ちゃん、このまま……死んじゃうのかな……」

「そんな……」


 ひまりは思わず天音を抱きしめた。


「大丈夫!類くんなら大丈夫だよ!」

「本当に……?」


 涙のたまった目で見上げられて、ひまりは笑顔で頷いた。

 しかし、ひまりの胸の苦しさは先ほどよりも増していた。


(わたしのせいで……)


 ひまりは涙がこみ上げてきて、天音に見られないようにその体を強く抱きしめた。


 ---- 


 3日前から、類が休んでいること以外に変化があった。

 Re⭐︎LuMiNaのレッスン場。


「はーい、そしたら、10分休憩!その後に通しでやるよー!」


 きらりが言って、メンバーはレッスンで少し疲れた声で返事をする。

 それぞれがレッスン場の隅に行って休憩していて、ひまりも自分の荷物の近くに腰を下ろした。

 座って水を飲んでいると、すぐ隣に小さな人影が座る。


「……燐ちゃん」


 RINは、ひまりと背中をつけて同じように水を飲んでいた。


 フェスの日以来、RINはひまりにずっとくっついてくる。

 今まで人を寄せ付けない雰囲気だったRINが、ひまりだけには違う態度を取っていて、他のメンバーたちも驚いていた。


「燐ちゃん……どうしてわたしの近くにいるの?」


 ひまりは、突然懐いてきたRINに複雑な思いを抱いていた。

 RINは類を怪我させた張本人だ。怒っていないわけではない。

 しかし、自分を守ろうとしてやったことだとわかり、RINを責められずにいた。

 ひまりに尋ねられて、RINは無表情のまま答える。


「燐はひまりを61から守った。役に立つ。だから、ひまりと一緒にいてもいい」

「え……?」


 ひまりは、RINの言葉の意味がわからなかった。

 しかし、会話はできるとわかって、質問を続ける。


「61って……類くんのこと?」

「そう」


 RINは表情を変えずに頷く。


「61は危険。近づいちゃだめ。危ない。ひまりは燐が守る」

「ちょ、ちょっと待って!」


 ひまりは思わず立ち上がった。

 RINは大声を上げたひまりを、わずかに驚いた顔で見上げる。


「類くんは、わたしに危ないことなんかしないよ!」

「でも、ナイフを持っていた」


 RINは無表情のまま言う。


 何のことだと考えて、ひまりはすぐに気づいた。


「それは……きらりのストーカーが類くんを刺したんだよ。類くんがわたしに向けてたわけじゃない」

「そうなの?」

「うん!燐ちゃん、それでわたしが危ないって勘違いしちゃったんだね」


 RINが類を攻撃した理由がわかり、ひまりは少し安心した。

 RINの前に座って、相変わらず内面が見えないRINと目を合わせる。


「それから、もう一つ勘違い。燐ちゃんは同じグループのメンバーだから、役に立たなくても一緒にいていいんだよ」


 ひまりは優しく言って、RINの両手を握りしめた。


「燐ちゃんは、もうわたしにとって大事な友達なんだから。役に立つとか、立たないとか、関係ないよ」

「……関係ない?」

「うん。友達は、ただそばにいてくれるだけでいいの」


 ひまりは笑顔で言った。


「それから……」


 続けたひまりの声は、震えが堪えきれなかった。


「燐ちゃんがわたしのことを守ってくれたとしても、類くんはわたしの大事な人だから……」


 ひまりの目から涙が溢れた。

 握りしめたRINの手とひまりの手に、ぽたぽたと涙の滴が落ちる。


「わたしのせいで、類くんが傷つくのは……悲しい……」

「ひまり……」


 RINの無表情が崩れて、戸惑った表情になった。

 ひまりが泣いているのを見て、RINも泣きそうな顔になる。

 RINは自分がしたことは間違っていないと認識しているが、それはひまりにとってよくないことだったと気づいた。


「ひまり……ごめんなさい」

「燐ちゃん……」

「泣かないで」


 そう言ったRINの方も、泣きそうな顔をしていた。

 どうすればいいのかわからず、ひまりの傍で動けずにいる。


「そろそろ休憩終わりだよー……って、ひまちゃん、大丈夫?」


 様子がおかしいと気付いて、きらりが駆け寄ってきた。

 きらりは、震えて泣いていたひまりの体を支える。


「き、きらり……」

「あー……ひまちゃん、大丈夫、よしよし」


 ひまりは我慢できずに、きらりに抱きついて泣き出してしまう。

 RINはどうしたらよいのかわからない顔で、立ち尽くしていた。


(61はどうでもいい。でも、ひまりは泣かせたくない)


 そして、RINは一つ決心した。

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