表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/55

#38 推しの裏で潜入したら、センターに嘘が秒でバレてる件

「君、事務所でも有名だよ。ひまちゃんにかっこいいファンがついてるって」


 きらりは帽子を深く被っていたが、変装といえるものはその程度だった。


 会場の近くのコンビニにはフェスの客らしき人も多くいる。

 しかし、きらりはバレる気配がない。一般人の中に完全に溶け込んでいて、アイドルのオーラを全く感じさせなかった。


「どこの事務所にも所属してないなら、うちの男性部門からデビューさせられないかなって社長が言ってた」


 きらりは話しながら、コンビニのパックのサラダとペットボトルの炭酸水を手に取る。

 俺は詳しくないけれど、アイドルっぽい食べ物だと感心した。


「君、名前は?」


 突然振り返ったきらりに尋ねられて、俺は自然な間を保って答えた。


「あまね」

「あまねくん?」

「そう、外周の周と書いて、あまね」

「嘘。類くんでしょ。ひまちゃんが言ってたもん」


 やりにくい相手だ。

 俺は顔を顰めそうになる。きらりはチョコレートの箱を一つ手に取って笑った。


「嘘つきの類くんだなー」


 きらりは、節をつけて歌うように言ってレジに向かっていく。


「類くんは、ひまちゃんの彼氏?」

「違う」

「そうなの?でも、ひまちゃん、君の話ばっかりしてるけどなー」


 セルフレジで会計をしながら、きらりは悪戯っ子のように笑った。

 そして、きらりは少し真面目な表情になる。


「君、ひまちゃんのこと心配してるんでしょ? だから、バイトのフリして潜入してるんだ」

「ああ」


 俺は素直に頷いた。


「ひまりが危険な目に遭ってないか確認したかった。過去のこともあるから……」


 俺は、かまをかけて言ってみた。

 ひまりの「過去」について、俺は何も知らない。

 しかし、きらりと同じグループのRINを疑っていると言うと、俺が敵だと認識される可能性がある。

 ひまりに危険がないとわかれば何でもいいと思ったが、きらりはすぐに頷いた。


「あー……前のグループのこと?」


 前のグループ、とは。

 ひまりが所属していたStarry@Prismのことだ。

 今は解散して、ひまり以外のメンバーは芸能活動を引退した、としか知らないが、俺は話を合わせた。


「そう。ひまりは今も悩んでるみたいだから」

「うん……ひまちゃんって、ほんとに責任感が強いよね。そんなに背負わなくてもいいと思うんだけど……」

「ひまりから少し事情は聞いたが、何か助けになれないかと思って」

「そうなんだ……ひまちゃんを心配してくれる人が近くにいて良かったよ」


 きらりが笑顔で言う。

 それなりに信用してもらえたようだ。


「ひまちゃん、最近やっと本気になってきたし、君のおかげだね」

「……俺は何もしてない」

「してるよ。ひまちゃん、君のこと『応援してくれる人』って言ってたもん。それで、君に守ってほしいって思ってるんだよ、きっと」

「……」


 俺は黙り込んだ。

 人気投票の中間発表のことで、ひまりを傷つけてしまったばかりだ。俺がひまりを守れているのだろうかと心配になる。


「あ、そうだ!」


 きらりが突然、明るい声で言った。


「実は、今はわたしの方が危険な目に遭ってるんだ」

「危険な目?」


「そ。ストーカーになっちゃったファンがいて、この会場でイベントする時は絶対参加してるから、多分今日も来てる」

「それは、危険な状態だな」

「ねー?まぁ慣れてるけど」


 命の危険がある状態だと思ったが、きらりは世間話のように軽く話している。

 今もマネージャーをつけないで一人で会場の近くにいて、危機感が欠けているように見えた。


(それとも、本当に自分なら大丈夫だと思ってるのか……?)


 俺が考えていると、きらりは俺の額に人差し指を突き付ける。


「今日、君がわたしのこと守ってくれたら、ひまちゃんの過去のこと、教えてあげる」

「取引か」

「うーん?それよりも、君がどれくらい使えるか、試してみたいんだ」

「使える?」


 アイドルのきらりにしては、冷静な言葉だった。

 きらりは笑顔のまま頷く。


「そう。だって、役に立たない人に教えたって、ひまちゃんのためにならないでしょ」

「確かにそうだな」

「うん、ひまちゃんを守ってほしいのは、本当だし」


 きらりの目が、一瞬だけ鋭く光る。

 その真剣な瞳を見て、俺はきらりの取引に乗ることにした。


「……わかった」

「よろしくね!嘘つきの騎士様」


 きらりは嬉しそうに言って、チョコレートの箱を俺に渡した。


 -----


 会場に戻ってきらりと別れる。


 同じバイトたちはどこに行ったのだろうと探していると、先にバイトリーダーに見つかってしまった。


「おい、お前!そこで何してるんだ!?」

「すいません。荷物運びを手伝えって設営業者に言われて、会場の中に入ってました」

「何だと……?どこの業者だ?」


 バイトリーダーに尋ねられて、俺は適当に近くにいた作業着のスタッフを指差した。

 バイトリーダーは文句を言うために走っていく。申し訳ないと思うけれど、Re⭐︎LuMiNaのきらりに連れ回されたと白状しても仕方ない。

 もうこのバイトは辞めよう、と俺はシャツと帽子を脱いで会場の隅に隠した。


 一般客に戻って会場内を歩いていると、室内のステージでRe⭐︎LuMiNaのライブが始まるとアナウンスが入った。

 屋外の大きなステージではなく、中規模の室内会場。観客席は200人程度が入る広さで、外の客が一斉に中に押し寄せてくる。


(外の会場の方が、たくさんの客が見れるのに……)


 俺は少し違和感を覚えた。


 きらりや麗奈のような人気メンバーがいるのに、なぜ大きなステージじゃないのか。

 しかし、四方から見ることができる外のステージと違って観客席は正面だけだから、警戒すべきポイントも少なくなる。

 観客席の前方には警備スタッフが並んでいるし、興奮した客がステージに登ってくることはないだろう。


 ライブが始まり、Re⭐︎LuMiNaのメンバーがステージに登場した。

 きらりは満面の笑みで手を振る。ストーカーに怯える様子は全くない。

 麗奈は安定した歌声で、ゆめはファンサービスに夢中になっている。RINは相変わらず無表情のまま、完璧なダンスを披露していた。


 そして、ひまりはちゃんと笑顔を作っていて、ダンスも歌も前よりも上達していた。

 最近、放課後に練習ができなかったから、ひまりの姿を見るのは久しぶりな気がする。


(なんだか、ひまりと遠いな……)


 ひまりは、観客席を全て見ていて、全員と目を合わせようとしているようだった。

 しかし、俺は観客席の後方で意識して気配を消しているから、ステージから俺に気づくことはないだろう。


(RINの方は、相変わらずだな)


 RINは無表情で笑顔一つ見せないが、ダンスのレベルは高い。

 一人だけアクロバティックな振りを入れられているが、楽々こなしていた。グループの中で目立っているから、ファンから注目されるのもわかる気がする。


 そして、実際のところ、三桁のRINの実力がどの程度なのか気になる。

 俺はきらりのストーカーを探すついでに、隠していた気配を一瞬だけ元に戻してみた。


 その瞬間、RINがステージ上で動きを止める。

 すぐに俺の方に視線を向けたが、観客の中にいることはわかっても俺個人を特定はできていない。


(気づいたか……150なら三桁でも上位だし、そのくらいはできるか)


 そして、肝心のきらりのストーカーの方は、全くわからない。

 全員がRe⭐︎LuMiNaのパフォーマンスに夢中になっている。きらりのストーカーも、元がファンなら今は敵意よりもライブを楽しんでいるだろう。


(ライブが終わってから考えるか……)


 俺は今は諦めて、一観客に戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ