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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


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#36 素直に喜べなかったのは、複雑すぎる推し事情のせいだった件

 放課後、いつもの練習が終わった後もひまりはいつもよりも元気だった。

 このテンションの高さは、周と春藤が付き合い始めたことだけが理由ではない。


「昨日の中間発表、4位だったな」


 校門に向かいながら俺が言うと、ひまりは少し照れたように頬を染めた。


「うん! 最下位脱出だよ。中間発表だから、まだ気は抜けないけど!」


 ひまりの足取りは軽い。

 確かに、1位の差でも最下位と4位は大きく違う。ひまりが腐らずに努力し続けた結果だ。


「ひまりは、4位で満足なのか?」


 俺の言葉にひまりは少し視線を迷わせたが、こくりと頷いた。


「うん、もっと上に行きたいって思うけど……でも、前より上がったんだもん。嬉しいよ」


 ひまりの言う通りだ。


 メンバーが変わらないし、活動にも大きな変化はないのに、ひまりは順位を上げた。

 アイドル活動をしているだけでも大変なのに、人気投票で戦っている。

 不特定多数の顔も知らない誰かから票を入れてもらうなんて、それだけで凄いことだ。


 それは理解しているのに、言わずにはいられなかった。


「俺は、ひまりが4位なのは悔しい」


 ひまりの顔から笑顔が消えて、目を丸くして俺を見つめる。


「ひまりが頑張っているのが認められないのは嫌だ」

「類くん……」


 ひまりは慌てた様子で俺の正面に向き合った。


「そ、そうだよね!わたし、類くんにダンス教えてもらってるのに……」

「……いや」


 俺は言葉を止めた。


(違う……)


 俺の言葉に嘘はない。

 ひまりなら、もっと上の順位を目指せるはずだ。


 しかし、こんなことをひまりに言ったのは、ひまりを応援しているからではない。

 理由は、RINだ。

 俺と同じあの組織の人間が、ひまりと同じようにアイドルをやっている。

 それは別に構わない。好きにすればいいと思う。

 しかし、アイドルになろうとしているひまりよりも、組織で真逆の目的で訓練されていたRINの方が評価されているのが気に入らない。


 俺は、ひまりを自分の代わりにRINと競わせて、勝たせようとしているだけだ。


「類くん?」


 ひまりが不思議そうに尋ねる。


「悪い、何でもない。忘れてくれ」


 俺は視線を逸らした。


「類くん……」


 ひまりは不安そうな様子で、そのままぎこちなく分かれ道に着く。


「類くん!また明日ね」

「ああ」


 ひまりが無理矢理元気にそう言って、小走りで帰って行く。

 その背中は、いつもより小さく見えた。


(……最低だな、俺は)


 ひまりに気を遣わせた。

 俺の機嫌を損ねないように、無理に明るく振る舞っている。

 本当なら、4位になったことを喜んで、一緒に祝うのでよかったのに。

 そして、その後にもっと頑張って上を目指そうと発破をかけるのが正解だった。

 ひまりだって、本当だったら1位を目指しているはずだ。

 組織のことも、RINのことも、ひまりには関係ないし、言ってもどうにもならないことなのに。

 天音に指摘されたとおり、単に俺がRINのアンチになっているだけかもしれない。


 ーー


 自己嫌悪に陥りながらスマホを見ると、ちょうど通知が届いた。

 鴉からのメッセージだ。

 RINのことを聞いてから既読が付いていなかったが、やっと電波が通じるところに移動したのだろう。


『類の同期』『150』


 短いメッセージが続いて、俺は鴉を逃さないようにすぐに『同期?』と返事を返した。


 鴉からすぐに返事が来る。


『覚えてないのか?』

『三桁なんて、任務で組まないと覚えない』


 俺が返すと、鴉からの返事が一度止まった。

 仕事に戻ったのかと画面を見ていると、3分程度してから返事が返ってくる。


『組織の記録では、類と12回、任務で組んでいる』


 鴉は、この3分弱で組織の厳重なデータベースに侵入して、俺が担当した任務の記録を調べたらしい。

 12回。

 動ける三桁は便利に使われるから、記録に残っていない分も含めると20回程度は組んだことがあるはずだ。


『覚えてないのか?』


 鴉がもう一度尋ねてくる。


 それならお前は任務で組んだ三桁を全員覚えているのか。

 そう鴉に聞いてやることも考えたが、鴉のことだから一度組んだ人間も、顔を見ただけの他の三桁も全員記憶している。


『三桁が、どうしてアイドルなんてしているんだ?』


 俺は話題を変えることにして、鴉に尋ねた。

 鴉からすぐに返事が来る。


『1年前に日本の企業に買われている。用心棒として働いていたんだろうが、その企業が半年前に倒産した』


 なるほど、と少し納得した。

 その企業に買われて組織を出たが、雇い主が無くなって無職になってしまった。

 行き場もなく路頭に迷い……というところまでは理解できたが、その後にアイドルを目指す理由がわからない。


『RINがアイドルをしているのは、何かの任務なのか?』


 俺が尋ねると、鴉からの返事が止まる。

 どこかのデータを探っているのかと期待して待ったが、見当違いの返事が返ってきた。


『類も高校生じゃなくてアイドルがよかったか?』

「……違う」


 返信よりも先に、思わず口から言葉が漏れた。


『ひめさきひまりの人気投票はどうなったんだ?』


 続けてきた鴉のメッセージを見て、俺はスマホを握り潰す前にメッセージ画面を閉じてカバンにしまった。

 鴉に頼っても無駄だ。いい加減、学習しなければ。


(文化祭の様子だと、RINは俺が覚えていないことを気にしていた……)


 12回も任務で組んだから、RINは俺を覚えていた。

 それなのに俺の方は全く覚えていない。舐められている、と感じたかもしれない。

 文化祭でRINが怒ったことは、おそらく理解できた。


 しかし、その前のお話し会でも、RINは俺に「調子に乗らないで」と釘を刺している。

 RINは俺に対して何かしようとしているのかもしれない。

 そうなると、俺と同級生のひまりが取引材料に使われる可能性がある。


(少し、調べてみるか……)


 スマホを再び取り出して、Re⭐︎LuMiNaの公式サイトを開いた。

 直近のライブは今週末。


 天音に聞けば、会場の詳しい様子も教えてくれるだろう。

 ひまりに危険がないか確認したい。

 そして――


(RINが本当にひまりを超えるくらいのアイドルなのか)


 それを、自分の目で確かめたい。

 もし、RINが俺に怒っていて態度が悪いだけで、本当は真面目にアイドルをやっているなら。

 俺の中のモヤモヤも少しは晴れるはずだ。


(そうしたら、ひまりにちゃんと謝れそうな気がする)


 俺はスマホをカバンにしまって、家へと向かった。

 心の中には、妙な焦燥感と決意が入り混じっていた。

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