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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


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#35 中間発表の順位よりもあの一言に揺らされている件

 キッチンにいると、リビングから天音のスマホの音声が聞こえてくる。


『Re⭐︎LuMiNa インスタライブ人気投票・中間発表!』


 きらりの明るい声が響いた。


『それでは、第5位から! 中間発表、5位は~……橘ゆめ!』


 橘ゆめの悲鳴が聞こえる。


 ゆめは、最近インスタライブで恋愛系の相談が来るたびに、女性目線で男性に厳しい回答をしていた。男性ファンから若干嫌われ始めていて、このタイミングだと順位に影響すると予想していたが、狙い通りだ。


『ゆめ!まだ逆転のチャンスはあるから!そして、第4位はー……ひまりちゃーん!!ひまりちゃん、最近すごく成長してるもんね!』


「あー!4位かー!」


 天音の声がして、俺はキッチンからリビングに向かった。


 スマホの画面では、ひまりが嬉しそうな顔をしている。

 前回5位だったのだから、順位は確かに上がっているが。

 きらりは続けて次の順位が書かれているスケッチブックをめくる。


『そしてそしてー!第3位は……RIN!』


「RINちゃん、強いよなぁ……」

「どうしてRINがひまりより上なんだ」


 俺は思わず天音に尋ねた。


 無表情で不愛想なRINよりも、ひまりの方が正統派アイドルだ。

 そして、RINは俺と同じ組織の人間で、アイドルに向いているとは思えない。


「あのねー、お兄ちゃん。こういうのは他のメンバーを下げても仕方ないんだよ」

「お兄ちゃん、鍋が焦げるわよ」


 キッチンから俺の料理を監視していた母親の詩子の声が聞こえた。

 俺は一度キッチンに戻る。

 コンロの火を弱めて、またリビングに戻った。

 その後は、2位が麗奈、1位がきらりと予想通り、前回と同じ結果だ。


「RINは、アイドルをやるような人間じゃない」

「お兄ちゃん、もしかして、RINちゃんのアンチ?うーん……信念を持つアンチなら天音は何も言えないけど、グループ推し始めて数ヶ月でアンチなんて早すぎだよー」


 そういうわけではない、と俺は言葉に迷った。


 RINは顔だけなら可愛いし、小柄で運動神経が良くてダンスも歌もうまい。

 驚異的な身体能力。無表情の裏に隠された、研ぎ澄まされた観察眼。ステージ上でまるで戦場にいるかのような緊張感。

 それは、組織でそういう風に訓練されたから。

 その訓練は、アイドル活動をして人を喜ばせるためではなく、全く逆の目的があったはずだ。

 そう説明するわけにもいかずに黙っていると、天音は熱く語り出した。


「あのね、お兄ちゃんだけが知っているひまりちゃんのいいところがあるように、RINちゃん推しの人だけが知っているRINちゃんのいいところもあるんだよ」

「そうだろうけど」

「そしてそれは!推しと自分だけの大切な思い出!絆!インフィニティ!だから、人にひけらかしたりしないの。推しが違う人と意見が合わないのは当然でしょ」

「……なるほど」


 天音の言葉に、俺は黙り込んだ。


 天音は時々、中学生とは思えない達観した意見を教えてくれる。

 推し活というのは俺が考えているよりも奥が深いのかもしれない。


「類くん、お鍋焦げちゃうってば」


 キッチンから母親の声がして、俺はまた戻った。


 インスタライブは『引き続き投票お願いします!』とメンバー全員の挨拶で終了して、天音がキッチンについてくる。


「お兄ちゃん、今日の晩御飯は何?」

「レシピ本の10ページ目」

「あのねぇ、まずは料理名を覚えるもんだよ。お母さんがいるから大丈夫だろうけど」


 天音は明るく言った後、溜息を吐いた。


「でもさ、やっぱり、ひまりを1番にしてあげたいなぁ……」


 その気持ちはわかる。

 俺は鍋の中身を確認しながら頷いた。


 ーー


 翌日、登校するとひまりが駆け寄ってきた。


「類くん!重大なお話があります!」


 いつもより明らかにテンションが高い。


 人気投票中間発表4位が相当嬉しかったのかと思ったが、ひまりの横に春藤と周がいる。

 周が朝に登校してすぐに寝ているのはいつものことだが、今日は魂が抜けたように机に突っ伏していた。


「帆夏ちゃんと周くんが、付き合い始めました!」


 帆夏とは春藤の下の名前だ。

 俺は2人が付き合い始めたことよりも、ひまりが女子生徒を下の名前で呼ぶほど仲良くなったことの方に興味があった。

 しかし、春藤とひまりは2人で俺が興味がない方の話題を教えてくれる。


 曰く、文化祭の帰り道、最後まで片付けをしていた委員2人は一緒に帰宅をした。

 2人は幼馴染で家も隣同士。

 文化祭で疲れ果てた周が、やっと家に帰れると玄関で別れようとした時、春藤が周の腕を掴んで、『付き合ってくれるまで離さない』と言い出した。

 周が疲れたから帰りたいと泣いて抵抗しても離してもらえず、何だ何だと両家の親が出揃ったところで周が折れたらしい。


「いいなぁ……告白ってきゅんきゅんするよね……」


 いや、ゾッとした。

 俺は口には出さなかったが、動かない周を眺めて女子の恐ろしさを実感していた。


「やっぱり、無闇に条件を追加しないで粘った方が効果があるのかな?」

「まあね!まずは外堀から埋めていって、あとは一気に攻めていった方がいいみたい」

「へぇー……まずは、外堀……」


 ひまりが何か熱心にメモをしながら春藤に質問している。

 春藤の経験を、何に使うつもりなのだろうか。


 俺は動かない周を突いた。周はよろよろと頭を起こす。


「どうだ……一足先に彼女ができた俺が羨ましいか……?」

「いや、全く」

「嘘でもいいから、羨ましいって言えよ!」

「可哀想だなと思った」

「くっそ!この正直者め!!」


 周は悪態を吐いたが、それほど落ち込んだ顔はしていなかった。

 俺以上に正直者の周だから、本当に嫌だったら春藤を振り払って家に帰っただろう。


「羨ましくはないけれど、よかったんじゃないか?」

「まぁそうだな……無理矢理やってくれないと、俺のことだから付き合えなかっただろうし」


 周は観念したように呟いた。


 俺には幼馴染がいないからわからないけれど、好きな者同士でも恋愛に発展するのはエネルギーが必要なようだ。

 覇気のない周と、暴風雨のような春藤。お似合いのような気がする。


 そんなことを考えていると、ひまりが俺に囁いた。


「ね、類くん、文化祭前に話したこと、覚えてる?」


 ひまりに言われて、文化祭前に春藤と周が付き合うかどうかで賭けをしたことを思い出した。


「俺は告白するかどうかを賭けていたんだ。春藤がやったのは脅迫だ」

「告白は告白だよ。『付き合ってくれるまで離さない』って言ったんだから、立派な告白だよ!」

「……」


 確かに、そう言われればそうだ。

 俺が渋々頷くと、女の勘で勝利したひまりは嬉しそうに笑う。


「やったね。恋愛マスター類くんに勝った!」

「負けた方がなんでも一つ言うことを聞くんだっけか?何がいいんだ?」


 俺が尋ねると、ひまりは少し照れたように頬を染めて黙った。


「あんまり高い物は無理だ」

「ううん、お金じゃないよ。類くんに……してほしいことがあるんだけど」


 ひまりが俺の目を見つめる。


「してほしいこと?」


「うん。でも、今言ったら嘘になっちゃうかもしれないから……もう少し、勇気を出してから言うね」


 ひまりの声が、少しだけ震えていた。

 その瞳は、いつもより真剣でまるで、何か大きな決断をしようとしているようだった。


「わかった。決まったら教えてくれ」

「うん!絶対に言うから、待っててね!」


 ひまりはそう言って、顔を赤くしながら席へと走っていった。


(一体、何を頼むつもりなんだ……)


 ひまりの背中を眺めて考える。


 文化祭の最後に、ひまりが言っていた言葉は今でも覚えている。

 いつか、ひまりが俺を見て言ってくれるまで待つつもりだったが。

 俺の胸の中には妙な期待と不安が入り混じった感情が渦巻いていた。

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