表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/55

#18 元アイドルという便利な肩書をゲットした件

「ひまりは、少なくとも3位にはなれる」


 放課後、練習の前に作戦会議を開く。

 頼んでもいないのに天音がいつも教えてくれる意見を参考にして、客観的な意見を言ったつもりだ。しかし、ひまりは難しい顔で首を傾げた。


「うーん……」

「まず、RIN。こいつは、どうしてあの不愛想で人気が出るんだ?」


 スマホの画面でRe⭐︎LuMiNa公式HPメンバー紹介の、RINの画面を表示する。

 加入して半年。プロフィール欄の誕生日や血液型は未記入で、本人のコメント欄には「がんばる」と4文字だけ書かれている。


「それはね、前回の人気投票が公開オーディションの直後で注目されてたのと、不思議キャラで固定ファンがついてるからだよ。RINちゃんはちょっと変わった子だけど、わたしも嫌いになれないんだ」


 ひまりはメンバーのことが好きらしい。

 それはいいが、現在最下位のひまりが上に行くには、メンバーを蹴落とさなくてはならない。


「それから、Re⭐︎LuMiNaのメンバー構成でクール系が2位なのは異質だと思う」

「あー麗奈ちゃんね」


 麗奈の紹介ページを表示すると、ひまりは、よくぞ聞いてくれた、というようにうなづいた。


「麗奈ちゃん、きらりちゃんみたいにTVは少ないんだけど、舞台のお仕事が多いんだ。だから、違う層のファンを連れて来てくれるの」


 ひまりがスマホの画面をスクロールして、麗奈の仕事歴を表示する。

 3歳で子役デビュー。その後も、ミュージカルや舞台をRe⭐︎LuMiNaの活動と並行して続けている。


「それにね、お話し会とかで実は神対応なんだよ。意外でしょ。わたしも推すなら麗奈ちゃんかなぁ……人気が出るはずだよ。一度来たファンの顔と名前は絶対忘れないんだって」

「……そうか」


 わかっているなら、やれ。

 と、俺は口に出さなかったが、僅かな沈黙でひまりは俺が言いたいことに気付く。

 傍らに広げたままだった英語の補習課題をそっと陰に隠す。


「あの、わたしは、記憶力がダメダメだから……その、ダンスと歌で頑張る!」

「まずはその方向性がいいかもしれない」


 ひまりは、ダンスも歌も下手ではない。が、飛び抜けて上手くもない。

 一般的なアイドルの中では上手い方だが、きらりと麗奈の横では見劣りしてしまう。


「じゃあ、踊ってみろ」


 曲を流すと、ひまりは決められた動きを完璧にこなしている。

 だが――


(……まだ足りない)


「……止まれ」


 ひまりが動きを止める。


「どうしたの、類くん?」

「お前、動きは完璧だ」

「本当?!」


 ひまりが嬉しそうに笑う。


「でも、観客の目を引きつける力が弱い」


 その言葉に、ひまりは――少しだけ、戸惑った表情を浮かべた。


「観客の目を……引きつける?」

「ああ」


 俺はスマホを取り出し、Re⭐︎LuMiNaのライブ動画を開いた。


「これ、センターのきらりを見てみろ」

「うん……」


 ひまりが画面を覗き込む。


「きらりは、常に観客の目を意識してる。顔の向き、手の動き、視線――すべてが、観客に向けられてる」


 俺は続けた。


「だが、お前は違う。お前は、ダンスに集中しすぎてる。動きは完璧で顔は観客に向いているが、観客を見ていない」


 ひまりは――少しショックを受けたような顔をした。


「わたし、みんなを見てるよ!」

「見てない。正確には、見てるけど――意識が向いてない」


 俺はスマホを置いた。


「アイドルは、ダンスを踊るだけじゃダメだ。観客の目を引きつけないと、印象に残らない」

「それって、どうすれば……観客の目を引きつけられる?」

「相手の視線を、自分の望む場所に誘導する。人間は、動いてるものに目が向く。特に、急な動きや大きな動きには、無意識に視線が行く」

「へぇー……」

「アイドルも同じだ。観客の視線を、自分に向けたい時――動きを大きくしたり、急に動いたりすればいい」


 ひまりは――真剣な表情で頷いた。


「でも、それだけじゃ足りない。視線を引きつけたら、次は――視線を固定する」

「固定……?」

「ああ。視線を固定するには、相手の目を見ることが重要だ。ステージから観客全員の目を見ることはできない。だが、視線を観客席に向けることはできる」


 ひまりがうなづいて、俺は続けた。


「観客は、アイドルが自分を見てくれたと錯覚する。そうすると、視線が固定される」

「なるほど……」


 音楽を流して、同じところを繰り返す。

 ひまりは、今度は意識的に視線を観客に向けようとしている。


「今のターンの時、視線が下を向いてた」

「え……そうだった?前向いてたけど……」

「前を向くのと観客を見るのは違う。視線は観客に向けろ。そうすれば、観客の目を引きつけられる」

「う、うん……」

「もう一度」


 ひまりは再び踊り始めた。今度は視線が改善されている。


「いい。だが、まだ体の使い方が甘い」

「体の使い方……?」


 俺は立ち上がった。


「ひまりは、踊る時に力が入りすぎてる」

「力が……入りすぎ?」

「力を入れるべき場所と、抜くべき場所がある。それを理解しないと、動きが硬くなる」

「どうすれば……」

「もう一度、サビの最初から踊れ」


 ひまりは音楽を流し、サビの部分を踊り始めた。

 俺はひまりの動きを観察する。


「今のポーズ、そのまま」


 ひまりがぴたりと動きを止めて、俺はその背後に回った。


「重心が、前に偏りすぎてる」


 そう言って、俺はひまりの腰に手を置いた。


「ひゃっ!」


 ひまりの体がびくんと跳ねる。顔が真っ赤になる。


「こ、腰……」

「重心は、ここだ」


 俺は腰の位置を軽く押した。


「もっと後ろに重心を置け。そうすれば、バランスが取りやすくなる」

「あ……う、うん……」


 ひまりは必死に頷く。

 ひまりの顔が赤くなっていたが、見ないふりをした。


「ほら、重心を後ろに」

「は、はい……」


 ひまりは言われた通りに重心を移動させる。


「その位置だ」


 俺は手を離そうとしたふと、気づいた。


(……ひまり、体が硬いな)


 ひまりの背中と肩が、凝り固まっている。これでは可動域が狭くなって、動きに制限が出るはずだ。


(少し荒治療だが……まぁいいか)


 俺はひまりの肩に手を置き直した。


「る、類くん……?」

「じっとしてろ」

「え、何を――」


 次の瞬間。

 俺はひまりの上半身を、ぐいっと捻った。


 ゴキッ!

 鈍い音が響く。


「みぎゃっ!」


 ひまりが変な悲鳴を上げて地面に転がった。


「……っ!い、今の音!?今の音、何!?」

「骨が鳴っただけだ。痛いか?」


 ひまりは自分の体を確認して、恐る恐る肩を動かした。


「い、痛くは……ないけど……あれ……? なんか、軽い……?」

「凝ってた。可動域が狭くなってたから、直した」

「直したって……あんな、ゴキッて……」


 ひまりはまだ信じられないという顔をしている。


「類くん、整体師か何かだったの!?」

「違う」

「でも、今のプロの技だったよ!普通の高校生があんなことできないよ!」

「昔から体のメンテナンスは、自分でやってたから」

「体の、メンテナンス……?」


 ひまりが不思議そうに首を傾げる。


「ひまり、普段からストレッチしてないだろ」

「え、えっと……お風呂上りにしてるけど、寝ちゃうときがある、かも……」

「毎日やれ。じゃないと、また固まる」

「は、はい……」


 ひまりは真っ赤だった顔がすっかり引いて、呆然としていた。


(……あれ? さっきまでのどきどきが……)


 完全に霧散していた。


「なら、続けるぞ」

「う、うん……」


 それから、さらに一時間ほど特訓を続けると、ひまりの動きは明らかに良くなっていた。

 重心が安定し、動きに芯が通っている。視線も、しっかりと観客を意識している。


「……すごい。自分でも分かる。体が、軽い」


 ひまりは目を輝かせた。


「これなら、本当に一番上手になれちゃうかも!」

「ああ、今日はここまでにしよう」


 俺はそう言うと、ひまりは息を切らしながら座り込んだ。


「はぁー……がんばった……」

「疲れたか?」

「うん!でも……すごく、勉強になった!」


 ひまりは笑顔で続けた。


「類くんの教え方、本当にすごい。わたし、こんなに成長したの初めて」

「そうか」


 俺は適当に返事をした。


「ねぇ、類くん」

「なんだ」


 ひまりは――少し真剣な表情で俺を見た。


「類くんって……本当に詳しいよね」

「まあな」

「体の使い方も完璧に理解してるし、さっきの整体みたいなのもできるし……」


 ひまりは少し考え込むような顔をした。


「どこで、そんな技術覚えたの?」


 その質問に、俺は少しだけ躊躇した。


「昔、体を鍛える訓練をしてた」


 俺は曖昧に答えた。


「訓練……?」


 ひまりの目が見開かれる。


「訓練って……もしかして……」

「……」

「類くんも……アイドルやってたの!?」


 その言葉に、俺は固まった。


「……え?」

「だって、そうじゃないと説明つかないよ!」


 ひまりは興奮気味に続ける。


「ダンスも完璧だし、体の使い方もプロ並みだし……これって、アイドルとして訓練受けてたってことだよね?!」


(……そういう勘違いか)


「類くん、昔アイドルだったんだ……すごい……」


 ひまりは感動したような顔をしている。


「男性アイドルグループ?!わたし、知ってるかな?!」


 俺は否定すべきか、迷った。

 だが、暗殺者だったと言うよりは、アイドルだったと思われる方が都合がいい。


「……まあ、な」


 俺は曖昧に答えると、ひまりは更に目を輝かせた。


「やっぱり!だから、こんなに詳しいんだ!でも、今はやってないって、こと……?」

「色々あったから」


 俺は答えを濁すと、ひまりは少し寂しそうな顔をした。


「そっか……うん、色々あるよね……でも、親近感湧いちゃうな。わたしたち、同じ道を歩いてたんだね」


 その言葉に、俺は少しだけ、罪悪感を覚えた。

 全力でアイドルをやっているひまりに、嘘をついてる。

 だが、真実を言うわけにはいかない。


「……そうだな」


 俺は曖昧に頷いた。

 ひまりは――嬉しそうに笑った。


「じゃあ、これからも色々教えてね! 先輩!」

「……先輩?」

「だって、類くん元アイドルなんでしょ? じゃあ、わたしの先輩だよ!」


 ひまりは笑いながら続けた。


「先生であり、先輩。類くんって、わたしにとってすごく大切な人だね」


 その言葉を聞いて、俺は複雑な気持ちになった。

 俺は嘘をついている。だが、ひまりに余計なことを言って、俺と同じ世界に引き込みたくない。


(好都合だし、このまま、誤魔化し続けるか)


 暗殺者だったと知られるよりは、ずっといい。俺はそう自分に言い聞かせた。


 -----


 その頃。

 校舎裏の茂みの中。


 一人の少女が、スマホを握りしめていた。黄色いリボンをつけた、小柄な少女、燐。


(あの人、何者?)


 燐は、先ほど見た光景を思い返していた。

 類が、ひまりに教えている姿。


(訓練されてる。しかも、かなり高度な)


 体の使い方、攻撃、防御、そして、殺人術。

 スマホの画面には、類の後ろ姿が映っている。


「絶対に、守らないと」


 燐は誰にも聞こえないように呟く。

 そして――誰にも気づかれることなく、その場を離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ