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元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている。  作者: 甘酢ニノ


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#10 普通の高校生が普通の家族の話をする普通の日常

 昼休み。

 俺は屋上にいた。

 今日も一人で弁当を食べながら、スマホでドラマを見ている。


 平成初期の家族ドラマ。

 母親が息子の進路について悩むシーン。


(……普通の家族は、こういうことで悩むのか)


 そんなことを考えていると――。


「兎山さん」


 振り返ると、ひまりが立っていた。

 手には弁当箱を持っている。


「一緒に食べてもいいですか?」


 ひまりは、少し前まで女子のグループに入って弁当を食べていた。

 ひまりと同じような地味目な女子たちで、色恋絡みでひまりを無視するようなタイプの生徒ではなかった。

 でも、女子の上位グループの決定に逆らえるようなタイプにも見えなかった。

 ひまりに冷たく当たるのが、今のクラスの流れのようだ。


「……迷惑、ですか?」

「別に、いい」


 俺はスマホをポケットにしまった。

 ひまりは嬉しそうに笑って、俺の隣に座った。


 -----


「兎山さんっていつもお弁当ですか?」

「ああ、親が作ってくれる」


 俺はいらないと言ったのに、天音のついでだと毎日待たされていた。

 本当についでに作っているようで、時々ご飯に海苔で顔が付いていたりキャラクターのかまぼこが入っていたりする。


「強羅は?」

「わたし、今日はお母さんが作ってくれました」


 ひまりは嬉しそうに答えた。


「わたしがアイドルやってること応援してくれてるんです。だから、栄養バランス考えて、毎日お弁当作ってくれて」


 ひまりは少し照れくさそうに笑う。


「家族、仲いいんだな」


「はい。お父さんも、お母さんもみんな応援してくれてます」


 ひまりは笑いながら続けたが、ふっと表情が陰った。


「でも、迷惑ばかりかけて、ちょっと申し訳ないなって思ってて」

「迷惑って?」

「その……色々あって……それに、人気順位は再会だし……」


 ひまりは俯いた。

 俺は少し考えて、口を開いた。


「頑張ってるのに報われない子って応援したくなる」

「な、なんですか?」

「天音が言っていた。だから、最下位でも悪いことばかりじゃない」


 一ファンの言葉を伝えたが、ひまりは吹き出して笑う。


「それって、あんまり慰めじゃないような……」

「多分家族も、強羅が頑張っているから応援したくなるんだ。だから、気にするな」


 俺は素直に言った。

 ひまりの頬がぽっと赤くなる。

 照れたのを隠すようにひまりは話を変えた。


「あ、あの!兎山さんは?家族と仲いいですか?」


 その質問に、俺は少し考えた。


「普通だと思う」

「普通、ですか」


 俺はうなずいた。

 家族ドラマは日本のものも海外のものも観ている。

 俺は普通の家族に関して、かなり詳しいと自負している。

 おそらく、家族仲は普通よりやや上くらいだ。


「母さんと妹とはよく話す。父さんは……最近会っていない」

「え……」


 ひまりが驚いたように顔を上げる。


「仕事で遠くにいるんだ」


 俺は適当に誤魔化した。

 実際には、父・鴉は身を隠している。家族に危険が及ばないように。

 だが、それをひまりに言うわけにはいかない。


 少しだけ、箸を握る指に力が籠った。


 鴉。

 あいつの下で、俺は暗殺者として生きるはずだったのに。

 だが、ある日突然、仕事をやめてしまった。


 そして、俺を普通の高校生として生きろと言って兎山家に連れて行き、本人は姿を消してしまった。


(……今、何をしているんだか)


 俺は、鴉を少しだけ恨んでいる。

 暗殺者として生きることしか知らなかった俺を、いきなり「普通」の世界に放り込んだ。

 何の準備も説明もなく。

 今の生活は、悪くない。

 けれど、過去を忘れることはまだできなかった。


「そう、なんですか……」


 ひまりは少し寂しそうに言った。


「でも、妹さんと仲良しですよね。いつもライブは一緒に来てるし」

「天音のこと、わかるのか?」

「はい。他のメンバーも認知してますよ」


 ひまりは誇らしそうに言った。

 俺は少し驚く。

 Re⭐︎LuMiNaのライブは規模は大小あるが、いつも観客で埋め尽くされている。

 その中でファンを一人一人区別できているのはすごいことのように思えた。


「女の子は少ないし、あとかっこいい連れがいるけど彼氏かなって噂してます……って、うわっ!あの、兎山さんがかっこいいって言ってるわけじゃなくて、いや、かっこいいですけど!メンバーが!他の子が言ってるんです!」

「そうか」


 ひまりは突然声を大きくして、あわあわと言い訳のようなことを言い始めた。

 どうやら俺の容姿を褒めてくれたらしい。

 しかし、俺は周に言われたことと、自分のアンチスレが立っていることを考えると喜ぶところでもないなと考える。


「……」

「……」


 ひまりが黙ると、2人きりの屋上は静かになった。


 風が吹いて、ひまりの髪が揺れる。


 俺は、周の言葉を思い出していた。

 クラスの女子が、ひまりを敵視している。

 ひまりが、冷たい視線を向けられている。


 ひまりはどう考えているのだろうか。

 なにか俺にできることはないのか。


「……強羅は」


 俺が尋ねようとした、その時――。


「兎山さん」


 ひまりが、俺の言葉を遮った。


「わたし……大丈夫です」


 ひまりは、俺をまっすぐ見つめた。


「え……?」

「兎山さんも気付いてるんでしょう?わたし、最近……クラスで、何人かの子に冷たくされてます」

「……」

「でも、大丈夫です」

「……大丈夫じゃないだろう」

「いえ、大丈夫です」


 ひまりは、俺をまっすぐ見つめた。


「わたし、兎山さんに練習を見てもらってるだけで、やましいことはしていません」

「……」

「だから、堂々としてます。誰に何を言われても、私は間違ったことをしていません」


 ひまりの目には、強い意志が宿っていた。


「それに……兎山さんがいてくれるから、私は頑張れるんです」

「……」

「これからも、お願いします」


 ひまりは、力強く頭を下げた。


「……」


 俺は、少しだけ驚いた。


 ひまりは、思っていたよりもずっと強い。

 周囲の冷たい視線にも、負けていない。

 自分で気づいて、自分で受け止めて、自分で決意している。


「……分かった」


 俺は頷いた。


「それなら、俺も気にしない」

「はい!」


 ひまりは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます、兎山さん」


 ひまりは嬉しそうに笑った。

 本当は、礼を言うのは俺の方だ。


 ひまりを守るために、今の平凡な生活を続けていく。

 そんな風に考えるのも、悪くない気がしてきた。

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