#9 クラスで噂になってる関係と役立つ友人がいる件
月曜日の朝。
俺は、いつも通り早めに登校した。
今日の授業の予習をしていると、周が賑やかに登校してくる。
「おー!類!見たぞー!」
周がいつもより大きな声で呼びかけてきた。
「何を?」
「昨日、Re⭐︎LuMiNaのライブ、行ったんだろ?」
「なんで知ってる」
「SNSで見た。『Re⭐︎LuMiNaのライブに例の無表情イケメンがまたいた』って話題になってる」
周がスマホを見せてくる。
そこには――隠し撮りされた俺の姿が映っていた。
「……最悪だ」
「有名人じゃん。『謎のイケメン』って呼ばれてアンチスレが立ってる」
「……有名になりたくない」
しかし、あの会場の主役はアイドル達だ。
一観客のことなど、どうせすぐに飽きられるだろう。
俺は気にするのを止めた。
「周。お前、俺の連絡先を強羅に教えただろ」
「えー?あー?うん。駄目だった?」
「いいわけないだろう。個人情報だ」
「だってさ、類は強羅さんに連絡先を教えたがってるかなーと思って」
「どういう言い訳だ」
周は俺が言っているのも気にせず、椅子の上で反転して俺の机に顎を乗せる。
「で、どうだった? ライブ」
「……騒がしかった」
「感想は変わらないのかよ!」
周が笑う。
本当は色々あったが、ひまりの事を明かしていないのだから言うことができない。
「でもさ、お前が二回も行くって、よっぽどだよな」
「妹に連れてかれただけだ」
「本当に?もしかして、推しとかできたんじゃね?」
「……いない」
「嘘だー絶対いるって」
周はスマホでRe⭐︎LuMiNaを検索した。
公式サイトのメンバー紹介ページを眺めている。
「どのメンバーが推しなんだよ。俺も最近わかるようになったんだけど、センターのきらり?それとも、クールな麗奈?」
「知らん」
「じゃあ、もしかして、ひまり?」
その名前を聞いて、もう一度「知らん」とは言えなかった。
周はそれを見逃さない。
「あ、今ちょっと反応した」
「……してない」
「したって!絶対ひまりだろ?最近人気出てきたんだよな?土曜のライブでも話題になってたし」
「……そうらしいな」
俺は適当に返事をした。
だが、周は更に追及してくる。
「類はひまりのファンなんだー」
「……違う」
「じゃあ、なんで二回も行ったの?」
「だから、妹に連れてかれただけだ」
俺は繰り返して、話は終わりと問題集を広げる。
「えー?つまんねーの……あれ?そのページって来週までだよな?」
「いや、今日までの宿題だ」
「うわっ!やっべ!!」
周は慌てて体を前に戻して慌てて問題集を広げている。
話がうやむやになってよかった。
そのとき――
「おはようございます」
教室のドアが開き、ひまりが入ってきた。
眼鏡をかけた地味な姿。
ライブでステージに立っていたとは思えない、いつも通りの真面目な女子高生。
教室で話していた数人の女子生徒が、ひまりに気付いてちらりとドアの方を見る
ひまりはその視線に気付いて、小さく声をかけた。
「おはようございます」
だが――。
「……」
女子たちは、冷たい視線を向けるだけで、返事をしなかった。
一人は完全に無視して、別の方向を向いている。
「……」
ひまりは少し戸惑った表情を見せたが、何も言わずに自分の席に向かった。
俺は、その一部始終を見ていた。
何だ、今の反応は。
明らかにひまりを無視をしていた。
ひまりは目立たない生徒で特別仲が良い生徒がいない。
しかし、トラブルに巻き込まれてもいなかったはずだ。
ひまりは気にしていない様子で俺の隣の自分の席に来て、小さく会釈した。
「おはようございます、兎山さん」
「……おはよう」
俺は短く答えた。
周が宿題をしながら聞いているだろうから、Re⭐︎LuMiNaの話はしたくない。
「あの……ありがとうございました」
ひまりはそれだけ言って嬉しそうに笑った。
そして、満足そうに席に着く。
周に聞かれなくて良かった。
そう思ったが、周が立ち上がって俺の腕を突いた。
「なぁ、類」
周はいつもと違って真剣な表情をしている。
「なんだ」
「ちょっと、話」
周に言われて、席を立って廊下に出る。
人が少ない外階段まで出ると、周は人がいないことを確認して口を開いた。
「あのさ……お前、気づいてる?」
「何を」
「強羅さんのこと」
「……」
俺は黙って周を見た。
さっきの、ひまりの挨拶を無視するような女子の反応。
俺はクラスメートのことをほとんど気にしていなかった。
しかし、友人が多くて人間関係に詳しい周はもっと前から気付いていたはずだ。
「最近、クラスの女子の間で、ちょっと変な空気があるんだよ」
「……変な空気?」
「うん。お前のこと」
周は少し言いづらそうに続けた。
「類、お前って……実は結構女子に人気あるんだよ」
「ふーん」
「ふーんじゃねーよ。もっと喜べよ!」
周はつい大声を出したが、すぐに真剣な顔に戻る。
「いや、マジで。顔がよくて運動神経もいいし」
「そんなこと、どうでもいいのに」
「お前はそう思ってるかもしれないけど、周りはそうじゃないんだよ」
周は呆れたようにため息をついた。
「お前、性格が冷たくて基本が機嫌悪そうだから、今まで女子は近づいてこなかったんだ。でも……」
「……でも?」
「最近、お前が強羅さんと話してるの見て、『あ、兎山ってまともに人と話せるんだ』『話しかけても人間として扱ってもらえそうだな』って思った女子が結構いるんだよ」
「俺は一体何だと思われてるんだ」
「日ごろの行いだろ。で、最近は女子たちがお前と話したがってる。でも――」
周は少し深刻な表情になった。
「強羅さんが邪魔だと思ってる」
「邪魔?」
「強羅さんって、地味系だし、特別美人とか可愛いとかで目立つ子じゃないだろ?」
「まぁそうだな」
「だから、『あの強羅さんがいいのに何で自分はダメなの』って思ってる女子がいるんだ。それで、強羅さん、ちょっと最近、クラスの女子に敵視されてるんだよ」
「……」
俺は、さっきの光景を思い出した。
ひまりに対する、冷たい視線。
無視。
「……そういうことか」
「俺も最近気づいたんだけど……強羅さん、結構辛い立場にいるんじゃないかって」
周が申し訳なさそうに言った。
俺のせいでひまりを、傷つけている。
俺が彼女と話すことで、彼女が標的になっている。
そして、俺は全然それに気付かなかったし、気付こうともしなかった。
「類は悪くないよ。でも……気をつけた方がいいかもしれない」
周の言葉を俺は素直に受け止めた。
俺一人だったら気付かずにひまりを更に追い詰めていたかもしれない。
そこで、ふと思いつく。
「周、だから俺の連絡先をひまりに教えたのか?」
他の女子生徒の目がある教室で話さなくても済むように、電話やLINEの連絡先をひまりに教えたのか、と。
周は深く頷く。
「俺ってめっちゃ気が効く」
「自分で言うな」
そう突っ込んだけれど、周のアドバイスが助かったのは確かだ。
「……分かった」
俺は短く答えた。




