7話 アタシの拠点がなんじゃこりゃあ!?
前回のあらすじ
健康的に掃除が完了した
アタシはアンナ。
魔王軍に所属するサキュバスだ。
見た目は子供だし階級こそないが、実力の高さと空間魔法を使える事から魔王軍でも一目置かれている。
現在、召喚された勇者の情報を掴んで来るよう魔王様直々の命令を受け行動している。
王都は結界は張られていて近づけない為、付近の村での情報収集や、高台から王都を観察したりしてた所、今朝勇者の仲間と思われるやつを拉致することに成功した。
しかし、そいつから勇者の情報を聞けたのは良かったのだが、拠点が汚くて我慢出来ないとか言い出した。
全く、住む場所が汚い程度で文句言うとは面倒な奴だ。
うるさいから出かけてる間掃除を許可したが、あいつ変なことやってないだろうな?
正直心配だ。
「もう日が暮れるな……今日の調査はこの辺りにしておくか」
拠点には腐った食材しかないからあいつのためにパンだけ購入し、空間魔法で拠点の前に転移する。
「ん? なんだ?」
拠点の様子がおかしい。
窓から煙……じゃなくて湯気が出ている。
おまけに家の中が異様に明るい。
アタシの記憶では小さなランプ一個くらいしかなかったはずだが……。
「一体何が起こっているんだ?」
よく分からないまま拠点のドアを開ける。
すると。
「は?」
目の前に広がった光景に思わず自分を疑った。
ホコリが充満し、床は散乱した物で足の踏み場も無く、キッチンからは腐臭が漂って来る。
そんな場所、まるで最初から無かったかのように綺麗になっていた。
床には何一つ落ちてないし、ホコリが全くない。
上に吊るされたランタンからは暖かく安心するような光が拠点を照らし、キッチンからは腐臭では無く食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。
「あ、アンナちゃんおかえりー!」
「すまん、家を間違えた」
そのままアタシはドアを閉める。
うん、家を間違えたんだ。
そう考えれば全て辻褄が合う。
全く、アタシとしたことが空間魔法の転移先を間違えるとは焼きが回ったもんだ。
あの人間がいたのは……きっと幻覚だな。
最近働き詰めだったからな、疲れが溜まってるんだろう。
うん、これが真実だ。
「ってそんなわけないだろうーーー!!!」
自分で自分にツッコミを入れながら拠点のドアをバンッ! っと開ける。
「アンナちゃんどうしたの?」
「どうしたのじゃない! お前拠点に一体何をしたんだ!?」
「何って……掃除したんだよ」
「幾ら何でもここまで綺麗にできるわけないだろう! と言うかそれ以外にも聞きたいことが……」
「まあそんなことよりさ、アンナちゃんお風呂入らない?」
「はぁ?」
急にこの人間は何を言い出すんだ?
「ここに風呂なんて無いぞ。そもそも一昨日水浴びしたからまだ……」
「ダメじゃん! 体は毎日綺麗にしないと! とにかくお風呂出すから入ってね!」
「いや、それはどういう……なに!?」
人間が玄関の外に真っ白なバスタブを出現させた。
お湯が既に張ってあって、しかもシャワーとバスタオル付きだと!?
「あ、これ着替えの服ね。今着てる服は明日洗濯するからカゴの中入れといてね。後パンありがとう。じゃあ私は夕飯の支度があるから」
「え? いやちょっとま……」
人間がそう言ってアタシが持ってたパンの代わりに着替えが入った木のカゴを渡して来た後、そのまま拠点の中に戻ってしまう。
全く話を聞く暇がなかった。
「……とりあえず入ってみるか」
バスタブから漂う温かい湯気に誘われるようにアタシは服を脱ぎ、風呂に浸かってみる。
「ふ、ふわぁ〜……」
暖かく丁度いい温度がとても気持ち良く、仕事の疲れが抜け出ていくような感覚に覆われ、自分でも信じられないほど気の抜けた声が出る。
シャワーも心地よく、浴びるだけで髪に潤いと艶が出てもう最高だ。
そのままどれだけ浸かっていたんだろう?
まるで魅了の魔法にかかったかのように風呂を満喫していると、拠点の中から「アンナちゃーんそろそろ上がったらー?」と言う声が聞こえハッとし、風呂から上がる。
バスタオルで体を拭き、用意された服に着替えると、ふっくらとした感触と爽やかな匂いがする。
「服も綺麗だ……まさか洗濯までやったのかあいつ?」
おかげでスッキリリフレッシュ出来たアタシが拠点の中に戻ると、「アンナちゃんいいお湯だったでしょう! 夕食の準備出来てるからテーブルに座って待ってて!」と言われる。
「おい……! はぁ……先にトイレに行くか……。う、これは!?」
トイレのドアを開けると、中がピカピカだった。
まあそこは予想していたが、それだけじゃなく悪臭が一切しない。
それどころかちょっといい匂いがする。
お陰で食欲減退する事もなくトイレを済ませ、テーブルに座ると、人間が夕食を運んでくる。
「お待たせー! 美味しくできたから残さず食べてねー!」
そうして目の前に出されたのは、アタシが買ってきたパンと木の皿に盛られた瑞々しい新鮮なフルーツサラダ、ピカピカの陶器の皿に乗せられた香ばしい匂いが漂う肉のソテー、木のコップに入った透明の透き通った水。
「じゃあいただきまーす」
「いただきます……ってちょっと待てー!!」
ツッコミどころが多すぎて遂に我慢できなくなり、叫びながらテーブルをバンッと叩く。
「腐った食材しかなかったはずだぞ! なのになんでこんな美味しそうな夕食が出てくるんだ!? この水もそうだ! どっから汲んできた! 井戸の水は汚れていたはずだ! そしてこのピカピカの食器類はなんだ!? どうやってこんな綺麗にした!? 後は……」
「アンナちゃん……ツッコミ長いよ」
「誰のせいだと思っている!!!」
思いっきり怒気を放ちながら叫び散らかした後、冷めるといけないと言う理由で夕食を食べながら話を聞く事になった。
「モグモグ……お前のスキルだって……? ゴクゴク……『健康第一』?」
「そうそう。私もびっくりしたんだよ?」
信じられないが、この美味しい食事と拠点の変わり映えを見るに本当なんだろう。
確か戦いに向いてないスキルを習得とは聞いてたが、無能というわけじゃ無かったらしい。
「だが一つだけ気になることがあるな。その空気と水を浄化するランタン、魔族にも効くんじゃないか?」
魔族は浄化の力がある光属性魔法に弱い傾向がある。
そのランタンがどれだけの力を持ってるか分からないが、警戒するに越したことはない。
「どうなのかな? でも大丈夫だと思うけど」
「なんでそんな事が言えるんだ? とにかくそのランタンを出しな」
「もう出してあるよ」
「なに? 何処にある?」
「上」
「え?」
人間が指差したのは、頭上で拠点の中を明るく照らしているランタンだった。
「これの事だったのか!?」
「うん、だから大丈夫かなって」
確かに、さっきから光を浴び続けているのに害を及ぼすところか不快にすら思わない。
むしろ心地良いとさえ思っている。
「ちょっと待て、確認させろ」
試しに井戸から汚れた水を汲んで拠点の中に入ると、近くで光を浴びせる事もなく水が浄化される。
どうやら本当らしい。
「うーんどうなっているんだ? ここまでの浄化の力……何でアタシに効かないんだ?」
「ふっふっふ。それはアタシのスキルが『健康第一』だからじゃないかな? 健康改善のためにしか使えないんだよきっと!」
「なんでそれでドヤ顔出来るんだお前は?」
こいつも変なら、スキルも変な奴だ。
正直納得はできないが、こっちに危害を加える力がないならとりあえずそれはそれでいいと思っておく。
そうして話も終わり、夜が更けて行く時間になった頃、人間がそろそろ就寝の時間だと言ってくる。
「勝手に寝な。アタシは読書してるから」
「ダメ! ちゃんと寝ないと健康に悪いじゃない!」
「魔族は体が強いから大丈夫だって言っただろう! 拠点を綺麗にしてくれたのは礼を言うが指図するのは止めろ!」
ここは一度ちゃんと上下関係をはっきりさせた方がいいかもしれない。
そう思ったアタシは、闇の魔力を解放し人間に圧をかける。
「う……」
人間が怯え後ずさる。
ふ、これで思い知っただろう。
そう思ったのだが……。
「こうなったら最後の手段! えーい!」
人間がそう言って香水の瓶を取り出しアタシに向かって振りかけて来た。
「お前、一体なに……を……」
花のような甘い匂いがしたと思うと、頭がふわっとして体から力が抜けて行き、その場に倒れる
「さあアンナちゃんしっかりねんねしましょうねー」
気持ちのいいまどろみの中、そう言いながらアタシを抱いてベットに連れて行く人間に一切抵抗できず、アタシはそのまま意識を失った……。
そして翌朝。
「二度とやるなよ」
「本当にすいませんでした」
人間を土下座させ、めちゃくちゃ説教した。
タイトルからめっちゃふざけました




