3話 健康どころか命の危機
前回のあらすじ
健康的に牢屋入りした
「だ、出してーー!!」
「うるさい! そこで大人しくしていろ!」
お城の地下にある狭い檻の部屋に入れられてしまった私。
看守に必死に懇願してもやっぱ出してもらうのは無理みたい。
「うう……どうしよう。このままじゃ……このままじゃ……私の健康生活がーー!!」
だってそうでしょう!?
手を洗うところもないしトイレは端っこに置いてある皿にしろだし!
しかも布団も無いんだよ!?
汚れてカビが生えた布一枚があるけどこれを被って寝ろっていうの!?
無理無理無理!!!
「せめて清潔な所に監禁してーー!!」
「黙れ! 罪人がそんなこと許されるわけないだろう!」
看守さんはそう言ってさっさとどっかに行っちゃった。
うーん困ったなぁ……こんな所にいたら病気になっちゃうよ……。
「どうにかして毎日交渉するしか無いかなぁ……後は凛華さん達が早く魔王を倒してくれるといいんだけど」
元の世界に帰る事はあまり心配していない。
だって凛華さんは言ったから。
「戦いが終わるまで牢に入れた方がいい」って。
裏を返せば戦いが終わればここから出られるって事。
凛華さんはプライドが高いけど責任感も強い。
だから自分が言った事を曲げるなんて事はない
きっと元の世界に帰る時一緒に連れてってくれる!
「だとすれば、私がするべき事はただ一つ! 健康を保つ事! それが私の戦いだー!!」
「何回言わせる気だ! 黙れーー!!」
「ごめんなさい」
……それから数時間、太陽が沈んで看守さんが蝋燭の明かりをつけていく。
ほのかな光だけど真っ暗な夜では十分ありがたい。
ぐ〜っとお腹の音が鳴る。
そう言えば昼から何も食べてなかった。
お弁当やスマホは全部カバンの中に入ってたからなー。
はー……ひもじい。
そう思ってた時、看守さんが牢の鍵を開け中に入ってくる。
「おい罪人、飯を持って来たぞ」
「本当!? やったー! って……え?」
看守さんが持って来たのはパン一切れと水。
え、まさかこれだけじゃないよね?
冗談だよね?
ポカーンとした顔で看守さんを見るけど、そんな私を無視してさっさとパンと水を床に置き、牢屋から出て行っちゃう。
「ちょちょちょちょっと待って看守さーん!!」
「なんだ一体!?」
「私の夕飯これだけ!? こんなんじゃお腹も膨れないし栄養も取れないよ!」
「馬鹿か!? 罪人がまともな食事にありつけるわけないだろう!? 少しだけでももらえる事をありがたく思え!」
「せ、せめて肉と野菜だけでもー!? 私の健康生活がー!!」
「知るかー!! というか今更健康を気にしてもしょうがないだろう!!」
「え? それってどういう事?」
「何? 知らないのか? 王様が明日、お前を処刑する事に決めたらしいぞ」
「…………ええええええええ!?!!?!!?!!?」
何それ聞いてない!?
ていうかどうしよう!?
健康どころか命の危機だよーー!!!
……次の日。
早朝、私は牢屋の隅っこでうずくまっていた。
もうすぐ処刑の時間だ……。
そう思っているとコツ、コツ、コツ、私の人生の終わりを刻むかのように看守さんの足音が聞こえる。
どうやらその時が来てしまったらしい。
看守さんが牢の前にやって来て鍵を開けて入ってくると、うずくまってる私に声をかけてくる。
「さあ来い、処刑の時間だ」
「……はい」
「ほう……随分罪人らしい顔になったものだ」
静かに顔を上げると、看守はふっと笑みを浮かべる。
全てを諦めて絶望し涙を流す少女。
今、私はそんな顔をしていた。
「う……ヒック……ごべんなさい……許して下さい……」
「それは俺じゃなく神に言え。とにかく早く立て!」
そう言われて立ち上がる。
その時、看守の後方を見て。
「え? 勇者様!? 何故こんな所に!?」
「なに、勇者様だと!?」
看守さんは驚いて後ろを振り向く。
…………いーーまーーだーーー!!!!
「ん? 誰もいなぐわぁ!?」
隙を見せた瞬間看守のスネを全力で蹴りつけ、そして倒れた瞬間顔に拳をめり込ませ気絶させる。
「こんな事もあろうかと護身術に空手やってて良かった!」
ふっふっふ、私が諦めるわけがない!
一晩で作戦を練っておいたのだ!
まさかこんな簡単に引っ掛かるとは思ってなかったけど、私演技の才能あるのかな?
まあそれはおいといて、さっさと看守さんが腰につけてる鍵を奪って外に出る。
「よし、明日の健康に向かって脱獄だー!!」
と言ってもここから先はノープラン!
脱獄はすぐバレるだろうし私にできる事は一つしかない!
それは……
「一気に走り抜ける事だーーー!!」
幸い地下に連れて来られる時に城のエントランスを通った!
そこまでの道は覚えている!
私は一気に地下を抜け、城の中を全力で走り抜ける!
「なんだ貴様!?」
「え、何ですか!?」
城にいた兵士やメイドに当然姿を見られるけど、それはもうしょうがない!
一気にエントランスまで着き、お城の扉を勢いよく開ける!
「脱獄だー!」
「勇者様の敵を捕まえろー!」
お城の庭に出た私を兵士が執拗に追いかけてくる。
でも重い鎧を着た兵士が制服という身軽かつ毎朝ジョギングで鍛えている私に追いつけるはずもない。
そのまま真っ直ぐ逃げると、お城の正門が馬車を通すためちょうど開いていた。
これはチャンス!
「そいつを捕まえろー!!」
「なに!? わかった!」
私を追う兵士の言葉を聞き、正面にいた門兵が逃げ道を塞ぐ。
このまま捕まるわけにはいかない。
更に走るスピードを加速させ門兵に突っ込む。
「来るなら容赦はしない!」
門兵が剣を抜き私に向かって突き出してきたその瞬間、姿勢を下げ、スライディングで門兵の股の間を通り抜ける!
「なに!?」
小さいロリ体型の私だから出来るこの戦法!
正直自分で言って情け無いけど役に立ったならまあよし!
呆然とする門兵を後に素早く門を抜ける!
「やったー! お城からの脱出成功!!」
城から出た先は西洋で見るような町が広がっている。
きっとここは王都なんだろう。
色々見て周りたい所だけどそんな場合じゃない。
城の兵士がまだ後ろから追っかけてきている。
「でも、ここまで来ちゃえばそう簡単には捕まらないよ!」
何せ人はかなり多い。
低身長の私ならそれに紛れて逃げる事も難しくはない。
人の波を掻き分け、路地裏っぽい所に置いてあった小さなタルの中にすっぽりと隠れる。
「くそ! どこに行った!?」
「逃したら国王様に何と言えば!?」
「探せ! 探すんだ!」
そんな兵士達の声が聞こえなくなったところで、これからの事を考える。
「さて、こっからはどうしようか? 多分指名手配されるよね? そうなったらこの街から出るのも難しいんじゃ……あれ?」
急にタルが持ち上げられ、どこかに運ばれる。
もしかしてバレたかとも思ったけどそうじゃないみたい。
「これで荷物は全部か?」
「ああ、それじゃあ馬車を出そう」
もしかして荷物と間違われたのかな?
馬車が動き出したようで、ガタゴトと揺れ始める。
少し蓋を開けて確認すると、大きな城壁に向かって進んでいる。
もしかしてこれは……。
「商人だ、隣町まで物を売りに行く」
「身分証は問題ないな。通っていいぞ」
一旦馬車が止まり、そんなやりとりが聞こえた後再び動き出す。
そこで再び蓋を開くと、街の城壁と見える限り平原の景色が見える。
(やったーー!! ラッキーー!!!)
心の中でそう叫ぶ。
運良く外まで逃げることができた。
これは奇跡に近い。
天は自分を見放していなかった!
そう思っていた時。
「え?」
突如目の前に魔法のような光が現れ、浮遊感に襲われると、一瞬にして景色が森へと変わっていた。
「え、何これ!?」
驚き思わずタルから出る。
馬車の姿は無く、霧の深い森だ。
振り返ると、古ぼけた一軒家の家がある。
「ここは一体……」
「ここはアタシの拠点さ」
背後から声が聞こえ振り向くと、怪しく雰囲気のするピンク色のショートヘアの髪をした、赤い瞳の女の子が立っていた。
「いらっしゃい勇者のお仲間さん」
「えっと……あなた誰?」
「アタシはアンナ。人間の偵察に来ていたサキュバスさ」
そう言ってアンナちゃんは黒くて先がスペードの形をした尻尾を私に見えるように振る。
「え……サキュバスって事はもしかして……」
「そう、アタシは魔王軍の一員だ。今の状況がわからないだろうからはっきり言ってやるよ。あんたはアタシが捕まえた」
「ええええええええええええ!?!!?!?!??!」
思わずその場に崩れ落ちた。
せっかく逃げられたと思ったのに何でこうなるの!?!?




