ダークエロフさん
「たまらん。」
黒く長い髪を片目にかけた”彼女”の艶めいた太ももに横たわると自然と声が漏れた。
「ジン……やっぱり変態さん……?」
「ええ、カテラにもあんなにセンシティブなセクハラをしていましたし間違いないでしょう。」
ホームの中にある医務室で”彼女”に横たわる俺を見て、一歩引いた位置を取り遠い目をする二人。だが、
俺はいま!!この瞬間を!!逃すわけにはいかないのだ!!
「元気になったかしら?」
膝枕を堪能する俺の頭上。蠱惑的な声で囁いたのは褐色の肌をもつ長耳のダークエルフ。否、ダークエロフさんだ。
「いえ、すこぶる体調が悪いです。今度は頭を撫でてください。」
俺は喉を絞め、ダンディな声で答えた。今鏡で自分の顔を見たらきっと渋い顔をしているはずだ。
「あらあら、まったく♡」
その声とともに俺の髪が優しく揺れる。気分はまるで王様そのもの。照らす陽光(寒色の魔石灯)に側仕え(カテラとココロッココ)、豪華な寝具(木製ののベッド)と王妃まで。
うむ、くるしゅうないぞ。
しかし俺の国を滅ぼす者が現れた。そう、カテラだ。
「もー!!はい終わり!!システィアもあんまりジンを甘やかさないの!!」
「ぐへぁっ!!」
その謀反者は俺をダークエロフさんから引っぺがし彼女を守るように隣にストンと腰を下ろした。
「おい!!邪魔していい時と悪い時があるぞカテラ!!」
床に捨てられた俺は勢いよく立ち上がり、涙目で訴える。しかし彼女は聞く耳を持たずプイとそっぽを向いてしまった。
「ジン、戯れはそのくらいにして本題に入りましょうよ~!」
それに両腕をブンブンを振って急かすココロッココ。
戯れじゃなくてガチだったっつーの。
「検診ねはいはい。」
「めんどくさそうにしてますけどあなたが頼んできたんですからね!?」
「そういやそうだ。で、具体的には何するんだ?」
「はぁもう、ではそこにいるシスティアに体液をあげてください。」
────────WHAT?
「今なんて言った?」
「だーかーら!ジンの体液をシスティアが舐めて諸々の能力だったり状態異常を診てもらうんです!さ!!はやく!!」
なるほど────苦節22年。ついに俺の初めてが散るわけか……。
「では、悪いが出て行ってもらえるかな?二人とも。」
「なんでまたダンディになってるんですか。出ていきませんよ。」
なるほどココロッココ君も参加希望です、か。複数プレイもまあ悪くないが、やはり初めては二人きりに限るだろう。
「うんうん、俺たちの逢瀬に興味があるのは痛いほど分かる。しかしなあココロッココ君、俺の卒業式は二人でひっそりとしたいんだ。分かってくれるね?」
さわやかな笑顔を作って丁重に断ったつもりが、なぜかダークエロフさんは「あらあら」と頬に手を添え困ったように笑い、ココロッココは顔を引きつらせ、カテラはシャーッと威嚇を強める。
「ジン……あなた何かとんでもなく気持ちの悪い勘違いをしていますね。」
「え??」
「いいですか!!体液は血液か汗で十分なのですよ!!だからその……そういう行為はなし!!なしなのです!!」
その瞬間、それまで花畑のように色づいていた俺の世界から色が消えた。
「ごめんねジン君そういうことだから。」
ダークエロフさんの悪意のない苦笑が俺の心をさらに抉った。
それは……そりゃないぜ……。
「もう勝手にしたらいいじゃない。」
しょげた俺は膝を抱えて部屋の隅でうずくまった。
お決まりのやつな。うん、勘違いしていた俺も悪いさ、けど成人男性の情欲を弄ぶような言動をする方もいかがなものか……。
「この人が勝手に勘違いしただけなのになんで拗ねてるんですか?」
「そういう年ごろなのよ可愛いわ。」
「ジン・・・・・ヘンタイ。」
その後、ダークエロフさん。改め、システィアお姉さんにもう一度膝枕をしてもらい俺の気分は晴れた。
カテラとココロッココがなにやらギャーギャー騒いでたが、もはやそれが俺の耳に届くことはなかった。