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笑顔に惚れたんだ

「救い、に?」

「そうですとも!なので私にドンッとお任せくださいな!!」


 こんな可愛い子だったのか!!こいつの妹って話だったから全く期待していなかったんだが、俄然やる気出てきたぜ!!!!!!


 しかし、大口を叩く俺の登場に未だ状況を掴みきれていない少女は、困ったように兄であるアルバートに問う。


「兄さま、この方は?」

「異世界人のジンだよ。ヒーニアの魔力欠乏症を治すために連れてきたんだ。」


 ────いってぇ!!


 俺の紹介を終えたアルバートがバンッと背中を叩いてきた。


 痛みに涙目を浮かべた俺だが、ふと少女と目が合う。そして、少女は優しく目を細めて笑った。

 その笑顔はアルバートから受けた平手の痛みを消し去り、俺の頬を赤く染めた。


「お前らちょっと集合────っ!!」


 俺は筋肉三人に号令をかけ、部屋の隅でうずくまるように4人で集合する。そして少女には聞こえないような声量で三人に告げる。


「いいか、何が何でもあの子を治す。それも────今日だ。」

「今日!?正気かジン!もう夕方近いぞ!!」


 筋肉のひとりであるグレイが訴えるような視線を向ける。


「もちろん正気だ。でもな、俺は決めたんだ。あの子を一刻も早く死の恐怖から救ってやるって。だからお前らにも頑張ってもらうぞ。」


 エレグを早く見つけないといけない。そんなことは毛ほども考えになく、俺が急ぐ理由、それはひとえにあの子の笑顔に惚れた。ただそれだけ。


 俺の決然とした瞳を見た三人は同じく強い目で頷いて、


「「「分かったぜ友よ、俺たちにまかせろ……!!」」」


 なんとも頼もしい、筋肉たちの返事。俺は満足して立ち上がり、少女の枕元へ。


「というわけで!俺がこれからとびきり美味いオムライスを作って君をあっと言わせて見せる!そんでついでに魔力欠乏症も治す!期待しててくれ!!」


 サムズアップしてみせると少女はポカンとして、そしてふふっと小さく笑い、上目遣いで。


「では、ちょっとだけ期待しちゃいますね。」

「おう!それでいい!俺はジン、君は?」

「ヒーニアです。」


 彼女の名前が聞けたことに満足した俺はくるりと振り返って筋肉三人衆に告げる。


「よし!まずベン!!」

「おう!」

「お前は玉ねぎとトマト!」

「分かった!」

「そんで次グレイ!」

「おう!」

「おめーはバターと卵!」

「おけー!いいの買って来るぜ!」

「そしてアルバートお前は肉だ!!」

「肉か!!!よし俺に任せろ!良い肉屋知ってんだ!!」

「さすがだ筋肉馬鹿ども!では総員!任務開始!!」

「「「らじゃー!!!!」」」


 俺の指示でドタドタと家を出る三人。それを静かに見ていたヒーニアが口を開く。


「ジンさんは何をしてくださるので?」

「ん?俺は料理担当だったんだが、欲しいものもあるし森にでも行こうかな。」


 俺の含みのある言い方にヒーニアは首を傾げる。


「森、ですか。」

「そ、んじゃ俺もぼちぼち行ってくるかな。」

「はい。お気をつけて。」


 二コリと微笑んで送り出してくれるヒーニアに俺は表情を崩さず心の中で叫ぶ。


 あその笑顔100点!てか新婚みたいだなこれ、悪くねぇ!


 三時間後────。


「あ゛あ゛ーーー!!づがれだ!!!」


 俺は長旅と材料探しの疲労でくたくたになった体を玄関に投げ、叫んだ。


 今日治すって言ったの誰だよ、こんな重労働させやがって!……俺か。


「おうジン帰ったか!てっきり家で待機しているものだと思って、ヒーニアに外出したと知らされた時はびっくりしたぞ!」

「ジン!おかえり!」

「お疲れさまだな!ずいぶん遅かったが何を用意してきたんだ?」


 まったく心躍らない筋肉ダルマたちのお出迎えにげんなりしながら俺は起き上がる。


「まあちょっと足りなさそうなものがあってな。ヒーニアは?」

「寝てるよ。そのうち起きるさ。」


 まだ20時くらいだけど、ずいぶん早いな。


 しかし、いつものことなのかアルバートはたいして気にした様子もなく台所に向かい買ってきたものを広げる。


「玉ねぎとトマト、あとバターに卵、そして────見ろ!!グレートバードのもも肉だ!!」

「でっか!!!!」


 俺が驚いたのは自慢げな三人が広げた材料のうちに一つ。机いっぱいに乗った、タイヤ一個分もある鳥のもも肉だ。


「そうだろうそうだろう!背後から腕を回してそのまま後ろに投げ飛ばしてやったんだ!!いやーたまたま地面に降り立っていてくれて助かった!!」


 それジャーマンスープレックスじゃねぇか!!……したの!?ジャーマンスープレックス!?鳥に!?


 俺はアルバートが軽々投げたというタイヤほどの大きさのもも肉をみて戦慄した。


「てかお前らこれ食えんの?」


 流石に使うとしても一切れほど、残りはそのまま保存するのか?


「何言ってるんだジン!これで”一食”だ!!」


 ……お前が何を言っているんだ。


 半眼でアルバートを見るがそれに気づかないバカは他の筋肉バカと同調を始める。


「なあみんな!」

「ああそうだな!」

「常識だ!」


 あ、ダメだこれ。────ツッコミが追いつかねぇ。


 俺は諦めて料理に取り掛かることにする。

 かわいらしいウサギの刺繍が付いたエプロンを身に着けて台所に立つ。


「よしまずは────、ベン!トマト取ってくれ!」

「ほらよ!」


 ベンがひょいと投げたトマトをキャッチした俺はヘタを取り、トマトの皮を剥く。そして剥いたトマトをざく切りにする。


「すげぇ……。」

「お前ら!この切ったトマトボコボコにしろ!!」


 感嘆の声を漏らす三人にまな板ごと手渡し、すぐに玉ねぎを切り始める。急がないと今日中に間に合わなくなるのだが、突然の指示に要領を得てない三人はわたわたと助けを求めてくる。


「ぼ、ボコボコにって、どうしてだ?」

「布でもなんでも上に敷いて殴りまくるんだよ!!ミキサーがねぇからな!多少荒々しくなっちまうがしかたねぇ!!それに!」


 俺は包丁をぴたりと止め、振り向く。


「お前らは力仕事(そっち)の方が楽だろ?」

「────っ!!おうこっちは任せろ!!」


 焚きつけられた三人はすぐに布をトマトに被せて、三位一体。阿吽の呼吸でトマトを交互に殴り続ける。

 その、トマトの赤が散るおぞましい光景に俺は若干引くが自分の仕事を再開する。


「さて、問題はこれだな……。」


 目の前には特大の肉。


 これ切んのは骨が折れるけど……


 と、そこで俺の頭にヒーニアのすべてを包み込むような温かい笑顔が浮かぶ。


「約束しちまったからな。」


 ぼそっと口からこぼれた言葉。それは俺にしか聞こえない声量で、しかし自らを奮い立たせるにはそれだけで十分だった。


 一時間後────、


「できたぞー!お前ら!!」

「ついにか!!」

「でけーーー!!」

「ヒーニア!できたみたいだぞ!!」


 ついに完成したオムライスを見て、アルバートはヒーニアのもとへドカドカと走っていく。

 俺は机に盛りに盛られたオムライスを見て思う。


 デカく作り過ぎた。


 それは米を10キロも使った特大のオムライス。まるで黄色い枕だ。


 日本人特有のもったいないが発動してしまった……。ま、残った分はこいつらに食わせるか。


 俺は馬鹿筋肉二人を見て頷いた。


「ジンさん、こんな夜遅くまで、お疲れ様です。」


 奥の部屋からヒーニアがアルバートに支えられて出てきた。カーディガンを羽織り、頭には小さく寝癖がついている。


「いいんだよ。それより見ろヒーニア!これが────オムライスだ!!!」


 俺が特大のオムライスをこれみよがしに見せるとヒーニアが目を丸くする。


「こんなに大きなものが、オムライスですか。卵と……これは血ですか?」

「ま、まあ違うけど……。ともかく!これでヒーニアの病気は治るってわけだ!さっそく食うぞ!!」


 俺はヒーニアを椅子に座らせ、自分も席に着く。しかし視界の端で筋肉三人組が居心地悪そうにこちらを見ているのに気付いた。おそらく自分も食べていいのか分からずにいるんだろう。仕方ない。


「なにしてんだお前ら、早くしねぇと冷めちまうぞ。」


 二ヤリと悪戯な笑みを送ると三人は嬉しそうに顔を輝かせ、「おう!!!」と元気よく席に着いた。


「よし、まずはお前ら手を合わせて。」


 食わないのか?と首を傾げる四人は不思議そうに俺を真似て手を合わせる。


「そんで、いただきます!!」

「「「「いただきます!!!」」」」


 それが食事の合図だと理解した四人は大皿から思い思いにスプーンで口に運び始める。


 そんじゃ俺も、いただきますかね。


 特大オムライスの端の部分をヒョイとすくって口に運ぶ。口に広がるケチャップの酸味とそれを包む卵の優しい味、そしてなんといっても────鳥のモンスター肉、うめぇ!!??


「これは……旨いな……。」


 普段うるさいアルバートもこれには唖然としたようすで目を丸くしている。


「ほんと……おいしいです。」


 ヒーニアも同様に驚いた表情を見せる。


「お前らもどうだ?」

「うめぇ!!うめぇ!!」

「たまらん!!たまらん!!」


 筋肉二人に投げかけるとそいつらは口に運ぶ手が止まらない様子で一心不乱にかっ喰らっていた。


 そんな食卓の様子を見た俺の顔に笑みが浮かんでいるのに気付いた。


 そうか、俺は今満足しているんだ、この温かさに。ずっと一人だったから、ずっと、逃げてきたから。強がって一人を好んでた俺はきっと、こんなのに憧れていたんだ。

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