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筋肉列車と雪女

「ここか……?」


 そこは赤い屋根の目立つ建物。シーナたちがギルドと呼ぶそこではファンタジーよろしく、やはり甲冑やら魔法使い風のローブやらを着た奴らが出入りしていた。


「おじゃましまーすっと。」


 老朽化して建付けの悪い木の扉をギィッと開ける。

 白い光が一瞬視界を覆う。それに慣れて一気に視界が開けて見えたのは────ギルドの長机で酒盛りを繰り広げる筋骨隆々な裸の男たち。


「よいしょぉぉぉあ!!!!」

「あいせぇぇぇぇ!!あいせぇぇぇぇ!!」

「もういっちょうぅぅぅ!!!」

「ガハハハハハハハ!!」


 絶句。いやもうほんと、言葉が見つからない。まあとりあえず────。


「帰るか。」


 俺はそう決意してクルリと方向転換。だが、


「あ!!ジンさん!!いらっしゃいです!!」


 俺を引き留める裸族の仲間。シーナが声をかけてきやがった。


 シーナは席を立ってこちらへ来るなり、ポンポンと肩を叩いてくる。


「どうしたんですか~?そんな怪訝な顔して。」

「何でお前はあれが平気なんだよ。」

「ん?ああ、あの方たちですか。もう毎日なので慣れちゃいましたよ!!へへ。」


 『へへっ!』じゃ、ねぇよ!!来客にあんな汚ねぇもん見せんな!!


「そうっすか……。」


 しかしそんな怒る気力もなくなった俺はただ肩を落とし、力なく返事をした。


「はい!あれ、ルートは一緒じゃないんですか?」


 シーナはチラリと俺が一人なのを確認して問う。


「あいつは帰ったよ。ま、無理もねーな。フーリからずっと馬走らせてたから。」

「そうですか、残念ですね。みんなでお酒飲みたかったのに。」


 シーナは頬に手を添えてはあと一息。


「あいつもお前ら変態一味に加わるのだけは勘弁だろ……。」

「ちょっとあんた!何そんなとこで突っ立ってんのよ、こっち来なさい!!」


 シーナの座っていたテーブルから怒鳴り声が響く。

 見るとシーナのパーティメンバーが酒をあおっており、その中でもひと際顔を赤らめているのが魔女風の少女、エレナだ。


「ちょっとエレナ!ジンさんは年上なんだから敬語使って!!」


 シーナは席に合流してエレナを叱る。

 それにエレナは頬を赤らめ、焦点の定まらない瞳をぎらつかせる。


「うるさいわねいいのよ!!だってこいつ私より弱いじゃない!!自分より弱い奴には舐めた態度とっていーのよ!!」


 悪酔いしてんな……。というか、こいつら20の俺より年下ってことは……。


「お前ら、何歳?」

「え?ああ、そういえば言っていませんでしたね。私とルート、エレナはみんな15歳で────」

「私は25です。」


 シーナに促される形で、心優しき野人ことリットさんが笑顔を向けて答えた。

 あまり酔わない体質なのか、まだまだ余裕のある雰囲気のリットさんは静かに酒を飲んでいる。


 そして残るは……。


 視線を赤髪の少年に送ると、少年はそれに気づいて自分の番かと酒を一口飲んでこぼす。


「俺は30だよ。」

「30!?」


 ありえねぇ……見た目は一番ガキなのに年上かよ。


小人種(ワークライン)ですからね。大人でも身長は小さいんですよ。」

「は~、色んな種族がいるんだな。」

「おや、小人種(ワークライン)はかなり有名な種族なんですが、知らなかったんですか。」


 リットが意外そうにこちらを見る。

 多種族国家を謳うデネブ出身だと思っているんだ、無理もない。


「おん、俺異世界人だし。」


 俺はドカッと空いてる椅子に座り、テーブルに盛られたTボーンステーキを頬張りながらこぼす。すると、


「「「はあーーーーーー!!!!?????」」」


 シーナたちだけでなく周りの、クエストを選ぶ冒険者も裸踊りをする冒険者たちも受付嬢ですら。ギルドにいる全員が声を上げた。


「ん?」


 なんかまずいこと言ったか?いやでも異世界人てそんなに珍くないらしいしな。


「あんた!そういうことは早く言いなさいよ!!」

「どゆこと?」


 すっかり出来上がっているエレナが詰め寄ってくるが一切状況がつかめない。


 デネブ国とこっちでは扱いが違うのか?


「ジンさん、異世界人というのはこの国では一つの信仰の対象なのです。それこそ、天使種(エーレフェリア)を主とする天使教と同列に数えられるほど。」

「この国じゃ異世界人は降りかかる災難を吹き飛ばしてくれると言われてる。過去、この国を救った異世界人の影響でね。そういうわけで、異世界人はこの国じゃ割と神格化してるってこと。」


 シーナとクレイのした説明に俺は唖然とする。

 国によってそこまで扱いが異なるのか……!俺を殺そうとしたデネブのやつらとは大違いだ。くそ、思い出したらだんだん腹立ってきた。


 扱いのギャップにイライラがつのるなか、それまで裸踊りを長机で披露していた三人冒険者たちがこちらにやってきて俺を持ち上げた。


「兄ちゃん!!ずいぶんヒョロイと思ったら異世界人だったのか!!」

「こりゃ運がいい!!こいつ連行するぞ!!」

「わりーな兄ちゃん付き合ってくれや!!」

「は────?おああああああああああああああああああああ!!!!」

「みんな待ってその人は────!!」

 その男たちは俺を肩に抱えたと思うと、えっほえっほと俺をギルドから連れ出した。去り際、シーナの呼び止める声が聞こえたが筋肉たちはそんなのお構いなしにダッシュしている。


「っにすんだ────ッ!!」

「ちと協力してほしいことがあるんだ!なあにすぐ終わる!!」

「そうだぜ兄ちゃん!どうか抵抗しないでくれよ?」

「楽しみだな~”ついに”だ!!」


 嬉しそうな顔で町を駆ける男たちに俺はため息をつく。が、その顔からは悪意のようなものは感じられなかった。俺はもう、抵抗するのをやめぐったりと男たちの筋肉にその身を預けた。


「ついたぜ兄ちゃんここだ!!」


 五分ほど筋肉の列車に揺られ、ついた場所は一見普通の町はずれにある木造の平屋。


 建物を囲う背の低い柵とちょっとした小さい花壇のあるこじんまりしたその空間は、あまりにその男たちとミスマッチでさらに俺を困惑させた。


「ここは?」

「俺の家だ!」


 筋肉列車、その先頭車両の男がニカッと歯を見せて答える。

 きちっと整えられた短い金髪、身に着けているのは相変わらず下のズボンだけ。


 とてもじゃないが────


「嘘つけ。」


 似合ってない。


「嘘じゃないさ!!正真正銘────兄妹二人暮らしの一軒家だ!!」

「ふ~ん。そんで、協力してほしいことって?」


 俺は誇らしそうに胸を張るその男に半眼で問う。その問いに三人の男たちは目を合わせて頷く。


「俺の妹に────」

「「こいつの妹に────」」

「「「オムライスを作ってやってくれ!!」」」


 オムライス────?


「なぜ?」

「「「それはもちろん!妹の好物だからだ!!!」」」

「お前らが作ればいいだけじゃねぇか。呆れた、帰るわ。」

「「「まあ待て!!」」」


 方向転換して帰ろうとする俺を三人は止め、金髪が前に出て話し始める。


「俺の妹は魔力欠乏症という難病にかかっていて俺たちじゃどうすることもできないんだ。」

「それがなんでオムライスを作れって話になるんだ?」

「特効薬なんだ……。異世界人のみが作れる至高の料理────オムライスが!!」

「はあ?」


 豪語する金髪の男。なぜかほかの二人も決然とした表情でこちらを見ている。


 その後、話を聞くとどうやらこの世界ではオムライスが万病を治す異世界人のみが作れる特効薬として広まっているらしい。

 魔力欠乏症。魔力がどんどん体から抜け落ちて、終いには魔力がゼロになり二度と魔法が使えなくなってしまう病気のようで。

 過去、その魔力欠乏症に悩む幾人もの子供がオムライスによって救われてきたと、そういうことらしい。


 正直、オムライスを作るだけならどうってことない。こう見えて俺は自炊だけはしていたんだ。じゃないと金がもったいないからな。

 ただ問題は未だエレグの居場所が分かっていないのと、食材がそろっているのか分からないこと。まあでも────


 さっきと違って緊張気味にこちらの様子をうかがう筋骨隆々の三人を見て俺は内心苦笑する。


 こうやって頼られんのも悪くねえな。


「分かったよ。」

「本当か!!」

「ただし条件がある。」


 ピンと人差し指を立てて俺は三人に告げる。


「エレグの居場所を教えろ、それと俺が言う具材を取ってくること。分かったか?」


 それを聞いた三人は餌をもらった飼い犬のように目を輝かせて、


「「「もちろんだ!!!」」」


 大きく頷いた。


「交渉成立だな。俺はジン、よろしく!」

「ありがとう!本当に助かった!!俺はアルバート!こいつらはグレイとベンだ!!」

「「よろしく!」」


 後ろのふたりにも視線をやった後、俺は再度アルバートに尋ねる。


「それで、問題の妹さんは?」

「家の中だ。ついてきてくれ。」


 アルバートが玄関を開けて招き入れる。俺は遠慮なく家の中にお邪魔して中を見回す。


 中はきちっと整えられたテーブルクロスのかかった四人机に生活感のある台所、それと灰になった薪が放置された暖炉とやはり男の印象とは異なる空間で。


「こっちだ。」


 案内されたのはリビングの先、ベッドだけがポツンと置かれた一つの部屋。

 その部屋に通された瞬間、ブワッと窓から吹く風が顔を撫でた。

 揺れるカーテンからベッドに腰かける少女が姿を現した。雪のように透明で、穢れの知らない白い髪、血を塗ったように鮮やかな緋色の瞳。風に長い髪を靡かせ、消えゆく雪の結晶のように儚げに俯くその少女に、俺は言葉を失った。


「あなた、は?」


 茫然としている俺に少女は首を傾げる。慌てて俺は黒ネクタイを正して自己紹介を始める。


「俺は────、君を救いに来たんだ!!」

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