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到着、そして事件

「それで、どうしてヘルセンタに?」


 揺れる馬車、その荷台でシーナが尋ねた。


「実は魔術を教わりにエレグってやつを探しててな。」

「エレグだって!?なんでまた!!」


 エレグという名に心当たりがあるのか、赤髪の少年は身を乗り出す。


 なんだか良くないニュアンスを感じる赤髪の少年の物言いに、わずかばかり不安がよぎる。


「なんでって、友達のツテで。」

「え、珍しい。エレグさんにツテがある人なんて滅多にいませんよ。それこそ昔取っていたお弟子さんくらいじゃないですかね。」

「確かそう言ってたな。バッドってんだけど知ってる?」


 俺がバッドの名を口にした、その途端。荷台に座る全員が絶句し目を見開く。静まり返った荷台にはゴロゴロと車輪の回る音だけが響いている。


「え……?みんなどうし────」

「────バ、バッドって……綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)のですか!?」


 俺の言葉を遮ったシーナはそのまま身を乗り出す。


「え、うん。そうだけど……。」

「っ!!感激!!え、ということはジンさんも綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)?」

「うん。」

「サ、サイン!!サインいただいてもいいですか!?」


 感激!!と言った風に目を輝かせるシーナに俺は理解する。


 なるほど、この世界での綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)の人気はかなりのものらしい。


「ま、まああとでな。それで、エレグにはどこに行ったら会えるんだ?」


 俺がそう尋ねると全員がぱちぱちと目を合わせてげんなりしたような顔で、


「「「「会うのはやめた方がいい。」」」」


 なんとも息の合った返事。しかしそれは俺が期待していたものとは真逆な返事なのも事実で。


「どうしてだ!弟子を取ってたっていうくらいだから有名な奴なんだろ!?」

「ふぅ、いいですかジンさん。エレグさんはたしかにたくさんの弟子を取っていました。しかし、その多くが彼の修行に耐えかねて逃げ出し、しまいにはバッドさんしか残らなかったそうです。」


 ため息一つ、リットは神妙な顔つきでこちらの質問に答えた。


「……まじ?」

「「「「まじ」」」」

「まじか~。」


 ある程度は想定していた。が、思っていたよりも面倒くさい相手のようだ。


 俺は逃げ出したい欲求を逃がすために天を仰いで、でかめの息を吐く。


「あの~みなさん。そろそろつくので準備だけお願いします……。」


 それまで一言もしゃべらず粛々と荷馬車を運転していたルートの呼びかけに俺は前を見やる。

 森を抜け、平原の奥に見えるのは白い町並み。石塀に囲われたそこは背の高い家が隙間なく連なり、フーリほどではないにしろ、かなり大きな町がそこにはあった。


 ◇


「やっと着きましたねジンさん……。」

「長かった。ほんとに、長かった……。」


 長旅で疲労が限界な俺とルートはクマを浮かべながら前傾姿勢で町の門を通る。


 先に門の奥で待っていたシーナが門を通ったのを見てこちらに小走りで寄ってくると、上目遣いで問う。


「ジンさん!!このままギルドに行きますよね?」

「ああ、でも腹ごしらえが先かな。」

「そうですか!では私たちはクエスト完了の報告に先にギルドで待っていますね!!」

「お~う。」


 仲間を連れてギルドに向かうシーナに手を振って見送る。


「ルートお前は。」

「もちろん家に帰って寝ます。では。」


 それだけ言い残し、前傾姿勢でふらふらと街中へ消えていくルートを見送った後、俺は屋台を見て回ることにした。


 ヘルセンタの中央通りには多くの人が行き交い、道に並ぶ多くの屋台の種類もまた豊富。魔石、魔道具、モンスターの皮。そして────肉。


 そのなんとも魅惑的な艶のあるタレのかかった肉串を見た瞬間、俺はゾンビのようにふらふらと屋台へ向かう。

 そして店主であろう顎髭を生やした気のよさそうなおっちゃんに声をかける。


「おっちゃんそれ一つ。」

「お、おう……。大丈夫か?」

「大丈夫だ。それより肉、くれ。」


 限界を向かえた俺の様子を見かねたのか、おっちゃんはニカッと歯茎を見せて、


「しゃーねー。ほら!もう一本持ってけ!サービスだ!!」

「っ────!!まじで!?サンキュー!!!」


 異世界ならではの優しさにそれまでの疲れが嘘のように俺はその二本の肉串に飛びついた。


「また来るよ!!ありがとな!!」

「おうよ!気をつけてな!」


 いや~異世界にも良い奴はいるもんだな!さて、食うか!!


 あ~んと、大口を開けて肉串を頬張ろうとした、その時。


「あんちゃん、それ、くれんかの?」


 高くしゃがれた、老人のような声が。


「ん?」


 しかし見回すがそれっぽい人は見当たらない。


「気のせいか。んじゃ、いただきま────」

「それ、くれよ。」

「アガッ。」


 また同じ声が俺の食事の邪魔をする。


「誰だかしんね~けどこの肉串は俺んだ!!やらねぇよ!!いただきま────」

「くれよ。」

「ッグ。あ~!!うぜぇ!!誰ださっきから!!」


 血の昇った頭でブンブンと再度辺りを見回すが、いない。


「下じゃよ。」

「あん?」


 そう告げる声に従って足元に目を向ける。そこには小さな耳の長い老人が杖を両手に立っていた。


 全く気付かなかった。耳が長い……エルフか?


「やっと気づきおったか。ほれ、よこさんかい。」


 その小さいエルフの老人は図々しくも肉串をよこせと右手を差し出した。

 それを見て俺はニヤリと笑みを浮かべて、


「取れるなら取ってみな爺さん。」


 爺さんには決して届かない位置に肉串を掲げた。


 当然、あげる気など毛頭ない。俺の大切なメシを厚かましくも奪おうというのだ。これくらいの意地悪は許されるだろ、きっと。


 しかし俺の意地悪に掲げられた肉串に目を細め老人はこぼす。


「なるほどのぅ。」


 老人のふとしたつぶやきに俺は首を傾げた。その瞬間、老人は視界から消え瞬間移動したかのように背後に移動していた。

 そしてその手には今まで持っていたはずの俺の肉串が握られていた。


「あ!!」

「油断大敵じゃよ。ほなな。」


 それだけ言い残したエルフの爺さん。肉串を一口頬張るとプラプラと振って去っていく。


「おい待て!!」


 茫然とその姿を目で追っていた俺だがはっと我に返り爺さんを追いかける。が、


「くそいねぇ!!」


 路地に入ったところまで捉えていた爺さんを見逃してしまった。


「はあ、今日は厄日だな。」


 無くなった肉串を惜しみつつ、俺はため息をついても一本を勢いよく噛みちぎった。

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