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追い剥ぎ

 メーティア王国。大陸の北に位置する小国で豊富な鉄鋼資源と国の三分の一を占める森林地帯を持ち、森林資源も豊富と。その穏やかな国民性から温厚な人が多い────


「────はずじゃなかったっけ!?」

「ヒャッハーッ!飛ばすぜおい!!!」

「行くぜオラー!!!」


 フーリを出て三日が経った。メーティア王国の国境を越え、バッドの師匠エレグ・オルタのいる町ヘルセンタに向かっている途中の森林地帯に入ったあたりで俺たちは────追いはぎにあっていた。


「なるほどこれはまずいです!近道したのがこれほどあだになるとは!!」


 俺が乗る荷馬車を運転しているルートが眼鏡の奥の瞳を震わせながら独り言のように叫ぶ。


「話と違うぞルート!!こっちは近くて安全な道じゃないのかよ!?」


 そう言って俺はビシッと追ってくるやつらを指さす。

 白いトラに乗って馬車の後ろにぴったりと付くその集団。トゲを装飾した肩パッドに髑髏(ドクロ)が描かれたバンダナを付けたパンクロックな服装でさらには髪型をモヒカンで統一したまさに世紀末を思わせるゴロツキだ。


 ルートが抜け道があると言ってこの人気(ひとけ)のない林道に入った時から嫌な予感はしていたが、これはさすがに想定外!!


「うう、うるさいですね!!僕だってまさかフンダートに会うなんて思ってませんでしたよぉ!!」


 ルートの茶色のおかっぱ髪から覗く瞳には涙が浮かんでいた。


「フンダートぉ?」

「メーティア王国やエーレ帝国をナワバリとしてる半ぐれ集団ですよ!!てわけでジンさん!!今すぐ馬車から飛び降りて、媚びへつらいながら身ぐるみを剝がされてきてください!!」

「てめぇルート!!それでも御者か!?最後まで俺を送り届けろよ!!」

「こうなってはもう仕事なんて関係ないですよ!!さあもういっそ飛び降りてしまいましょうレッツ、バン()ー!!」

「命綱は!?ねぇ命綱は!?」

「うるせぇなお前ら!いつまでやってんだ!!」


 馬車の背を追うフンダートの一人が叫んだ。リーダー格なのだろう、フンダートの先頭を走るそいつはピンクに髪を染め手足が長くナナフシのような印象を受ける男だ。そいつの怒声に身をかがめて、ひぃいい!と怯えるルートに俺は内心歯噛みした。


 正直問題これはかなりやばい……!今俺の荷物にはバーゼリアから支給された数か月分の生活費とバッドからの紹介状がある。これを取られたりなんてしたら出オチもいいとこだ!!


「ルート!!この先はどうなってる!!」

「こ、この先の橋を渡って5kmほどの場所にヘルセンタがありますけど、無事に着けそうにもありませんよー!!」


 泣きながら手綱を握るルートに俺は荷台から身を乗り出して聞き返す。


「橋があるのか!!」

「だからそう言ってるでしょ!!それより早く飛び降りてくださいよ!!大丈夫です後で助けますから!たぶんおそらくきっと!」

「お前のそれは信用らねぇんだよ!!てかそうじゃなくて!その橋使って撒くぞ!!」

「ええ!?どうやってですか!馬車の重さ程度で落ちる橋じゃないですよ!!」


 器用に馬を操りながら肩を跳ねさせるルート。その様子に俺はニヤッと口を歪めて、


「大丈夫だ、とっておきがある!」

「……し、信じましたからねー!!!!」


 ちらっと俺を見た後ルートは覚悟を決めたのか、怯えた顔のまま叫び馬を加速させる。


「ヒャッハー!なに考えてるか知らねぇけどよぉ?そろそろ終わらせるぜぇ!!」


 語尾を跳ねさせたフンダートの一人がサッカーボールほどの大きさの水の球を放ち、バカンッと荷台の天蓋を打ち抜いた。それを合図に次々とその仲間も魔法を放つ。何度も魔法を浴びた馬車はハチの巣状態、車輪にも魔法が当たったようでゴロゴロと音を立て険しい砂利道を進んでいるのかと思うほど荷台が揺れている。


「くそっ!まだかエルト!!」

「み、見えてきました!橋です!!」


 ルートの返答にかがめていた上体を戻す。たしかにちょうど馬車一台分ほどの幅のある木製の橋が前方に見えた。


「よしっ!そのまま突っ走れ!!」

「はいぃぃ!!」


 車輪が壊れていてもおかまいなし。俺の指示を聞いてルートはさらに馬を加速させた。


「っち、追え!!」


 距離を取ろうとする俺たちに気づいたリーダーが白虎を加速させる。それに続いて他のフンダートも白虎の腹を強く蹴り同じように速度を上げた。


 やがて馬車が橋に差し掛かかった頃、俺はあるものを荷物から取り出した。それは一見するとただの刀身が赤いナイフ。しかしよく見ると刀身にはとぐろを巻いた蛇のように長々と術式が刻印されおり、それはまるで呪文のようで。


「さあさあ、お立合い!!(わたくし)が取り出しましたるはこの煌々と光を放つ朱き剣────」


 荷台に堂々と立った俺は、前口上と共にフンダートの前に姿を見せた。テレビショッピングさながらに剣を紹介するその様子にフンダートたちは声を張り上げて笑う。


「なんだぁ?恐怖で気でもおかしくなったか?」

「そいつは売ったら高そうだ、こっちによこせ!!」

「ぎゃははいいぞー!!」


 しかしそんな嘲笑もなんのその。おかまいなしに俺は続ける。


「この”いかにも”な剣を持ち客席でご覧の皆様に一言────」


 俺はナイフをゆっくりとフンダートに向けて傾ける。


「はは!ばーかもう追いつくぜ!!」

「そのまま持ってな!そいつはすぐに俺が────」


 馬車が橋を越えたタイミング。荷台にフンダートの手が触れた────その瞬間。


炎獄の螺旋(フレカムナ)────」


 前に構えたナイフ。その刀身から螺旋を描いて朱色の炎の波が放たれた。腹のすかした獣のように空気を飲み込んでいく炎は近づいた三人のフンダートを焼き、向こう岸の橋を焼いて落とした。


「うあああああああああああ!!!」


 落ちていくフンダートの断末魔が聞こえた。向こう岸に取り残されたフンダートたちも恨めしそうにとこちらを睨むだけで何もしてくる様子はない。バッドやメイゼのように飛行系の魔術が使えたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていたがどうやら杞憂だったようだ。


「ジンさんやりましたね!僕は始めから信じていましたよ!ええ!!」

「ずいぶんと都合のいい脳みそしてるみたいだなお前……。」


 ルートの物言いに呆れかえる。


 散々保身に走っていたくせによく言うよ……。


「でもそんなの持っていたなら最初から使っていればよかったんじゃないですか?」

「聞いた話だが、どうやらこいつは一回限りのものらしい。術式と魔石のかみ合わせが悪いとかなんとか言ってたな。」

「へー!まあよくわかりませんが、おかげでたすかりましたよ!!」


 ふぅと一息ついて手元のナイフに目を落とす。先ほどまで炎のように赤い光を放っていたナイフは光を失い、灰を固めたような冷たい色になっていた。

 実はこのナイフ、出発前に護身用にとバッドからもらったもので一回限りではあるが魔術が放てる魔術具なのだ。


 バッドのやつも少しは気が回るじゃないか。


 そう心でつぶやいた俺は、大戦艦の船長さながらの気迫で前を指さし叫んだ。


「危機は去った!もう俺たちを邪魔するものはいねぇ!!いざ、ヘルセンタへ!!」

「お~!!」

「行かせねぇぜ……。」


 俺の言葉に続いたルートの声。しかしもう一人それに続く声が聞こえた。ひやりと背筋に悪寒が奔る。今後ろから聞こえた低い声には聞き覚えがあった。


「ああくそ、イラつく、イラつくぜ。お前ら……簡単には死なせねぇ。確(コロ)だ……!」


 自慢のモヒカンが焦げ、パンチパーマ風になった男。あのピンク髪のフンダート野郎が口から煙を吐きながら荷台の端から顔をのぞかせたのだ。


 振り向いてその男の存在に気づいたルートと俺は互いに息を呑む。


 手元のナイフはもう使用回数切れ。対抗手段は……ない。詰んだ────。

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