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再始動そして遺物

 ────見覚えのある天井。廊下から吹く穏やかな風が頬を撫でた。


「帰って来たのか。」


 ぽつりと一言。それを発した瞬間に俺は起こったすべてを思い返した。その記憶での俺は、いつでもどこでも逃げ隠れしていた。


「はは、情けねぇ。」


 乾いた笑いが消えゆく残響に俺は小さくため息をついた。


「おう、起きたか。」


 低い、落ち着いた声がした。部屋に一人だと思っていたがもう一人いたようだ。すぐ横のベッドの端に腰かけたバーゼリアに俺は目を向けた。


「なんか用か?」

「悪かったな。」


 そう淡々と切り出したバーゼリアは手元のリンゴに似た果実を剥きながら続ける。


「私の責任だ。急ぎ過ぎてしまった。」


 なにを────とは聞かなかった。それにはなんとなく察しがついていた、おそらくは”俺の中”にいるやつのことなんだろう。


 俺は天井に向き直り、右手を上げる。


「気にすんなよ。でも、おかげで分かった。俺はこの世界じゃ、ちっぽけなんだ。だから────」


 上げた手のひらで拳を作る。そしてその腕を振り下ろし、勢いそのままに上半身を持ち上げた。


「俺は強くなるぞ、バーゼリア。」


 目的は定まった。覚悟も決まった。あとはもう────やるだけだ。


「……心配は杞憂だったようだな。ほら私の手垢がたくさん詰まったリンカの実だ、たんと食え。」


 ふっと笑みを浮かべたバーゼリアは食欲を減退させる謳い文句で皿に盛ったその果物を枕元に置いた。


 俺は不快感に顔を歪ませ渋々それを口に運んだ。


 その後のバーゼリアの話によるとあの時、霧幻世界(ネーベルデウス)だったり、あの豚のような高位等級(クラス)幻血種(クリムゾア)がいた理由はまだ分かっていないらしい。


 そして俺を襲ったあの少年だが、まさかの全権大使(オールドミニスター)で高位等級(クラス)出現の報告を受けたそいつは、調査のためにあのダンジョンに訪れていた。そこで偶然にも俺と出会い、議題が俺であった例の会議で恥をかかされたのを思い出し襲ったらしい。とんでもねぇガキだ、二度と会いたくねぇ。


 そのガキから助けてくれた青年。オボロ・キヌハラというらしいがそいつも同様に全権大使(オールドミニスター)らしく、同じ報告を受けてダンジョンに一人で調査に入ったらしい。今度会ったら礼でも言おうと思う。


「それと、だ。私もお前に聞きたいことがある。お前の服にあったこの本、これをどこで拾った?」


 一通り報告を終えたバーゼリアが取り出したそれは古びた革表紙の小さい本。


 あれはたしか……、あの豚の落とし物か。


「ダンジョンで拾ったもんだけど、それがどうかしたのか?」

「っち、本当にお前はこの世界に好かれてんだか嫌われてんだか分からん奴だな。」


 はあとため息一つ、続けてバーゼリアは────


「これは汚染遺物だ。」

「遺物?」


 パタパタとその本を揺らすバーゼリアに俺は首を傾げた。


「汚染区ができる以前の話、そこにあったとされる幻の国の遺物。言っちまえば汚染区の謎を解くためのカギになるかもしれないブツだな。そしてそのほとんどが幻血種(デ・アーラ)のせいで灰になっちまってるが、ごく稀にこんな風にでてくることがある。」

「幻の国……それで、その本にはなんて?」

「こいつは学術書の(たぐい)じゃない。これは────絵本だ。」

「絵本?」

「ああ、中身を読むぞ。」


 ◇

 ある村にとても可愛らしい女の子がおりました。その子は庭に咲いた綺麗なお花を眺めているのが大好きでした。


 そんなある日、女の子は誤ってそのお庭に毒を撒いてしまいます。案の定、一晩のうちにお花は枯れお庭にはなにも残っていませんでした。


嗚呼(ああ)、本当に悲しいわ。私はなんてことをしてしまったの」


 少女はひどく悲しんで引きこもってしまいます。


 そんな少女を哀れに思ったお姉さんは村中から女性が好きなものを集めました。宝石、ドレス、砂糖菓子、色んなものを少女に与えましたがその子は出てきてはくれません。再度、種を植えることもしましたが土が死んでいて庭にお花が咲くことはついぞありませんでした。


 お姉さんは途方にくれます。


「どうにか出てきてくれないかしら。」


 そこで村長に助けを求めます。

 それを聞いた村長はこう言いました。


「その死んだ庭に■■■■をやりなさい。そうすればすべてが元通りになるはずだよ。」


 そうして言われた通り庭に■■■■をやると、その庭は在りし日の姿に戻りました。その庭を見た少女はお姉さんに言いました。


「■■■■■■■■」


 それを聞いたお姉さんは咲いたばかりのお花をスコップで何度も叩き、まるで死体処理のようにその花たちを土に埋め、少女に尋ねます。


「これでどう?」


 少女は満面の笑みを浮かべてお姉さんに言いました。


「ありがとう。」と

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