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横槍

 勘違いしていた。勘違いしていたんだ……!俺ならやれると思っていた。何か特別な力があるものだと思っていた。けど実際はちがったんだ!俺は弱い!!大切な仲間を傷つけて!モンスターに足がすくんで!!だけど!!今だけは動くしかない!!俺は……あいつらだけは絶対に助けたいんだ!!


 俺は白い大理石の床を駆けた。向かうは来た道と反対側、王の間の奥の広い通路だ。最深部とはいっても一方通行ではなかったらしい。


「ブギィイイイイ!!」

「どわっ!!っぶねぇ!!」」


 咆哮とともにモンスターが杖を振り下ろす。悪寒を感じた俺は勢いそのままに左に飛ぶ。俺のすぐ横の地面を人骨のついた杖が貫いた。


 あんなもの、かすっただけでその部位がはじけ飛ぶ!!どうにかして距離を取んねぇと!!────そうだ!!


 俺は追いかけっこを続けながらその手に持った魔石のついたネックレスから魔石の一個を引きちぎる。


「おら取ってこいっ!!」


 その手に持った魔石を部屋の端へと投げた。するとそのモンスターは考えた通り、犬とのボール遊びさながらに投げた魔石の方へと走って行った。


 どういう訳かあいつは所有物への執着がすさまじい。たとえ一つの魔石でも見逃さないほどに!!残る魔石は5つ、これならいけるぞ!!


「いてっ、なんだ?」


 魔石に希望を見出すのと同時、俺は何かに足を取られた。目を落とすとそこには折り紙ほどの大きさの本。


 これもあいつの落とし物か?まあいい取り合えず懐に入れておこう。


 それを内ポケットにしまった後、豚に近づかれては投げ、近づかれては投げを繰り返す。それを続けていくうちに手元に残った魔石が一つになった。


「はあっ、げほっ……、これで、最後……。」


 だいぶあそこから離れたな。メイゼたちはこのダンジョンから逃げきれただろうか。


 ふと自分の手に収まった魔石に目を落とす。


「これを投げたらあいつは次に俺を殺すだろうな。」

「ギャブァァァァァァ!!」


 俺のつぶやきに答えるかのように、その巨体がドスドスと音を立てて背後に迫ってくる。


「くっ……!!おらっ!!」


 後ろ髪を引かれながらもその魔石を後ろへと投げる。その振り向きざま、俺は歩を止めた。曲がり角、10人ほどの隊と出くわしたのだ。


「ん?だれ、君。」


 戦闘を歩いていた中学生ほどの背格好の少年が俺に声をかけた。声変わりしきっていない高い声に緑のローブ。明らかに場違いなその姿に動揺するが、後ろから鳴る地響きに背筋が凍る。


「逃げろ!!」

「あ?」

「逃げろって言ってんだ!ここにモンスターが迫ってる!!はやくしろ!!」


 喉が激痛を訴えるほどの必死の忠告。だが、その少年はそれを鼻で笑い一蹴すると。憎たらしいまでの笑顔でを作った。


「僕が逃げる???馬鹿言っちゃいけないぜお前。そもそもお前のその変な服は────待てよ、お前……。」


 しかしその少年は突然言葉を切り、俺の姿を上から下までゆっくりと観察し始めた。


「何してんだ、ほらもうすぐそこに!!」

「ギャアアアアアアアアアア、ブギャアアアアアアアア」

五月蠅(うるさ)い。」


 右手をブンと振り上げた。たったそれだけの動作。それだけのはずなのにすぐ後ろまで迫っていた豚が、三枚にスライスにされた。


「いま、なにをした……?」

「何をしただぁ?そんなことはどうでもいいんだよ。それよりお前……、あのときはよくも僕に恥をかかせてくれたな……!」


 右手に獣の爪のような影を宿したまま、なにやら腹を立てた様子でワナワナと震える少年の言葉に俺は首を傾げた。


 あのとき?この子とは初対面のはずだが。人違いか?


「えーと、君とは初めて会ったと思うんだけど?」

「お前ふざけてるのか?まあいい、どうせ無くなる命だ。じゃあなモンスター。」


 そう言って右手を振り上げたのを確認した瞬間だった。俺のすぐ横の虚空を歪に形作られた獣の爪が切り裂いた。遅れて吹き返しの風が突風のように体を叩く。


「っち、霧幻世界(ネーベルデウス)の影響がまだ残ってるな。仕方ない、もう一度。」


 考える暇も与えられず、その右手は無情にも俺に向かって振り下ろされた。その瞬間だった、ガギィンッと鉄を打つような音が前方で鳴り響く。


 恐る恐る閉じていた目を開ける。獣の爪を刀で受けている白い着物を着た同い年くらいの青年が立っていた。


「ウエートさん。綺麗好きな冒険者(同志)に対して危害を加えることは法で禁止されているはずですが、違いましたっけっ!!」

「っちぃ!」


 青年は剣を振り上げ爪を弾くと俺のジャケットの襟を掴んで俺ごと少年から距離を取る。


「君とは会うはもう少し後だと思っていたんだけど。案外僕らは相性がいいのかもしれないね、喪服同士だし。」


 そう独り言のようにつぶやいた青年は俺の返事を待たず相対する獣の少年を睨む。


「おいおい、何してくれちゃってんのさ第十一ぃ~。今いいとこなんだよ、いいからそいつ、渡して?」


 不気味な笑顔を向け、こちらに手を差し伸べる少年。俺はそれに芯から凍るような恐怖を感じた。


「それはできませんよ、彼はもう我々の仲間ですからね。それでも彼に危害を加えようというのならあなたであっても容赦はしません。」


 青年がおろしていた刀の剣先にどこからか現れたモルフォ蝶を思わせる美しい碧の羽を持つ蝶が止まる。その蝶がドロリと溶けたかと思うと刀身が黒く染まり、青色の幾何学的な線が走った。


「君さーもっと戦う相手選びなよ。じゃないと────、すぐに死んじゃうよ?」


 そう言い放った少年に影の甲冑が装着される。山羊の頭蓋骨を模した兜、ゆらりとしたくびれのあるネコ科の鎧、鹿のようにすらりと長い脚と(ひづめ)。影の合成獣(キメラ)と化したその姿はまるで、悪魔のようだった。


「どうやら実力行使しかないみたいですね。」

「あーめんどくさ!じゃあこっちからいく────」

「ジン!!どこだ!!」


 互いが戦闘態勢に入った時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。


「この声は……オゴーか!!」

「はあ!!また横槍ぃ!?」

「救援ですかね、どうします?続けますか?」

「……っち、興が冷めた。おいお前ら、帰るぞ。」


 なんともあっけない終わり。これからというところで水を差されたその少年は隊を連れてつまらなそうに背を向けた。


「いたぞ!!ジン無事か!?」


 後方からオゴーとその他フーリの綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)たち10人ほどが俺に駆け寄った。


「ああ、全然なんともねぇ。それより、みんなは?」

「安心しろ、みんな無事だ。今ごろホームで休んでるはずだぞ。」

「よかった……。」

「ああ!よくやったぞジン!!おぉっと。」


 その朗報に強張っていた全身から力が抜け、オゴーに倒れ込んだ。安堵もあってか急激な眠気で瞼が重くなる。


 守れたんだな……。

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