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三つの指令

「そういやこんなんありましたねーーーーーーーーー!!!!!!」


 道中、俺はまたカテラの背におぶさりながら移動した。祝福のない今の俺が汚染区を移動するにはこれしかないからだそうだ。魔術で翼を生やしたバッドが今にも失神しそうな俺を見て、大笑いしている。一刻も早く魔術を習得してこいつを殺すと心に誓ったところで俺の意識は────プツンと途切れた。


「とうちゃーく!!ほらジン起きて!!」


 ────なんだ、俺の頬になにかが触れてるような……。


「叩いても起きない……完全に伸びてる。」

「そんなんじゃ甘ぇよカテラ、俺に任せろ。」


 ん……なんだ……頬の感触がなくなっ────


「────いってぇ!!!!!」


 響く音と共に頬にしびれる痛みが走った。その衝撃でカテラの背から地面に落ちる。バサッと灰が舞った。

 目の前には────右手を左肩まで伸ばしたバッド。明らか平手をかました後のポーズだ。


「っにすんだ!!」

「情けねぇ顔で寝てやがったからこれ以上醜態を晒す前に起こしてやったんだよ!!バーカ!!」


 前言撤回!!魔術がなくとも今ここで────


「殺すっ!!」

「あ?やってみやが────」

「二人とも危ない!!」

魔氷の牙(グレイスクロア)っ……!!」


 右手に拳を作って立ち上がると応戦するようにバッドも拳を振り上げた時、カテラの焦りを孕んだ叫び声とメイゼの詠唱が響いた。それとほぼ同時、相対していた俺とバッドの間を何かが過ぎ去り、その方向でつぶれたような獣の悲鳴が上がった。


「ギャグァッ!!」

「なっ!!」


 慌てて悲鳴の方を見やる。そこには消えかかった狼とその喉元に噛みつく氷でできた獣の頭部。


「いくら前半層だからって気を抜かないで!!バッドも周りは常に警戒!!常識だよ!!」


 そう叱るカテラは普段のそのキャラクターからは考えられないほどに真面目な顔をしている。そんな彼女の表情だけで、どれほど危険な状況だったかを思い知った。


「ん、あと少しで怪我するところだった。」


 焦るカテラと対照的にメイゼはその表所を崩さず静かに俺たちを咎めた。彼女の胸の前に広がった蒼い魔法陣がパキンッ割れる。どうやらあの魔術はメイゼのものだったらしい。


「わ、わりぃ。」

「ごめん気を付ける。」

「分かればいいのです!!さて、じゃあ切り替えて!!みんな周囲を警戒しながら聞いてね!!ボスから預かった指令は三つ、一つは等級(クラス)Bの魔石を5個とCの魔石を10個回収すること!二つ!!ダンジョンを一つ踏破すること!!三つ!全員生きて帰還すること!!分かった?」


 そう言ってカテラは先ほど倒した狼の魔石を拾い上げた。


「ああ、だからメイゼなのか。」

「そっ!!頼りにしてるよ、メイゼ!!」

「ん、分かった。」


 ダンジョンと聞いてバッドがなるほどと頷きカテラが心強いと漏らす。

 あのデカいワームを事も無げに倒してしまう二人がメイゼを頼る理由が分からなかった俺は首を傾げた。


「ダンジョンが何かメイゼと関係あんのか?」

「んーじゃあまずメイゼの話からしよっか。メイゼの家、バルデンシア家は精霊術に長けた家系で、さっき話したゼンゼ・バルデンシアも精霊使いなんだ!そして~!その家の次女であるメイゼの精霊術は魔術等級の十芒星にも並ぶくらいすごいのです!!」

「説明ありがと。けど、汚染区ではその精霊術は使えない。」


 メイゼはカテラに少し笑みを浮かべた後、忌々しそうに空を見上げた。


「魔術や魔法は使えるのになんで精霊術はダメなんだ?」

「精霊術の編纂方法に問題があるの。魔術や魔法は魔力を媒介にして技の発動条件を満たすのに対して、精霊術は空気中にいる精霊の力を借りて術を発動する。そして精霊は紅き月(デ・アーラ)の月光の効果対象。」


 俺はそれに息を呑んだ。生物や物質では飽き足らず術すら禁止してしまうその紅き月(ちから)に、そしてその影響を受けてなお英雄と呼ばれた精霊使いゼンゼ・バルデンシアに────。


「でもでも!!ダンジョンは紅き月(デ・アーラ)の力が干渉しない場所!!なのでメイゼは精霊術が使えちゃうのです!!」


 慰めるようにメイゼに抱き着いたカテラ。それを見やった後、バッドが親指でピッと後ろを指す。


「んで、今から行くダンジョンはあそこだ。」


 そこは灰が丘のように積もった丘陵地帯。その中に一つだけポカンと穴の開いた丘が見えた。

 それを見て俺は今までの話に合点がいった。


 紅き月(デ・アーラ)の力が干渉しないと言っていた理由はダンジョンが地下にあるからか。なるほど地下なら幻血種(デ・アーラ)の月光が届くことはない。


「ダンジョンは魔女の呪いの吹き溜まり。未だ発生源が分からねぇ幻血種(クリムゾア)の出現場所がダンジョンと言われるほどに幻血種(クリムゾア)の量が多い場所だ。」

「そんな場所、紅き月(デ・アーラ)がいなかったとしても危険なんじゃねーの?俺たちだけで大丈夫なのか?」

「聞いただろ?ここは前半層、当然ここのダンジョンも攻略難易度は易しめだ。」

「まあ、それなら大丈夫か。」


 ほっと胸をなで下ろした俺を見てバッドは続ける。


「このダンジョンは『ポイント・ヌル』、人類が初めて踏破した始まりのダンジョンにしてゼンゼ・バルデンシアの最初の逸話を残した場所だ。」


 ゼンゼ・バルデンシア、またその名前か。最初の逸話って、一体いくつあるんだよ。


「逸話ってのは?」


 ゼンゼ・バルデンシアと聞いてメイゼを見るが、彼女は意味ありげに視線を泳がせるだけで何も話そうとはしなかった。


 それを見かねたバッドが話を続ける。


「一個中隊を壊滅させた等級(クラス)Aの幻血種(クリムゾア)を一人で倒したって話だ。っていってもポイント・ヌルに等級(クラス)Aがいるわけぇしこれに関しては信憑性は低いがな。」


「ふーん。」


 数百年前のことだしそりゃ話も大きくなるか。


「まっ、おめーは黙って見学しとけ。どうせ戦力にならねぇからな。」

「あ?(デコイ)くらいには役に立つんだよ、あんまナメんな。」

「対抗の仕方が悲しすぎる……。」

「あははー!じゃあ説明はこのくらいにしてレッツゴー!だよ!!」

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