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蟲と何か

「さあ!!元気よくいこうかーー!!」

「ほんとに調子がいいですねこの人は」


 システィアさんの膝枕で元気いっぱいになった俺を、呆れた様子で睨むココロッココ。


「美女の膝枕の前にはどんな悩みも病も効かないのさっ☆」

「やかましいです。顔が。」


 そう吐き捨てるココロッココは俺のキメ顔を無視してそっぽを向いた。


 君も俺の扱いがちょっと雑になってきてないか?


「ふふ、じゃあ始めましょうか。」


 本題にはいるために、システィアさんはマットレスから腰を離す。身に着けた白衣がふわりと揺れ、その美形が目と鼻の先に迫った。


 ドキリと心臓が高鳴るのを感じる。しかし────、


「えい♡」


 システィアさんの可愛げのある笑みと同時、首元に鋭い痛みが走った。


「いってぇぇぇ!?」


 事態の解明のため、痛みのする方に視線を向ける。するとそこにはシスティアさんの伸ばした腕、握られているのは注射器だ。その瞬間、俺は思い出した。


 体液の摂取による診察────!!膝枕の心地よさで忘れていた!!!くそこのアマ、油断させて刺すとはなんて卑怯な!!その愚行、末代まで呪ってくれようぞ!!


「はいおしまいっ!よく頑張ったわね。」


 彼女はスッと注射針を抜き、柔和な笑顔で俺の頭を撫でた。それこそ注射を終えた子供に送るような笑みで。

 

 ……許そう、すべてをな。


「ふふ、じゃあいただきます。」


 怒るに怒れなくなり、仏頂面になった俺の顔を見て微笑んだ後、システィアさんは血の入った注射を押して口に垂らした。


「んっ♡おいし♡」

「おお!!」


 その淫猥な動作に仏頂面だった俺の表情はすっかり崩れてしまっていた。


「ねえココロッココ。なんでジンはテンション上がってるの?」

「さあ?どうせまたくだらないことですよ。」


 掛け合うカテラ達。一方、システィアさんは診断を開始したのかマットレスにストンと腰を下ろし、足を組んだ。そして一言、「加護開放『魂の暗幕(イン・ザ・アビス)』」とつぶやいた。まるで意識がないかのような無表情から覗くその瞳は、菫色に淡く光っている。


「そう、なるほど……。」


 彼女は両方の瞳から一筋の血が流れるのを指で止め、つぶやいた。


「どうだったの~!」


 そう言ってシスティアに抱き着くカテラ。


 おい羨ましいぞ!そこ変われ!!


「まず、ジンくんからは紅き月(デ・アーラ)の力の残滓(ざんし)は感じられない。驚いた、本当に祝福いらずなのね。それと魔力量もかなりのもの。バッドと同じくらいはあるわ。他には────っ!?」


 しかしシスティアは突然言葉を切り、動揺を隠せない様子で目を見開いた。


「どうした?」

「──────今のは……?」


 左目を押さえて息を呑む彼女は続けて、


「ジン君……あなたの中に、何かいる……!」


 そう訴える彼女は心底怯えているようにみえた。


「何かってなんです?」


 ココロッココがはて?と首をかしげる。


「私の加護魂の暗幕(イン・ザ・アビス)はね、対象の情報を覗く能力があるの。何重にも垂れ下がった暗幕をくぐっていって暗幕をくぐった先にある景色から人物の情報を推測していくようなイメージね。だけど……ジン君の奥の方の情報を覗こうと暗幕に手をかけたとき、それを拒むかのように色んな昆虫の脚や羽が中から飛び出して私の目を抉ったのよ。」


 よほど恐ろしかったんだろう、左目を押さえ身体を震わせるシスティアさんからはもう、先ほどまでの余裕が感じられない。


「虫の脚!?きもっ!!こわっ!!ですっ!!」

「ジンの中にはたくさん虫がいるの?」


 体に……虫……?


 一気に体に怖気が走った。小さな羽虫にも怯える俺にとってそれはあまりにも、あまりにも────無理!!!今すぐ殺虫剤入りのシャワーを浴びたい気分だ!!


「どうにかして取れないんですかそれ!!」

「お、落ち着いて、何かっていうのはその虫たちのことじゃないのよ……。瞳を抉られる瞬間、迫る虫で広げられた暗幕の隙間から見えたモノ。灰色の肌に影を編んだような漆黒のドレスを纏った長い銀髪の、あれは────女だわ。」

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