9 通路ってどこかに繋がれば通路ですよね
「どれくらい来ましたかね?扉とか超えちゃってるんじゃないでしょうか。」
あまり疲れてないのでジャングル程は歩いてないと思います。でも、結構歩いた気がしますね。足がクタクタです。
地下通路は水族館みたいなガラスではないので、外……というか上の状況がわからなくて不便です。多分ちゃぷちゃぷしてると思うんですが……水中通路みたいなのだったらキレイで楽しいとおもうんですけど。
「扉があったんですから、どこかで元の高さに行けると思うんですけど……。」
実はゆるーい坂になってて上とか下に行っていると迷子になってしまうかもしれません。
ペットボトルを転がして確かめてもいいんですが、よくわからないので必要は無いでしょう。今はとにかく進むべしです。
肩に乗ってぷゆぷゆしていたギンちゃんが、急に飛び跳ね始めます。どうしたのでしょうか。
念の為、足を止めて後ろを振り返ります。でも、何もなさそうです。何も変わらない安心感があります。
ホッとしますね。
でも、ギンちゃんが教えてくれてるのでなにかありそうです。
ギンちゃんを腕にぎゅっと抱きしめて、深呼吸してから一歩踏み出します。
「ふぇっ!?」
ぐるりと世界が回りました。いえ、視界が回っています。グルグルとして、立っていられません。
足がもつれて、ドンッと背中に何かがぶつかります。多分カベです。カベであってほしいです。でも確認なんて出来ません。だって見えるものすべてがグンニャリクルクルです。
そのままズルリと腰を下ろして目を閉じます。まだまだ気持ち悪いです。
車酔いのすごく酷いような、そんな感じです。上も下もよくわかりません。
腕に伝わるギンちゃんの感触だけが頼りです。でもそれもボヤけていって、触っているのに感覚がなくなってきています。
「………ぇ……………こ………………え………える………………どう?」
とても遠くで声がします。近いかもしれません。だって、自分でも声を出してみても、ほとんど聞こえません。耳が壊れちゃったのかもしれません。
「………これ………つ………るかな。ねぇ、ねぇちょっと。聞いてる?僕の言葉がまだわからない?の?」
少しはっきり聞こえました。だから返事したつもりですが、声になっているでしょうか。あぁなんかもう色々ダメです。苦しいです。息が出来な……
「あ、そっか。ほら、これでどう?」
すぅっと爽やかな風が身体の中を通りました。そんなはずがないのはわかっているのですけど、そんな感じでした。
気持ち悪さがなくなって、視界が回らなくなって、耳の詰まりが取れた気がします。
まだちょっとモヤモヤしますが、ほぼほぼ完治しましたかね?あまりにも酷かったので、自分でも曖昧な感じがします。一体何だったのでしょうか?
それよりも、ですね……目の前には白い人が居ます。名前だけシロな私は黒色髪こげ茶色目のザ・日本人ですが、目の前の人は、髪も肌も真っ白……いえ、白というよりは、透明が近いでしょうか。
ちゃんと色付いていて向こう側や内臓が透けて見えるわけでもないのに、見失ってしまいそうです。よく見れば瞳だって青みがかかっているのに、上手く目を合わせることができません。
「えーと、ありがとうございます?」
「ん、別に……それより、あの子は?」
「あの子?えぇっと」
思わず身体ごと抱きしめていたギンちゃんを見ます。
ぶにゅりと腕の形になってしまっていたので、慌てて手のひらに乗せて謝ります。ギンちゃんは何事もなかったようにプニュプニュ丸くなって、ぷるりと震えました。
「……うん、傷とかなさそうか。それにしてもお似合いの名前、つけてもらったね。」
手の上のギンちゃんがぽゆんと跳ねて、白い人の手に乗りました。
この人は一体誰なんでしょうか。あのお兄さんが言っていた親……というには随分と見掛けが違います。銀色っぽく見えなくもないですが、ぷにぽよ感はありません。あ、でも、ほっぺは少しぷにっとしてそうです。
「ほっぺがぷにっとはともかく、アイツの言ってた親だよ。まぁ正確には親って、表現は間違いなんだろうけど。」
あれ?声に出てましたかね。まだ調子が悪いのかもしれません。
それにしても、ギンちゃんも懐いていますし親……ではないんでしたね。とても信頼している人?なのは間違いないんでしょう。そういえば、ギンちゃんって何者なんでしょうか。
じっとギンちゃんを見てみますが、白い手のひらの上で銀色のぷにまるな身体をぷるぷる震わせています。聞こえてくるちょっと高めの音が声でしょうか。残念ながら理解は出来ません。でも、可愛いです。可愛いは正義なのでどうでもいいですね。
「考えたってわからないだろうから、それで良いんじゃない。」
『うー!ぷーぅ、しぷーうーうっ!』
「もう、こんなに心配かけたのにまだワガママ言って。元々そうするつもりだったし良いけどさ。」
白い人が腰掛ける動きをすると、そこに椅子が現れました。テーブルも出てきました。絶対に、ありませんでしたよ!?
ど、どういう事なんでしょうか……手品?手品なんでしょうか??
ギンちゃんはぽよよよんっとテーブルに飛び乗って、白い人の前でぴょんぴょんしています。
「アイツがいないとやっぱり不便……シロ、だっけ。さっさと座ってよ。」
「は、はい、シロです。わかりました。」
絶対に名乗ってないのですけど、きっとギンちゃんに聞いたんですね。羨ましいですね、私もギンちゃんとお話したいです。
席に着くと、目の間にほっかほかあっつあつな湯気を立てるステーキが出てきました。出てきた……っていうのも変ですかね。誰かが運んだとかではなく、急に出てきました。いい匂いも音も無かったのに突然にです。
でも、急に出るのは普通なのしれません。
驚いてはいますけど……たくさん見ましたので慣れてはいないですけど慣れました。
「食べていいよ。人間には食事が必要でしょ?」
良いんですか!?じゅうじゅうの分厚いステーキです。とってもお高そうでとっても美味しそうです。付け合せの野菜もつやつやで色もキレイですし、スープも澄んでいて、パンも丸々ふっくら。
ぐぅ〜とお腹が鳴ってしまいます。お兄さんからもらったパンだけでは足りなかったのです。育ち盛りですし、結構動きましたし。
「ありがとうございます。いただきます。」
フォークとナイフをお上品に使いますよ!でもまずはスープから……美味しいです!ステーキもすっとナイフが入ります!すごく美味しいです。特にこのソースが絶品です!
「ギンをさ、迎えに行かせた人間がいるじゃない?」
お口がいっぱいなのでコクコクと首を縦に振ります。
パンをくれたお兄さんのことですね。
この白い人と知り合いみたいですし、居てもおかしくない気がするんですけど……。居ませんね。
「そうだね。本当ならココにいるはずだし、呼び出せるはずなんだけどね。」
口がステーキな私はお話出来ませんし、してません。でも、お話が成立しています。もうこんなことで驚いたりする私シロちゃんではありませんよ!!
それにしてもお肉美味しいですね。
「シロがいたあそこって、えっと……そうだな……弟?が作った場所なんだけど」
ふむ、このお人には弟さんがいるんですね。お兄さんが言っていたあそこを遊び場として作った人のことですね。おそらく私を連れてきた人でもあります。信じられないような事なんですけど、信じるしかないです。
このステーキを出したこともですけれど、常識ではもう測れないような事をたくさん見せられているので。
「その弟さ、干渉されるの嫌いなんだよね。だからギンを直接探しに行かずに、連れ戻すように言ったんだけど……。そしたらさ、何故か中に居た人間を助けた……んと、道案内しちゃったみたいでね。弟が癇癪起こして、アイツの事、別のトコに連れてっちゃったみたいなんだよね。」
もしかしなくても私にパンとお茶をくれたり、ショートカット教えてくれたせいってことですね??かなーり罪悪感があるんですけど……その弟さんにお話して、お兄さん悪くないよって言えないでしょうか。
「言ったところで聞くと思えないけどね。んで、あっちも人間用の遊び場として作ったトコなんだけど、アイツでもちょっと時間かかりそうでね。」
この塔らしきところと似たような感じだとすると、奇妙なことの起きるちょっと?危険な場所なのかもしれません。でも、あのお兄さんはパンと飲み物が出せますから食料は大丈夫ですね。きっと他にもいろいろ色々出来るのでしょう。あの時、目の前から消えましたし、ギンちゃんとお話もしていましたし。
「そうだね。アイツは普通なら色々出来るよ。でも、今はちょっと出来ないみたいなんだよね。だから、迎えに行ってきて。」
「んくっ!?」
びっくりして噛み途中のステーキを飲み込んでしまいました。喉がちょっぴりヒリヒリします。
そんなことより、お迎え?お迎えに行くんですか?
「そうそう。もちろん、迎えに行くための用意はしてあげるからさ。」
いつ、どこに、誰が、どうやって、どうして。困ったときの5W1H。
疑問は沸きますが、疑問がうまくまとまりません。ついでに感情もまとまりません。
いえ、見捨てたりとかはしたくないんですけど、やっぱりまずは自分のお家に帰りたいというか……自分でも薄情だなとは思うんですが。
「どのみち自力じゃ帰れないんだから良いでしょ。クリアする場所が変わるだけだよ。」
そういわれて簡単に腹が決まれば悩んだりしません。でも、あのお兄さんには一宿一飯……宿はないので一ドリンク一パンの恩があるのは確かです。
ステーキの最後の一欠片を口に放り込みます。
これを飲み込んだら、覚悟を決めてお迎えシロちゃんになりましょう!
「ギンもついていくって言ってるからさ。」
ギンちゃんの天辺がちょっとだけ後ろに傾きます。胸を張ってるみたいです。頼りにしてますね。……あれ?
ハッ!?頭で会話出来ていたので、静かにしていましたが、声に出さねば伝わりません。言葉に出さずにわかってもらうことに慣れては良くありませんね。
「ギンちゃん、よろしくお願いしますね。」
『ぷゆー!』
しっかり言葉にすれば、ギンちゃんから返ってきます。
「それじゃ、よろしく。」
身体がふんわりぽかぽかしてきます。視界がぐんにゃりしてきますが、気持ち悪さはありません。
さっきも似たようなことがありましたがこれは何でしょうか?
考えてみますが教えてくれる声はありませんでした。
ブクマや星5、はげみになります!