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6 ジャングルには生き物がつきものかもしれません

そろりそろり、すぐに戻れるようにちょっとずつ音の方……ではなくて、その隣の木の裏側に移動します。見たらわかるかもしれませんからね。

私はとっても慎重な女の子ですから。

木の裏側について、そっち側を見ると男性が一人、壁の中から出てきました。よく見ると奥に壁の絵が書いてある板状のものがあります。隠し扉というやつですね、ロマンです。

じゃなくて!壁です!木どころかジャングルでもありません!?

周りを見ると、建物です。壁、床、天井です!?

ジャングルに入り込んだときと同じ感じです。急に視界が変わりました。

っと、それに驚いている暇はありません。

木がないので隠れるところがないのです。つまり、男性と私、お互いにはっきりと見ることが出来ます。

男性は、私より年上でしょうか。少なくとも、クラスメイトの男子よりは大人っぽく、父親ほどはフケていません。多分、大学生くらい。

黒髪に薄茶の目、着ているのはパーカーですかね。典型的な日本人っぽくみえますが…………なんか変な気がします。

あ、目が合いました。

ひとまず挨拶です。


「こん、こんにちはです!」

「…………みつけた。」

みつけた!?見つけたってことですか!?なにをですか!?

近づいて来ます。歩幅が大きいです。え、逃げるべき……ですか?


「こんなところに来てたのか。心配されていたぞ。」

違います。このお兄さん、私に話しかけていません。話しかけている先はギンちゃんです。膝を曲げ、視線を真っ直ぐわたしの手……の上のギンちゃんに向けています。


「さ、帰るぞ。」

『や』

「イヤって言われても、俺はお前を迎えに……」

『やー!』

おぉ、ギンちゃんが会話してます。ビックリドッキリです。いえ、衝撃なんですけど、驚きが多すぎてですね。どう話しかけたらいいでしょうか。なんかこうビビビっと名案電波来ませんか。迷案でもいいですよ。


『しぷーうーっしょなう』

ギンちゃんがしゅるり……ではありませんね。うんしょうんしょと時間をかけて移動して肩のところまで移動してきます。

ギンちゃんを見ているお兄さんと自然と目が合います。

えぇお兄さんの目がとっても怖いです。睨まれて……いえ、目付きが悪いだけな気がします。こういう人、いますよね。

あ、ギンちゃんのスリスリ……ぷにぷにで癒されますねぇ。えへへ、癒されてる場合じゃないんですが。

さて、深呼吸深呼吸……よし、いきますよ。


「はじめまして!白音です!こちらは相棒のギンちゃん!特技はぷにぷにぷに癒しです!いるだけで癒しな波動のすごい子です!」

「……お前は、人間か。」

わお、怖いです。名乗ったのに名乗ってくれません。しかも確かめる内容がおかしいです。いや、おかしくないのですかね。ココ、変ですし。


「アイツの悪ふざけに巻き込まれたやつか。その、お前がギンと名付けたやつなんだが…………あー……なんて説明すりゃ……うん、親か。親がだな。探してる。だから連れていきたい。」

説明に困っている様子はなんだかちょっと可愛い気もします。

勢い任せの警戒は、しなくてもいいかもしれませんね。ギンちゃん知り合いのようですし。

それにしても、内容はなんだか意味深です。突っ込んで聞きたい気もするんですが……説明してくれますかね?

ギンちゃんに首をかしげて見せると、少しだけ縦に伸びたギンちゃんが同じように途中で曲がりますかわいいです。


「ギンちゃんは、どうしたいですか?」

ギンちゃんは黙ってほっぺにスリスリをして、首の隙間からするりと中に入ってきます。

く……くすぐったいです。で、でもギンちゃんのためです。


「ぎ……ギンちゃ……あはは……あはははちょ、そこは、そこだめで…ひゃはははっ、あはははははh」

そこはっ、くすぐった……脇の下、だめで……うぅ……だめですってばギンちゃんっ。


「はぁ……はぁ……失礼しました。私には何もわかりませんが、ギンちゃんが嫌がってる。だから私はダメとしか言えません。」

「こちらとしても、それは困る。説得してくれないか?」

「お話はしてもいいですけど……」

ギンちゃんがいなくなるのは寂しいです。それに、

ギンちゃんがいないと多分……私はきっと………………

赤いスライムが間近に迫ったのが頭に過ります。

隠し通路やジャングルでの、ギンちゃんに誘導も思い出されます。

全部、ギンちゃんのおかげです。


「な、泣くなよ。俺、何もしてないだろ!?」

「ぇ……な、泣いてません!これは乙女のあせ……せいす……えと、とにかく素晴らしい物です!」

おかしいです。視界が歪んでいます。

ちょっと不安だっただけです。怖かっただけです。

大丈夫、私なら大丈夫って、無駄にテンションあげて楽しいと思いこんで、きっとちょっと疲れちゃっただけです。今だってほら、ゴシゴシ目を擦れば、明るく可愛い白音ちゃんです……。

鏡がなくて良かったです。

ひょっこりと袖先からギンちゃんが出てきてみょーんと伸びて、ほっぺをスリスリしてくれます。

可愛いギンちゃんは、一緒にいて頼もしくて癒やされますね。


「……やっぱり、ムリです。ギンちゃんが行きたがっているならともかく、そうじゃないなら私がギンちゃんと一緒にいたいので。」

お兄さんから目をそらしつつ、ギンちゃんを指先でなでなでします。

ギンちゃんは指先に絡みついてくれて、とっても可愛いです。

お兄さんから小さな溜め息が聞こえました。


「そいつが嫌がってる以上は連れていけないのは確か、か。」

ギンちゃんがうにょんと細長くなって、お兄さんに伸ばして指をツンツンしてます。

お兄さんは時々、「うん」とか「あぁ」とか言ってますから、会話してそうです。ズルいです。私とも会話して欲しいです。

でも、なんだか様子がおかしいですね。お兄さんの顔色が悪いような……?あ、危ないです!

咄嗟に手を伸ばしてお兄さんを掴みます。重いです。

でも、お兄さん自身も踏ん張ったみたいで倒れちゃう事は避けました。

急にふらふらしたと思ったら、床に倒れそうになるんですよ。驚きですよ、もう。


「っ……悪い。久々で、油断した。」

「久々ですか?」

「……気にするな。放っておけば治る。」

そうは言っても体調が悪そうです。ギンちゃんも心配そうに服の中から出てきました。

いえ、心配はしてないかもしれません。

私の肩でぽよんと跳ねてぷゆぷゆ言っているだけなので、ちょっとわかりません。


『ぷーゆーんー』

「は?お前のせ……わかったよ。」

やっぱりギンちゃんと会話してますよねぇ。なんでわかるんでしょう。と、言いますか、お兄さんはなんなのでしょうか。実は怪しい人……なのでしょうか。今更ですが警戒バリバリするべきですかね。

お兄さんは頭をぽりぽり掻いて、大きくこれみよがしに息を吐きます。


「ここは、とあるやつが作った。遊び場だ。」

唐突に、お兄さんが何かを言い始めました。


「遊び場を作ったとして、遊ぶ奴がいなければしょうがない。だから、人間を適当に連れてきたんだと思う。予想ではあるが、よく似たような事をやっているからな。」

この場所の事ですよね。で、私は適当に連れてこられた人間。

色々と知りたかったのでありがたいですが、唐突すぎてどんな顔でどんな相槌を打てば良いのでしょうか。


「だからまぁクリアすれば良いんだろうな。逆に言うならクリアしなけりゃ解放はされない。クリア条件は知らないけど、なんか説明とかヒントとかあったんじゃないか?」

思い当たるのは、最初の部屋にあった超簡易地図ですね。すっごい単純なのですが、下の出口を目指せば良いんだろうなって事はわかりました。

だから、それをお兄さんに伝えます。


「なるほどな。さっさとクリアして、そいつを返して欲しいんだが……あいつは人間をよく知らないからな。多分、クリア不可能だろう。」

「え!?それって、帰れないってことですか!?」

「そうなるか。探している間に脱落者も結構いた見かけたからな。」

脱落者ですか。脱落の意味は……聞かないほうがいい気がします。

それにしても……本当に帰れないんでしょうか。お兄さんも多分とのことなのでまだ希望はありますよね……?


『ぷっぷっぷーゆ』

「わかってるって。」

お兄さんが、両手の手のひらを上に向けて広げます。すると、なんの前兆も音もなく、目の前にペットボトルのお茶とあんパンが出ました。


「え、ええええ!?」

「そいつに言われたから渡しておく。好きに食え。」

手品とかそんなチャチなもんじゃねぇ、もっとスゴい片鱗を見ましたですよ!?

ペットボトルもあんパンも、コンビニでよく見るやつです。選ばれたのと、安定の春祭りです。


「…………そうだな。すぐにどうこうは出来ない。」

お兄さんの視線が、ギンちゃんに向かいます。

ギンちゃんはぷゆゆっと少し膨らんでいますね。胸を張っている感じでしょうか。丸々してて少し美味しそうに見えますね……いえ、パンがあるので大丈夫です。私は理性的です。


「彼の方には俺から話しておく。……そうだな、お前。」

お兄さんの琥珀色をした瞳と目が合います。こうして見ると、お兄さんはやっぱり人間というか、日本人にしか見えません。

情報も足りませんし色々聞いたほうが良いでしょう。えぇと何から聞きましょうか。


「そっちの階段、三つ目の踊り場から二段下の壁を殴ってみろ。ショートカットできる。あとは自分で何とかしろ。」

言葉を悩む間に、お兄さんが矢継ぎ早に言葉を吐いてきます。そして、消えてしまいました。えぇ、文字通り消えてしまいました。

瞬きもしていないのに、いつの間にか居ないのです。


「えぇー!?」

驚き貯金は尽きたと思ったんですが、まだまだ出てくるようです。……本当にどこにいったんですか?

聞きたいことも多分あるはずだったんですけど…… あぁもう考えても仕方がありません。

念のため床とかバンバン叩いて見ますけど……何の反応もありません。ついでに、ジャングルの片鱗はこれっぽちもありませんし、お兄さんが出てきた隠し扉も見つかりません。

でも、パンと飲み物はちゃんとあります。白昼夢ではなさそうです。

仕方ありません。お兄さんの発言を信じて、ショートカットに向かいましょう。




ブクマや星5、はげみになります!

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