4 赤いのはとってもこわいです
たくさん進んできた気がします。振り返ると入口っぽい穴が、遠くに小さく見えます。
肩が痛いです。いくら柔らかくても肩からぶつかってますからね……。
かいって今さら戻るのも、こんなうにうにした場所で休むのもちょっと嫌です。見た目は壁ですけど。
「ねぇ、ギンちゃん。いつになったら変わりますかね?」
風景も代り映えがないので飽きてきました。不満だらけです。ドキドキハラハラスレスレなグロテスクバトルよりは良いんでしょうけど……。
そんなことを言った罰なんでしょうか。ズズズって大きな音がします。壁が、揺れてませんか?
『ぷゆっ!ぷぷいいいゆ!』
ギンちゃんが壁に猛烈アタックしてます!ちっちゃい穴が真っ直ぐ空いて、戻ってきて穴のすぐ横にアタック。私の分も開けようとしてるみたいです。早すぎて残像が見えます。
災害が起こるときは動物が逃げ出すというやつでしょうか……。
ボーッとしている場合じゃありませんね。
ギンちゃんを肩に乗せて、逆の肩側で体当たり。痛いのなんのと言ってられません。
……いやでも、やっぱり痛いです。すごく痛いわけではなくて、ヒリヒリズンズンくらいなので我慢できない程ではないのですけれど。
「あと何回やれば……えっ!?」
と、振り返るとなんか真っ赤です!まだ遠いですけど、作った道が真っ赤になっていますよ!?
すごーくのんびりはしていますが、ちょっとずつこっちに来ていますね。
透けている感じがしますから、きっと階段で上の方にいたうにょうにょだと思います。ここまで、追いかけて来たんですかね。怖いんですけど!?
何に反応するかもわからないのでお口にチャック。
痛いのはぐっと我慢して、体当たりの続きです。
ギンちゃんは、あの赤いのに気付いたって事なんでしょうか。きっとそうなんでしょう。
ひたすらに進みます。振り返りません。振り返って近くにいたら泣いちゃいますから。泣き虫とかではありませんが、さすがにこんな状況で冷静でいられるわけがありません。
でも、音が近いです。地面を這う音がします。壁を擦る音がします。追いつかれて、しまうんでしょうか。
疲れてしまいましたし、もう、良いでしょうか。
『ぷ、ゆー!!』
「ギンちゃん!?」
ギンちゃんが、肩から飛び降ります。
咄嗟に目で追うと、見て、しまいました。
真っ赤で大きな塊。ぐにょんぐにょんしていて、でもギンちゃんとは似ても似つかない……巨大スライム、です。
「あ……あ……」
そのスライムの中が見えます。なにかが、浮いています。
そういう生物なのかもしれません。
疑似餌的な何かかもしれません。
でも、私には……捕食した生き物の消化残りにしか、見えません。
人の腕が浮いています。足が浮いています。骨らしきなにかもあります。
誰のですか?さっきの人?会ったことのない人?私もそこに入るのですか?
「い、いやああああっ」
怖いです、怖いです。死にたくないです。
グロ耐性、あったつもりだったんですけど。無理、無理です。
逃げないと……壁にぶつかって、空けて、逃げないと。
死んじゃう。
『ぷぷーゆーゆー!』
気の抜けた声に、ちょっとだけ冷静さが戻ってきます。そうでした、ギンちゃんもいたのでした。
私より手前にいるギンちゃんが無事なら、まだ大丈夫……です。
体当たりは続けながら、ちょっとだけ視線を後ろに向けます。
あれ……赤いのが、いない?
『ぷようよーうゆゆーよーえす。』
ぴょんぴょんギンちゃんが跳ねています。そんなギンちゃんの背後には壁があります。私が壊していたのと同じに見える壁です。
壁が再生したのか、いきなり現れたのか、スライムが壁化したのか、ギンちゃんが何かしたのかは、ちょっとわかりませんが……助かった……んですよね……。
「よ、良かった……」
『ぷーしーふー』
「はい、大丈夫ですよ。」
涙が出てきました。膝から力が抜けていきます。
ギンちゃんがほっぺにスリスリしてくれます。スリスリし返しちゃいます。ヒヤッとムニムニの、安らぎです。
本当に、良かった。
ブクマや星5、はげみになります!