表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/41

第5話 瞳子さんが不倫のニュースを見る度に思う事。思い出しちゃう事。

Uターンしてから3日目。

ほとんど家から出ずに過ごした。


外に出たのは、夕飯の買い出しや、父に頼まれて日用品の買い出しに

歩いて近所の「ナガブチ」というスーパーに行くくらい。


お昼にテレビをつけていると、こないだからお笑い芸人の不倫話でもちきりのようだった。

不倫をしたお笑い芸人を批判する出演者。

ネットでの誹謗中傷にも言及していた。


"こんなに不倫した人を許せないって人が沢山居るのに、何で不倫する人はいっぱい居るんだろう"


私は不思議でならなかった。

それとも私の周りにたまたま多いってだけ?


「あんな綺麗な奥さんもらっといて、信じられないよね」


司会者がそう言った時、突然テレビが切れた。

父の方を見ると、リモコンを持ったままテレビを見据えている。

私が呆然と父を見ていると、父はリモコンを持つ手を静かに下ろして

ご飯茶碗を持った。


私はハッとして、箸で持っていた魚肉ソーセージを口に運んだ。





元夫と私は15歳年が離れていた。

彼の方が年上。相手はバツイチで、子供はいなかった。


元夫からの猛烈なアプローチによって交際がスタートした。

15歳も年上だったし、目がギョロギョロとせわしなく動くような落ち着きのなさがあった。

また、離婚してからできた彼女の数を自慢するような人だった。

中身も外見も好みではなかったため何度も断ったが、私はとうとう彼の甘言に

籠絡ろうらくされてしまった。


彼は私に対し、「可愛いね」「綺麗だね」「毎日でも会いたい」等の甘言を、

恥ずかしげもなく吐いた。

実際に元夫はほぼ毎日電車に乗って仕事終わりに会いに来てくれた。

日本料理店に勤務していた事もあった彼は料理も上手で、よく手料理を作ってくれた。

明るく、陽気な彼と居ると楽しく、1人暮らしでの寂しさは消し飛んでいた。



ほころび始めたのは、結婚式の式場の下見に行く日。

彼は、眠っている間に私以外の女性の名を呼んだ。

翌朝問い詰めると、「そんな女知らねえよ!!」と声を荒げた。

そしてこう言い放った。


「今日どうするの?行くの?」


あの時、行かなければ。

何度そう思ったか分からない。

けど、私達はその日予定通り結婚式の下見に行った。

1ヶ月も前から楽しみにしていた予定だったのだ。

それに、彼が言うように知らない女性の名前なのかも知れない。


だが、その後も疑惑は付き纏う。

「残業でいつもより遅くなる」と言って帰って来た日に

ファンデーションらしきものをスーツに付けて帰って来たり、

女性の香水をつけて帰って来たりした。

不倫をしているの?と問い詰めても、彼は決して認めず、逆切れをして来た。

その度に私も暴言を吐いて、飽きもせず2人でののしり合った。


結婚前に何度別れを切り出して連絡を無視しても、彼は私の仕事場の部署まで来たり、

駅の前、家の前にやって来た。

真冬に「出てきてくれるまで帰らない」と言って家の前の公園に居座られた事もあった。

終電がとっくになくなっている時間になり、部屋の窓から表を見るとまだ居た。

そんな事をされたら、私はどんなに憎らしい人でも放っておけない事を

彼は知っていたんだ。


当時、それを「よっぽど私の事を愛していて別れたくないんだな」等と

お花畑の発想でいた。


しかし、そうではなかった。

私は彼に見下された、簡単に騙せる籠絡しやすい女だった。

彼は私じゃなく、15歳年下の結婚相手候補を逃したくないだけだった。

私の性格を利用し、更には私や、私の家族からお金まで巻き上げようとしたのだ…。




「おい」



ビクッとして、私は父の声で現実へ戻って来た。

いつの間にか、父はラジオをつけているようだった。



「大丈夫か?」



「え?うん」



箸を持ったままぼんやりと元夫との事を思い返していたようだ。

まだ白ご飯が一口分残っていた。

せっせと残りの白ご飯を食べて、食器を下げた。

もう、このまま食器を洗ってしまおう。


「ゆっくりしてもいいぞとは言ったが、たまには外に出てみたらどうだ?」


父が叫ぶように言う。

おかげでシンクで水が跳ね回る音がしていても聞こえた。



食器を洗い終え、シンクの少し右側に掛けてあるタオルで手を拭いた。

シンクの前の大きなテーブルを挟んで向かい側にある、

台所の電気のスイッチを押した。


電気が消え、昼間なのに薄暗くなった台所はなんとなく冷たい。

小走りしてコタツの部屋に戻って座った。


「分かった。ちょっと、今日出かけてみるね。」


「うん」


父はコクンとうなづいた。



実は、昨日の夜寝る前に調べていた場所があった。

私は引っ越して来る前に購入していた白い軽自動車に乗り込み、

その場所へ向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ