第47話 瞳子さん、忍君を出迎える
忍君が郷帰りする。
1か月前にそう聞いて、その日は休みだったけれど、1日焼成作業を入れた。
今年の年末年始はアルバイトが飛び石で入ったそうで、帰って来なかった。
会えないのは残念だったけど、頑張ってるんだなぁとしみじみとした気持ちになった。
そして、忍君帰郷の当日。
11時頃、ガラガラと玄関の扉が開く音がした。
おっ、帰ってきた!!
そぉっと、かつ急いで工房の扉まで近付く。
「お帰り、忍ちゃん」
多恵子さんの真似をして、工房の扉から顔を出してみた。
忍君は、目を丸くして驚いている。
「…ただいま、です」
目を見開いたまま、少しだけ口の端を上げている。
「びっくりした?」
「おばさんから、今日は工房が休みだと聞いていたから…」
サプライズ成功!…てまぁ、特に何もないんだけども。
「忍君が帰って来るって聞いて、今日は焼成作業の予定を入れてたんだ」
久しぶりに、忍君と話したい。
今日顔を見るのを楽しみにしていたんだ。
「そう、なんですか」
微笑む顔が自然で、こっちまで嬉しくなる。
専門学校に行って、バイトを始めてからは忍君の笑顔が増えたように思う。
「多恵子さん、お花買いに行ってるからちょっと待っててねって。」
「分かりました」
元気そうで安心した。
「どう?最近、専門学校は?」
「今年は卒業制作があるんですが、まだテーマが決まってなくて。」
卒業制作、懐かしいなぁ~。
話していると、すぐに多恵子さんがお花を片手に工房へ戻って来た。
そして、2人はお墓参りに出かけて行った。
静かになった工房から黙々と生徒様たちの作品を運び、窯にセットして行く。
忍君の表情を思い出す。
彼は今1人で
本当に大丈夫なんだろうか
お母さんと今生の別れを経験して、
それまでも、入退院を繰り返すお母さんを看ながら、私の知らない苦悩や苦痛を耐え抜いてきた。
まだ10代という不安定な時期に。
繊細で大人しくて、礼儀正しい彼は
私のような…いや、もっと上手を行く狡猾さを持った人間が蔓延る、
この地球上で無事に生きていけるんだろうか?
忍君の家にあった、畳の傷を思い出す。
一体、あの穏やかな忍君をあそこまで追い詰めたのは
何なのだろうか
前に、お父さんの事は話していたから
もしかすると、その辺りの苦痛があったのだろうか?
未だに、私は知らないし
知った所で何もできない。
目の前で笑ってくれるとほっとするけど、
本当は1人になった時
もしかすると、目の前で笑ってくれている時でさえ
壊れそうになってるんじゃないか。
助けてほしいけど、伝える術を知らなくって
自分で何とかするしかないと思っているんじゃないか。
安易にRainする事もできない。
忍君から、1か月に1回程度Rainが来るから、返信はしている。
でも、当たり障りのない内容だ。
忍君の身内は、多恵子さんくらいしか付き合いがないと聞いていた。
だとすると、多恵子さんには話せるんだろうか?
「ええい!!」
考えていても仕方がない。
私にできる事なんて、ないんだから。
忍君と離れていて、何度かそう思うようにしたんだけど。
余計なお世話だと思うけれど、こうして心配している自分が居る。
そして、考えててもしょうがない!という結論に至るけどまた考えてしまう。
無限ループ…。
自分も、親からはこんな風に心配されていたんだろうか?
だとしたら、自分の事は棚に上げていっちょ前に他人を心配している事に何だか皮肉を感じてしまう。
どんなボロボロの状態でも、そっと見守ってくれていた母に、改めて感謝。




