第41話 瞳子さん、プレゼントを受け取る
忍君のお母さんが亡くなってから5日程、工房はお休みになった。
久しぶりに出勤すると、多恵子さんと忍君が工房の掃除をしていた。
「おはようございます」
「あら、おはよう。」
「…おはようございます。」
どことなく、よそよそしさが漂う。
「ごめんね、急にお休みにして…」
「いえ、私こそ何もできなくて…」
家庭の事に、必要以上に突っ込む事はできない。
でも、何もできなくてもどかしい気持ちもあった。
「瞳子さん、ありがとうございました」
「…何かしたっけ?」
「一緒に、おばさんをここで待ってくれて…」
忍君は手に持っていた小さな茶色い紙袋を差し出した。
「これ、ちょっとしたものですが…」
「何にもしてないのに。大変だったのに、悪いよ」
「瞳子ちゃん、忍ちゃんは渡したいって。受け取ってあげて。」
忍君の顔は相変わらず青白い。
でも、この前見た時よりも表情が明るい気がする。
「俺、プレゼントとか選ぶのあんまりした事ないから…。もし要らなかったら、捨ててください」
何て事言うんだ。
「捨てるわけないでしょ!」
「じゃあ、はい」
猫背のまま、そぉっとプレゼントを私に近づける。
不安げな忍君の目を見て、はっとした。
「ありがとう」
急いで両手で受け取った。
「見てもいいかな?」
「え?えぇ、いいですけど…」
オロオロし出す忍君。
多恵子さんはオホホと言って「座ったら?」と促してくれた。
3人で工房の椅子に座って、忍君からのプレゼントを開封した。
包み紙の中から、陶器でできた黄色いキャンドル立てが現れた。
「わぁ、可愛い!」
出して、プリングルス(小)の容器を半分に切ったような形のそれを360°眺めた。
ツルツルした表面には、向かい合うように三日月の穴が空いている。
忍君の方を見ると、微笑んでこっちを見ていた。
「ありがとう」
「いえ、良かったです。」
ほっとしたように、柔らかい笑顔になった。
そのまま困ったように、下を向いた。
「さぁ、じゃあ今日からお仕事よろしくね!」
多恵子さんが両手をパンパンッと叩く。
工房内にその音が響いて、何だか気分が一気に仕事モードに切り替わる。
「こちらこそ、お願いします。」
さて、今日は生徒様の作品の焼成作業からだ。




