表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/46

第38話 いつわる


「センパイって、K市内出身なんですね~」


「…何で知ってんだよ」


瑞季には知られたくなかった。


「連休は、カノジョと帰るんですか?」


「…さぁね」


結局、あれから瑞季とは何度も俺の部屋で会っていた。

恭子がバイトで会えない日は、俺から瑞季に連絡した。


瑞季に背を向けるように寝返りをうった。

後ろから腕をまわして抱きついて来て、裸の胸を押し付けてきた。


正直、恭子と別れて瑞季と付き合う気は1ミリもない。

ただの遊びだ。

それは、瑞希も最初から了解していたはずだ。


でも最近は、わざと恭子と会っている日にRainをしてきたりする。

昨日は電話をかけて来た。

丁度テーブルの上にスマホを置いていた時だった。

恭子に着信画面を見られヒヤヒヤしたが、バイト先の後輩だと説明したら納得していた。


大丈夫。

バレていない。


今度の連休は、恭子と俺の実家に帰る予定にしている。

恭子を、家族に紹介するために。








「渉くん、どうしたの?」


バスで地元に帰って、スーパーで恭子と買い物をしていた時だった。


「…え?いや、なんでも…」


ヨーグルトコーナーで地元のヨーグルトを見ていたら、

向こうからやって来た人に目が釘付けになった。


「…もしかして、渉くん?」



しまった。

俺も、もしかしたらそうかと思った。

でも、今は声をかけられたくなかった。


「誰?」


恭子がいぶかしげに眉を寄せて聞いて来る。


「俺が、陶芸教室に通ってた時の先生」


恭子の方を横目でチラリと見て言った。


「え?渉君が陶芸?」


さらに怪しんで俺を睨みつけるように見る恭子。


「久しぶり。元気にしてた?」


瞳子先生は恭子と俺を交互に見た。

先生は、あの頃から見た目はあまり変わっていない。


「あ、はい…」


「初めまして」


恭子が会話を遮るように挨拶をする。


「私、渉君とお付き合いさせてもらってる瀬和恭子です」


瞳子先生は耳に髪をかけながら、軽く会釈をした。


「初めまして、田中瞳子です。可愛い彼女さんだね」


瞳子先生はにこやかな顔で俺の方を見た。


「じゃあ、元気でね」


そう言って通り過ぎて行った。


「…渉君、あの先生の事好きだったの?」


「いや、友達が先生の事好きで、無理矢理誘われたんだよ」


とっさに嘘をつく。

本当は俺がどうしようもなく好きだったのに。


「ふぅん…」


恭子は俺の嘘を見透かすように目を細めてそっぽを向いた。


「本当だって」


「いいよ、嘘つかなくても。」


声が怒っている。


「あの人、バツイチで30歳だったんだぞ。そんな人、高校生の頃の俺が好きになるわけないだろ」


自分で発した言葉が、自分の心臓に刺さる。


「え?バツイチなの?」


目を見開いて振り返る。

その恭子の態度に、俺の心臓の辺りにある、見えない大事な何かが歪む。


「そうだよ。俺、同級生か年下が好きだし」


「ふーん、そうだったんだ」


どうやら機嫌を持ち直してくれたようだ。

ほっとする。


「それに、胸が大きい方が好きだし」


「もうっ、バカ!」


俺の腕をバシッと叩いて、腕を組んできた。

ちょっと喜んでいるのが、声色で分かった。

思わず笑ってしまった。


「本当の事言ってるだけじゃん」


何であんなに好きだったのか、今では俺自身にも分からない。

若くて肌がピチピチで、胸の大きい恭子の方が断然良い。

胸もそんなに大きくは見えなかったし。


30歳バツイチの陶芸教室の先生。

本当に、何で好きだったんだろう?

ちょっと綺麗な、ただのおばさん。


「何にニヤついてるの?気持ち悪いよ!」


恭子は俺の頬っぺたを人差し指でツンツンつついた。


「いや…恭子って本当に可愛いなと思って」


「何?いきなり!」


腕は絡ませたまま、俺の肩に恭子の頭が寄りかかって来た。

セルフレジに行くと、田中先生が黒色の保冷エコバッグに買ったものを入れていた。

その後ろ姿が、なんかめっちゃ生活感が出ていて、完全に冷めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ