第36話 犯罪
あの後、俺は瞳子さんに謝罪のRainを送った。
次の日になっても既読はつかず、俺は学校を2、3日休んだ。
「曽根崎君って、意外と大胆なのね…」
俺の部屋に無理矢理上がり込んできた横山はクネクネと気持ちの悪い動きをしながら、そう言って1人でゲラゲラ笑った。
あの出来事の後、横山からRainが来たけど無視してた。
次の日にはRain電話が30件くらい掛かって来ていた。
電話には出れなかったけど、Rainで横山にやらかしてしまった事を伝えた。
いつも既読になったらすぐ返信が来るくせに、その時は中々返信が来なかった。
「…おい、ほんまに大丈夫か?」
ベッドの上でぼんやり座っている俺に顔を近付ける。
「あかん、ただの屍やな」
横山は俺の頭をバインって叩いた。
しばらく何が起きたのか分からなかったけど、
叩かれた事に気付いて横山のほっぺにビンタした。
「痛ッ!!!」
「…何すんだよ」
声を出すのが3日ぶりくらいなので、小さなかすれ声しか出なかった。
横山に聞こえていないと思ったから、言い直した。
「何すんだよ」
「何してんねん、こっちのセリフやわ」
真っ直ぐに俺を睨んだ。
「好きな女の人泣かせて、何してんねん」
真剣な顔。
何でこいつに言われないといけないんだよ…
いっつもおちゃらけて、馬鹿みたいに振舞って。
「イケメンには分からねぇだろ、俺の気持ちなんて」
涙が溢れてきて、目が熱い。
「あのな、曾根崎君。」
涙が止まらない。情けない。恥ずかしい。
よりによって、横山の前にこんな姿を晒すとは。
顔を見られないように下を向くけど、嗚咽で肩が震える。
変な声が出る。
「もぉ~子供やんか」
背中に大きなあったかい手が当たる。
背中をせっせと撫でるその手は、あの日の事をフラッシュバックさせる。
俺の頭をわしゃわしゃ、楽しそうに触っていた手だ。
自分がデートに行くわけじゃないのに。
すげえ嬉しそうだった。
せっかく、横山が応援してくれたのに…
「聞いてな、俺は曾根崎くんの味方やからな」
うん、うん。知ってるよ。
嗚咽しながらうなずく事しかできない。
息がヒューヒューして、整わない。
「でも、味方やから、ほんまの事言うでな」
何回も、うなづく。
鼻水が逆流して来そうで、顔を上げた。
「未成年とはな、まともな大人の人は付き合ったりせぇへんねん。」
また、嗚咽のビッグウェーブがやって来た。
ヒクヒクヒク、肩の動く速度が速まる。
「大人の人が未成年と付き合うとな、犯罪になんねんで?」
ティッシュを取って鼻水を思いっきりかんだ。
「君、そこらへん知ってたか?」
「おお、俺が瞳子さんを訴えるわけないだろ」
「あのなぁ、お母さんはどうなん?もし告白が成功してたとして、瞳子さんを紹介できるか?」
「俺の母は…そんなの気にするような人じゃ」
「甘いッ!!!」
ピシャっと横山は自分の膝を叩く。
「じゃあ曾根崎君の妹チャンが、30歳のバツイチ男と付き合っていると知ったら君はどう思うのん?」
「犯罪」
「君はアホか!!!」
今度は横山にビンタされた。
そうか、俺はアホだったのか。
「君が好きになった瞳子さんは、まともな人だったちゅうこっちゃで」
そうか。
「…そっか」
さすが、俺が惚れた瞳子さん。真面目だ。賢いんだ。
でも、ふられた。
「あれから、瞳子さんからRainは来たんか?」
枕の横に投げ出されたスマホをチラ見する。
「…いや」
「まぁ警察に相談されるとかは、ないやろうけど…」
身体がビクっとなる。
「もし逮捕されたら、曾根崎君の好きなグミチョコレート買って会いに行ってやるからな。安心しぃや」
「グミチョコレート別に好きじゃねぇよ…」
3日ぶりに笑った。




