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第35話 瞳子さん、嬉しい報告を聞く

忙しい夏が過ぎ、芸術の秋がやって来た。


道路沿いの木々は段々と色付き、夜になると

鈴虫やこおろぎの鳴き声が聞こえてくる。

窓を開けると、冷房を入れなくても心地よい風が部屋に入ってくる。


そんな季節の変わり目。

忍君は若草市内にある陶芸の専門学校の入試を終え、

後は結果を待つのみとなっていた。


入試後、忍君が工房に姿を見せる事はなかった。


新規の生徒様も秋から増えてきて、あっという間に2か月が過ぎた。

忍君の入試の結果が、もうすぐ出るはずだ。

多恵子さんもどことなくせわしなくて、私もソワソワ。


今月は、珍しく男子高校生の2人組が無料体験を受けに来てくれた。

忍君より1歳年下の子たちで、入会はしないけど体験の時に作成した湯飲み茶椀を今日取りに来る。

仲良しの二人組みたいで、見ていてほっこりした。


ふざけ合ったり、からかい合ったり。

本当に、まだまだ無邪気で楽しそうだなぁと思った。

忍君が精神年齢高すぎて、感覚がバグっていたけど。

高校生って、こんな感じだよな~。



夕方になると、あられが雪に変わった。

玄関の戸を開けて外を見ると、地面にうっすらと雪が積もっていた。


冷たい空気に鼻がぴくぴく反応する。

くしゃみをひとつして、玄関の戸を閉めた。


それからすぐに、インターホンが鳴って男の子が来た。


「久しぶり」


「お久しぶりです」


耳が真っ赤で、寒そうだ。

一人で茶碗を取りに来てくれたみたいで、体験の時に一緒に居たやんちゃそうな男の子の姿はなかった。


男の子を工房内に案内してすぐに、工房の戸が開いた。


「あ、忍君」


久しぶりに…って、もしかして!


「ちょっと待っててね」


男の子にそう伝えて、忍君の方へ歩いた。

無表情で、受かったのか、受からなかったかどっちだろう?とちょっとドキドキした。


工房から出て、戸を閉めた。

忍君は振り返って、


「先生、俺、受かってました。」


と言った。

声に抑揚はないけど、声色からほのかに忍君の嬉しい気持ちが伝わってくる。


「え!?おめでとう!!」


私も嬉しくて、思わず大きな声で喜んだ。

忍君も、微笑んだ。


「先生、ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げている。

ゆっくり顔を上げて、忍君は目を細めてにっこり微笑んだ。

片手をスッと出し、工房へ戻るように促した。


男の子が帰ってから、忍君の家に寄れたら、寄ろう。


「私は、何もしてないよ。じゃあ、後でね…」


忍君が頑張った。その結果だ。

工房に戻ろうと、戸に手をかけた。


「先生。」



「何?」


振り返ると、忍君がおずおずと言葉を発した。


「…また、陶芸教えて下さい」


色白で高い鼻は、寒さで赤くなっている。

忍君が望むなら、私でよければいつでも…

そう思ってうなづいて、工房に戻った。


「ごめんね、お待たせ!」


「…今の男は誰なんですか?」


ん?男?


忍君の説明をしてから、湯飲み茶わんを渡す準備を始めた。

すると、男の子から予想外の言葉が飛び出た。


「俺、やっぱ入会します」


え?

何で?


「俺、瞳子先生と話したいんです。」


え?どういう事?これは…どういう状況?


「あの。正直陶芸には興味全然なくて。でも、瞳子さんと仲良くなりたいんです」


つまり、この子は私に好意を持ってくれている…のか?

ただの興味本位か?


何で?わからない。


結局、男の子は自分でバイトしたお金で陶芸教室に通う事になった。

バイトして、興味のない陶芸にお金を払わなくても…と思ったけど男の子は通う気満々だ。

陶芸をやっている内に好きになるかも…って、まぁそんな事もあるだろう。

好きになれなかったら途中で退会したらいいんだし。


玄関先で男の子を見送った後、工房の閉め作業をしてから、私は忍君の家に向かった。




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