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第30話 曽根崎くん、ケーキ屋さんにて

終わった。

今日のプランが、全て…崩れた。

ヨロヨロと足元がおぼつかなくなった。


「じゃあ、行きましょうか」


瞳子さんはそう言うと、肩を震わせて車へ向かった。

プリマハムの妖精はいそいそと瞳子さんの車に向かう。

助手席は譲るものか!と必死のパッチで回り込み、瞳子さんの隣を死守した。


助手席に座れて良かったが、車の中ではおばさんが凄い勢いで喋っていて

俺は笑って「はい」「そうですね」「そうですよね」しか言っていない。

つまりおばさんの話に相づちを打っているだけだった。

しかし俺には何を話しているのか、全く分からなかった。


瞳子さんもおばさんの話に相づちを打ち、時々自分の意見を言っていた。


運転している瞳子さんの横顔。

見つめる勇気はないから、ハンドルを握る細くて長い綺麗な指に見とれていた。


10分程して、例の場所に到着した。

瞳子さんの車から下りて、3人でケーキ屋さんの前までやって来た。

"Mermaid"って書いてある。瞳子さんから頂いたクッキーのお店。

事前にネットで調べたが、何かおしゃれな雰囲気のお店だった。

中に入ると吹き抜けになっていて、とても明るい。

先にケーキと飲み物を頼んでから席に着くスタイルだった。


瞳子さんとおばさんはすぐに飲み物とケーキを決めたが、

俺はどれにしようかしばらく悩んだ。

それから、イチゴの乗ったミルクレープに決めた。飲み物は、瞳子さんと同じ紅茶にした。


瞳子さんが3人分の会計をしてくれた。

おばさんとお礼を言って、頭を下げた。


「こちらこそ、いつもありがとうね」


そう言ってニコニコしている瞳子さん。

目が合うと、急に胸が跳ね上がった。

今日は陶芸教室を飛び出して、初めての瞳子さんとのデート(おばさんwith)なんだ。






2階に上がるとテーブル席とコタツ席があり、3人で海側のコタツ席に座った。

テーブル席には、カップルと女性2人が座っていた。

日本海には深く日が差し込み、海面がキラキラと輝いていた。


コートを脱ぐと、瞳子さんはベージュ色のゆったり目ニットを着ていた。

優しい雰囲気がいっそう引き立って癒される。


陽キャのおばさんはダウンジャケットの下に真っ赤なタートルネックセーターを着ていた。

おばさんの方を2秒見てしまうと、それだけで目がチカチカする。


車の中では全然話せなかったけど、絶対瞳子さんといっぱい話をするんだ!

そう心の中で奮起し、コタツの陰で拳を握りしめた。



奮起したものの、陽キャおばさんは飲み物とケーキが来るまでずっと話し続けていた。

正直何の話をしているのかよく分からなかったが、笑って相づちを打ち続けた。


おばさんの方を見ていたら目がもたないので、

窓の外を見たり瞳子さんの方を見ながらやり過ごした。


飲み物とケーキが来ると、3人とも静かになった。


「頂きます。」


瞳子さんの方を見て言うと、三日月の目をして


「どうぞ」


って言った。


ぱくり。


「やっぱり、ここのケーキは美味しいわねぇ~」


おばさんがうなづきながらコーヒーを口に運ぶ。


「ほんと、うまいっす」


甘すぎず、丁度いい感じのクリーム。


「忍ちゃんも来たら良かったのにね~」


ん?


「そうですね…忍君は、渉君の1つ年上だよね?」


「忍君って…誰ですか?」


とぼけて聞いてみた。


「あー、あの時…」


「私の甥っ子なのよ!陶芸が好きで、今年の春から陶芸の専門学校に行くの。」


瞳子さんが話そうとしたが、おばさんが遮った。

おばさんがリラックスした表情で微笑む。


「へぇ~」


またとぼけて返事をする。

本当は、ミズキから聞いて知っている。


「渉君は、どう?」


「へ?」


「陶芸、通ってみたら楽しくなるかもって言ってくれてたよね?」


「はい」


「好きに、なれた?」


にゅっと目尻の下がった瞳子さんの瞳の奥が、俺の目と心を捉える。

白い肌に、紅茶を飲んで赤く血の気を帯びた薄い唇。


「…正直、難しくて。」


でも、瞳子さんの事は一目見た時から。

視線を下げ、瞳子さんの持つ白いマグカップを見る。


「…俺なんかでも、上手になれるんすかね?」


手びねりでお茶碗や湯飲みを作った後、

電動ろくろを触って基本の湯飲み茶わんを作る練習をしている。

何回やっても、土を上に長く伸ばす所でぐにゃぐにゃになる。


「あら、まだ通って2ケ月くらいなんじゃない?」


おばさんの声を耳で聞きながら


「そうっす」


と返事をする。

瞳子さんがマグカップに絡ませていた指を離す。


「そうだよー?まだ10回も通ってないのに。」


顔を上げると、両手を広げてこっちに向けていた。10(じゅう)


「でも偉いよね。月謝自分で働いて出しているんでしょう?」


「あ、ハイ。まぁ…」


瞳子さんに言われると照れる。


「元々、こういう美術系は好きなの?」


「いや、全然。」


おばさんが眉毛を上げてちょっと驚いた。


「あら、じゃあ何でうちに通ってくれてるの?」


首を傾げて頬に手を当てたおばさんは、隣の瞳子さんと目を合わせてる。


何かをひらめき、勢いよくこっちを見た。


「もしかして、田中先生が好きなの!!?」


顔が熱い。うろたえて瞳子さんの方を見ると、瞳子さんは苦笑い。

他のお客さんも、おばさんのでかい声に一斉にこちらを見ている。

…血の気が引いてきた。


「あらぁ~、ごめんね。…って、顔が真っ赤よ?えー!!?本当なの!?」


おばさんの上半身が右往左往している。

おばさん…あんたのセーターと俺の今の顔、どっちが赤いかな?


「そんなわけないじゃないですか!彼は、高校生ですよ!」


瞳子さんがおばさんを制してこちらを苦笑いのまま見る。


「ね?」


俺は、言ってしまおうかと思った。

唇が震える。


「お俺は…」


拳を握りしめ、爪が手の平に食い込む。


「そうよね~!未成年はねぇ、だめよね~」


ヘナヘナ。

即座に全身の力が抜けた。


おばさんがオホホと笑いながら手を振っている。

瞳子さんも、「そうですよ」なんて笑っている。


周りの客も、それぞれ話を始めたみたいで話し声が聞こえて来た。


目がチカチカする。

しまった。おばさんの方を2秒以上見たから、目がやられてしまった。



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