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第3話 瞳子さんの昔語り。

父と母が離婚したのは、私が中学1年生の時だ。


4人兄弟の末っ子の私は、一番はじめに両親の離婚を知る事になった。


ある日の朝、父が食器を割ってしまった母に向かって舌打ちをしていたのを聞いた。

学校から帰って、父に「あれはないんじゃないの…?」と言ったら、

父は「実は…」と言って話を切り出した。


「お母さん、出ていくって。」


今でも、その言葉を覚えている。

父との不仲は感じていたが、まさかそこまでとは。

元々家族間の会話が少ない家庭だった。

母は私の事等どうでも良くなったのだろうか?

父だけでなく、私にも何か問題があるのかとショックを受けた。


母が仕事から帰って来たら、すぐに聞いた。


「お母さん、出ていっちゃうの?」


母は、父が何の相談もなしに子供に離婚する事を伝えたのを怒っていた。

それからはあまり記憶がないが、長男と次男の親権は父に、

三男と長女である私の親権は母へ渡った。


しかし、独り立ちをして大学生活を送っていた長男以外は

皆母について行った。


それから、父はずっと独りで暮らしている。




そしてまさか、田舎を出て都会である若草市内で仕事仲間と結婚し、

3か月のスピード離婚を決めて仕事を辞め、父の元に帰って来る等

誰が予想しただろうか。




私は高校卒業後、陶芸の専門学校に進んだ。

高校生の時に親戚に誘われて、一緒に行った陶芸体験がきっかけだった。

小さな頃から工作や絵を描く事が好きだった私は、

何気なく行った陶芸体験が楽しくて、忘れられなかった。


当初、陶芸は楽しかった。自分の作品が多くの人に認められ、日本陶芸展で賞を取る妄想をしたりした。

しかし、自分よりずっと良い作品を作り上げ、国内外問わず受賞している同級生や後輩を見ていると、

とてつもない劣等感に何度も苛まれた。


周りは専門学校を卒業した後は窯元に就職し、陶芸を続けていた。

入学当初より陶芸で食べて行こうとは思っていなかった私は、

適当に就職して暮らしていこうと考えていた。


しかし、就職活動は困難を極めた。

その年は関東で大地震が起こり、日本経済も崩れ、

就職市場は閑古鳥が鳴いている状態だった。

何の資格もなく、自信もなく、ただ日々を暮らしていただけの私を

雇ってくれる企業はなく、私は打ちのめされた。


ようやく就職が決まった企業は、手取り14万円の事務職だった。

上手くいかず、1年で退職した。


それからは、派遣社員として会社を転々とした。

そして、心機一転し、正社員を目指してアルバイトとして入社したのが

元夫と出会った会社だったのだ。


仕事をサボったりする上司は居たが、

基本的に周りの一緒に働く人たちは優しく、とても居心地が良かった。

でも、元夫の影を完全に消し去るためにも退職した。

周りは引き留めてくれたが、私はもう退職を決めていた。


その後、新しく仕事を始める気力もなく、

ただなけなしの貯金を食いつぶし、元夫の事を思い出しては

嫌な感情が沸き上がる。そんな日々を過ごしていた。

3か月の待期期間を終え、失業保険を受給した。

その間に仕事を見つけよう。

そう考えていると、離婚してから毎日読んでいるブログに

くぎ付けになった。


「自分のしたい事をする」


あぁ、私のしたい事って、何なんだろう。

このブログには、今の私に必要な事が書き綴ってある。


「あなたが本当にしたい事は何ですか?」


「まずは金銭面や、時間、距離、世間体とかを無視して、とりあえず

本当にしてみたい事や、行ってみたい場所を考えて紙に書きだしてみるんです。

この時にコツがあります。それは、大きな事と小さな事、両方書きだす事です。」


私は北海道も沖縄にも行った事がないから、行ってみたい。

四万十川を見てみたい。

フィンランドにも行ってみたい。

若草市内で有名なあんころ餅を食べてみたい。

厳島神社に行きたい。

常滑市に行きたい。


そして。陶芸家として生活したい。


「まずは、現実でも無理だと思っている事でも、調べてみるんです。

例えば、海外の行きたい場所をゴーグルmapでグルグル回ったり、

ネットで観光スポット等を調べて観光コースを考えたり。」


ブログには、実際に世界に行けなかったが

世界旅行に行っているつもりで調べた内容をITubeやwaitterでアップしたら

大バズリし、実際にその収益で世界旅行に行く夢を叶えた女性の話が

載っていた。


「そして、叶えられそうな事はすぐにでも叶えてみて下さい」


その後、私は実際に厳島神社、

常滑市へと計画を立てて母と旅行に行った。

母は再婚しており、若草市内に住んでいる。


ずっと、ずっと行きたかった場所だ。

母も初めて行く場所だったようだ。

結構感動した。小さな夢が実際に行動して、叶った。


さらに、若草市内で有名なあんころ餅も手に入れて、

食べる事ができた。

小さな事だけど、ずっと1度は食べてみたかったという夢が叶った。


そんな日々を過ごし、父と電話していたある日。


「最近、足が弱っていてな」


弱気な父の声。

前ならそれで帰ろうなんて、絶対に思わなかった。

何十年も前に母と離婚して以来、たまに帰って顔を見せたり、

何か兄たちに伝言がある時に電話したりするだけの父。

結婚の時は一応元夫を連れて行った。

父からのご祝儀は、多すぎて申し訳ないくらいだった。


父の発言が気にかかったまま、その日は以前の職場の飲み会があった。

そこには、元夫と不倫をしていたであろう立花さんの姿もあった。

もちろん、証拠があるわけではないので、誰にも元夫と立花さんが不倫をしていた

かも知れない、なんて事は話していない。立花さんは子供が1人居る人妻だ。


飲み会はとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎた。

終電ギリギリで帰った。

久しぶりに飲んだから、気持ち悪い。

最後の方結構やばかったな…お水もいっぱい飲んどいて良かった。


次の日、大して二日酔いの症状は残っていなかった。

起きて水を飲みながらふと、思った。


田舎の実家に帰って、お給料もそんなにいらないから、

のんびりと暮らしてみたいな。


そして、その時から何となく、田舎で陶芸教室を開けたらいいなぁ、なんて

考え始めた。



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