第29話 瞳子さん、お風呂でスマホタイム
家に帰ると、父は座って夕方のニュースを見ていた。
「おっ、帰ったか」
父との生活にもすっかり慣れた。
帰ると明かりがついてて、
誰かが居るのが当たり前になっていた。
「…ただいま」
18:56
と、テレビに表示されていた。
2階の自室に上がろうとリビングに足を踏み入れる。
なんかいいにおい。
キッチンに入り、コンロの方を見やると、ステンレス製の両手鍋が蓋をして置いてあった。
「いいにおいがする。」
「おぉ」
「肉じゃが?」
言いながら、鍋の蓋を開けた。
「ほら、やっぱ肉じゃが!」
正解。
「あたり〜。すぐ食べるか?」
「いや、お風呂入ってからにする」
一人暮らしの時は、ユニットバスだったためお風呂に入らずシャワーで済ます事が多かった。
でも、実家に帰ってからは頻繁に湯船に浸かっている。
クーラーで冷えた身体を、あったかいお湯に浸けて温める。
長風呂のお供は、スマホだ。
頭に巻いているタオルで、湯気で曇るスマホを擦る。
今日はまずミネヤンブログをチェック。
ほぼ毎日チェックしている。
ブックマークしているブログの画面を開くと、今日の日付で更新されていた。
ブログのタイトルは、
「許す事」。
「誰しも、何年経っても許せない人って居るのではないでしょうか。
私にも、どうしても許す事ができない人が居ました。
少し前まではそんな自分も嫌で、
人が許せない上に、許す事ができない自分の事を許せない、という何とも嫌なループに陥っていました。
そんな自分を嫌がらずに認めて、許してあげる事から始めました。
あの人に、あんな事されて嫌だった、悲しかった。
それも、もう何年も前の事。下手したら何十年と前の事。
思い出しては、嫌な気持ちになる自分を、まずは許してあげましょう。
私は、そうしていく内に段々と、相手の事も許せるようになってきました。
自分を許せない人は、他人も許せない。
よく、自分を愛せない人は他人を愛せないと言います。あれは、本当にそうだと思うんです。
自分を認めて、愛す事ができないと、どうなるか。
他人に、自分を認めて欲しい欲求が強くなります。
そうなると、他人の事をやたらと気にするようになるんです。
自分が自分じゃあなくなります。
1番長い間、自分と一緒の時間を過ごしているのは、誰でもないあなた自身です。
自分を認めて、付き合って行きましょう。
簡単な事ではないです。
それでも、長いようで短い人生です。
嫌な人の事を考え、嫌な事にフォーカスして時間を使うより、もっと生産的で前向きな事を考える時間が多い方が楽しいと思いませんか。
嫌な人しかあなたの周りに居ないわけではないでしょうから。
私の周りにも、私の味方で居てくれる人が居ます。それが当たり前だと思わなくなったのは、許せないと思うような人が居たからです。
だから、今では許せないどころか、感謝している位です。
この、素晴らしい私の周りの味方で居てくれる人達の優しさ、有難さに気付けたのだから。
私は、今では心からそう思います。」
これ、もしかして
忍君のお母さんが言ってるんじゃないか?
そう、直感的に思った。
前回のブログも読み返してみる。
また、その前のブログも…
曇るスマホの画面をタオルで擦って、
いくつかのブログを読み返した。
これは、忍君の備忘録。
お母さんの、忍君への言葉なんだ。




