第28話 曽根崎君、出発
横山に見送られ、俺はバスに乗って揺られていた。
大して太陽は顔を出していないが、雪が光を反射していて眩しい。
さっきまで吹雪いていたのに。
窓の外には雪に覆われた街並みが続いている。
街並みに沿って、道沿いで雪かきをする人が点々と現れる。
ハラハラと舞い散る雪の中、犬とはしゃぐおじさんや
親子で雪だるまを作る人達が居た。
その光景を見下ろしながら、平和だなぁ、なんて思った。
20分程そんな景色が続いて、トンネルに入った。
もうすぐ、瞳子さんに会える。
ずっと、ドキドキしていた。
反射した窓を鏡代わりにして、髪型をチェックする。
バスに乗る前に風に吹かれて、ちょっと前髪が乱れていた。
すぐに横に流して整えた。
もうすぐトンネルが終わる。
それまでに目やにとかがついていないか気になり、
顔を窓に近付けて見た。
暗いトンネルを抜けると、目の前に真っ白な雪に覆われた上り坂が、
左手には群青色の日本海が広がった。
バスから跳び下りて、背伸びをした。
「着いた」
そう呟いて、ニヤニヤしてしまった。
風は穏やかで、道沿いを歩いている人は俺しか居ない。
ふと、あいつの家を見た。
門の横に雪の山ができていて、山の頂点に蛍光黄緑色のスコップが刺さっている。
門の中まで雪かきをした跡がある。門の奥は、薄暗い。
ただ、一番奥に見える玄関先には、スポットライトのように光が差し込んでいた。
波の音がして、我に返った。
いかんいかん、あいつの事は今考えないでおこう。
晴れた空にチラつく雪。
手を振る、俺の好きな人。
「わたるく~~ん!!」
水色の膝丈コートを着た瞳子さんが、白い軽自動車の前で右手を振り上げている。
可愛すぎて雪の妖精かと思った。
アソコと胸がムズムズして、嬉しくて走り出した。
「危ないから、走らなくてもいいよ!ゆっくり来て!」
妖精さんが両手を振って焦っている。
可愛すぎるだろ!!
「は~い!了解です!」
嬉しくて顔がほころびっぱなしだ。
この先、俺の顔はほころび過ぎて溶けてなくなってしまうのではなかろうか?
「あらあら、可愛いわねぇ~」
…ん?
今の声、瞳子さんじゃない。
陶芸教室の駐車場に足を踏み入れると、
瞳子さんから少し離れて陽キャのおばさんが居た。
薄いピンク色の膝下ロングダウンジャケットを着ている。
プリマハムの妖精?
真顔でおばさんの方を見ていると、
瞳子さんの声がした。
「来てくれてありがとうね。」
「いえ、こちらこそ…」
瞳子さんを見てから、チラリと陽キャおばさんの方を見る。
「あの…今日は、瞳子さんと2人きりでは…?」
言ってから、少し後悔した。
期待満々がバレバレじゃないか。
いや、まぁ満々なんだけど。
「あらごめんね!?今日はおばさんも一緒!」
そう言って陽キャのおばさんは俺の肩を叩く。
いてぇ。
「今日はね、恩返しお茶会」
そう言って瞳子さんはにっこりと笑った。




