第24話 見えてた未来
目覚ましが鳴る。
外は雨だ。
今日も起きるのがだるい。
恭子からRainが来てる。
付き合った時、「おはよう」と「おやすみ」を言うのだけは毎日しようって2人で決めた。
大学へ行くと、光信が居た。
「お前、今日の飲み会参加しろよ」
「雨だし嫌」
階段を上がっていると、上から見慣れた素足が現れた。
「あ、おはよう」
「おはよう。」
恭子は赤い半袖のシャツに、タイトなデニムスカートを履いていた。
「今日、バイト終わったら部屋に行くね」
すれ違いざまに俺の肩に手を置き、耳元でそう言ってクスッと笑った。
俺も笑って、光信と階段を上がって講義室へ入った。
「恭子ちゃんって胸でかいよな」
光信が隣に座ってこちらを向く。
「いいなぁ〜可愛くて胸でかい彼女が居て」
「可愛い彼女が居るから飲み会は行きません」
「え〜来いよ!彼女とは別腹だろ!」
こいつの女性観念どうなってるんだと思う。
「行かないから」
「つまんねぇ男だなぁ」
光信は口を尖らせ、アクビをした。
俺もつられてアクビが出た。
窓の外を見ると、灰色の雲が雨を降らせていた。
「かんぱ〜い!!」
午後6時。
駅前の居酒屋で飲み会は始まった。
「じゃあ、今日は無礼講と言う事で…年下の子も気を遣わないで飲んで食べて!敬語はなしで!」
光信が鼻の穴を広げている。
女の子5人、男は俺と光信、マサキの3人。
近くに女子大があって、その歴史サークルの女の子たち。
ほぼ活動はしてないが、俺たちも一応歴史サークルに入っている。
今日の飲み会は歴史サークルつながりでの飲み会で、それぞれ好きな時代や歴史上の人物を話して自己紹介をした。
全員にお酒が入ってきた頃、
恭子からRainが来た。
"ごめん!今日、もう1人のバイトの子が休みになって残業頼まれて…終わるのが10時になるから、また明日行くね!"
"俺は何時でもいいけど、明日も1時間目から講義?バイトお疲れ様。今日はそれぞれゆっくりしよっか。"
"ごめんね!"
"ううん。夜遅いから、帰り道気をつけてね。"
「彼女ですか〜?」
顔を上げると、いつの間にか隣に後輩の女の子が座っていた。
「うん」
「彼女居るのに、この飲み会に参加したんですかー」
酔ってるな、この子。
「コイツに無理矢理連れて来られた」
斜め向かいで騒いでいる光信を親指で指す。
「あはは!あのチャラそうな人?」
「そう、チャラチャラ。気を付けなよ」
酔ってフラフラだった瑞季ちゃんは、
カギの在処も家の所在も忘れたと言った。
カバンの中を皆で漁ると、一応カギは出てきたが皆瑞季ちゃんの家を知らなかった。
「あっ、タクシーに乗って帰りますぅ」
そう言って瑞季ちゃんは手を上げた。
帰り道を思い出したんだな、と皆ホッとした。
とは言え、フラフラだった。
「タクシー乗せてきます。じゃ」
早く帰りたかったから、これを口実に帰ろうと思った。
タクシーに乗せると、「うち、どこだっけ…」とフラフラしていた。
すぐにタクシーから下りると、瑞季ちゃんは道端で吐いた。
タクシーで帰る事は諦めて、
水を買ってきて介抱していた。
瑞季ちゃんは、肩を支えていた俺に突然キスした。
「先輩の家って、近くなんですか?」
潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。
ベタついた肌が密着して、瑞季ちゃんの汗とシャンプーの匂いが濃くなった。
気が付くと、2人で俺の部屋まで歩いていた。
シャワーも浴びずに、俺たちは絡み合った。
朝になると、恭子からRainが来てた。
"おはよう。"
俺も、おはようって返した。
「あっ、彼女さんだー」
瑞季ちゃんがスマホをのぞき込む。
「見るなよ」
スマホを隠すといたずらっぽく笑った。
俺はここで初めて我に返った。
彼女以外の女の子と。
「心配しないで下さい、先輩。私、言わないので」
ホッとした。
「でも、その代わり…」
「何だよ」
「また、こうやって会いませんか?」
「いや…」
恭子の顔がチラつく。
「ごめん。やっぱり、恭子の事を裏切るのはもうしたくない」
「…そうですか。」
それから2人とも黙っていた。
帰り支度を始めた瑞季ちゃんは、帰り際に笑顔でこう言った。
「私、ずっと待ってますから。先輩が会いたくなったら、いつでも連絡して下さい」




