第18話 曽根崎くん、怒る
「あっ、先輩お疲れ様です」
「お疲れ様」
あれからミズキは俺の隣に座ってくる事はなくなった。
今日は俺の後ろの席に座っている。
学校でもバイト先でも、休憩時間に瞳子さんからのRainをチェックするのが俺の何よりの楽しみになっていた。
今学校は冬休みだけど。
瞳子さんとのRainでのやり取りは、日に4、5回ほど。
もっとやり取りしたいけど、きっと家事や仕事で忙しいんだろう。
もどかしいけど、返信が来てる時には嬉しすぎて心が跳ねまくる。
真冬なのに、俺の頭の中は一瞬で春になる。
駆け引きとかとてもできない。
すぐに返信しちゃう。
内容はこないだ貸した漫画の話や、瞳子さんの学生時代の話とか。
テスト期間が終わり、数学のテストが赤点ギリギリだったから「勉強教えて下さい!」って冗談っぽく送ってみた。
さっきロッカー開いてすぐに見たばかりだったけど、落ち着かずパンを食べながらRainを開く。返事はまだなかった。
今までの瞳子さんとのRainを見返しながらニヤニヤしていた。ぼんやり見ていると、スマホの画面が暗転した。
暗転した画面には、目を見開いた化粧の濃い女の顔が映った。
瞬時に浮かれた気分がホラーと化した。
「先輩ってぇ、陶芸教室の先生の事が好きなのお?」
ミズキか。振り向くと、わざとらしく首を傾げて口を尖らせている。
後ろの席から俺のスマホ覗いてたな。
スマホを後ろから見えないようにお腹のあたりに隠した。
「何で知ってるの?」
「やっぱ本当なんだ!昨日バイト先に来てた横山先輩が言ってたの」
横山…またお前か。
たまにバイト先に現れては俺の事を周りに話して去って行く。
今の所バイト先に来て欲しくない人ナンバー1だ。ナンバー2はおかん。その次おとん。
「その人、バツイチなの知ってましたぁ?」
「え」
初耳だ。
「うちのお母さんの友達が言ってたらしいですよ?バツイチで、親も離婚してるんだって。」
「そうなんだ」
「先輩、そんな人好きなんですかぁ?」
「人のスマホ覗き見すんなよ」
そう言って前を向いた。
瞳子さん、結婚してたんだ…
知らなかった。
そんな事を生き生きと話すミズキがたまらなく不愉快で目障り。
「子供、居るんですかねー?」
後ろから声を掛けてきたけど、無視した。
「結婚してから1年で離婚したらしいですよ!何でそんなすぐ別れるのに結婚したんでしょうねー?」
「黙れよ」
って言いたかったけど言えなかった。
ひたすら無視。
それからもペチャクチャ話してたけど、無視した。
「てかあんま可愛くなくない?何で結婚出来たんだろう〜?」
「お前より1000倍可愛いよ」
頭に血が上って、言ってしまった。
後ろから声が聞こえなくなった。
まだ腹の虫がおさまらなかったから、振り返った。
「性格も、お前より万倍綺麗だし。瞳子さんの事悪く言うなよ」
そのまま立ち上がり、休憩を終えた。
瞳子さん。子供居るのかなぁ…?
でもこんな事いつどういう風に聞いたら失礼にならないんだろう。
バイトが終わったら横山にRainで聞いてみよう。




