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第14話 曽根崎くん、1人得心する。

「休憩頂きまーす」


「はーい」


バックヤードの休憩室に行くと、後からミズキもついて来た。


「私も休憩頂きまーす」


休憩室には長机が4つあり、その周りにはパイプ椅子が置かれている。

後方にはロッカーとゴミ箱が設置してあり、前方には喫煙室が設置してある。

ロッカーからリュックを取り出し、休憩室の空いている席に座った。

リュックの中から200mlのペットボトルのお茶、明太子のおにぎりを取り出した。

ラベルをはがしておにぎりを取り出すと、プゥンと甘ったるい香水のニオイが漂ってきた。


「曽根崎先輩、お疲れ様です!」


俺より1週間後に入ってきた中村ミズキ。

いつもより香水のニオイがきつい。

席を詰めて座って来たので、いっこ空けて座り直した。


「せんぱぁ~い!冷たいですぅ」


両手を目に持ってきて泣く仕草をする。


「ミズキ悲しくて死んじゃうよ?」


頬を膨らませながら上目遣いでこちらの様子を伺ってきた。


「ソーシャルディスタンス」


それだけ言っておにぎりを頬張った。

香水のニオイと明太子おにぎりの味が混ざり合って…うーん、まずいもう一杯!

正面を向いているが、まだミズキがこちらを上目遣いで見ているのが分かる。

無視していると、「曽根崎先輩、最近冷たい…」とブツブツ言いながらお弁当を取り出し始めた。


チェリーな俺からしたら、こんな風に女の子に好かれる事は初めてだから喜ばしい事なんだけど。

タイプでない。俺が言うのもなんだけど。

量産型メイクに露出度の高い服装。妹と同じで化粧が濃い。


そもそも、ミズキに懐かれるようになったのはあの横峯忍とかいう男が原因だ。

ミズキが阿見山高校生だって言うから、あの男の事を聞こうと思って休憩時間にミズキへ声を掛けた。


横峯忍は阿見山高校の3年生。

ミズキは1年生だけど、中学校もあの男と同じだったからたまたま知っていたみたいだ。

横峯忍とは中学の時に体育祭で同じチームになった事があり、奴は大人しくて優しい先輩だったそう。

ほんの一部の女子からは人気があったが、ヤンキー派閥からは憂さ晴らしの対象になっていたらしい。

いじめまではいかないが、からかわれたりしていた。たまに持ち物を隠されたりしていたそうだ。

高校に入ってからは、校内でたまに見かけるだけで何も知らないとの事だった。



"あさっては1週間ぶりのレッスンだ"


自然とにやけてしまう。

おにぎりを食べ終わり、ペットボトルのお茶を飲んだ。





入会宣言をした3日後、俺はお年玉貯金を下ろしてから工房へ行った。

あれからレッスンを3回受けたが、相変わらず俺の股間は瞳子さんと手を重ねると反応してしまう。

瞳子さんから、俺は「レッスンに来るたび腹を下す男子高校生」と思われているのだろうと想像する。


横山に入会するまでの経緯を話すと、「それもう告白したんと一緒やん!!」と勝手に盛り上がっていた。

俺もその日は帰ってから自分で言った事を思い出して告白したつもりで居たが、瞳子さんは大人だ。

入会の時に俺が言った事なんて何も聞いていなかったように、他の生徒と同じように接してくる。

俺も、知らないふりをして普通のお腹のゆるい生徒として通っている。

そんな状況にほっとしている反面、残念でもあった。

もうちょっと意識してくれてもいいんじゃないか?

それとも、やっぱり俺が年下でまだ高校生だからそんな風には見れないんだろうか。



それから分かった事だが、瞳子さんは未成年の生徒を名前で呼んでいるようだ。

一緒にレッスンに来ていた小学生の女の子や男の子を下の名前で呼んでいたし、俺の事も名前で呼んでくれた。

だから、あの忍とかいう奴を下の名前で呼んでいたのは別に特別扱いしていたわけではなかった。

それが知れただけで、どれだけほっとしたか。


でもやはり、あの男と瞳子さんの間には俺が知らない2人だけの物語があるわけで。

それがどうしても悔しい。

あの男のすました顔を思い出すと無性に腹が立つ。


しかし、俺にだってこれから瞳子さんとの物語を作っていける。

横峯忍は専門学校に通うため、3月か4月には若草市内に引っ越すはずだし。




休憩終了まであと10分。

ミズキが隣に座り直してきた。


「せんぱぁい。私、手相見れるんですよ~」


そう言うと俺の腕を掴んで引っ張り、手のひらを両手で触り始めた。

そしていつもの上目遣い。


「あっ、先輩の手フニフニして気持ちいいですね」


上目遣いをしながら手を揉んでくる。


「やめろよ」


何だか怖くなって手を振り払った。

ミズキはガ〇ャピンみたいな目を見開き、顔を真っ赤にして口先をとがらせた。

音を立ててパイプ椅子から立ち上がると、ロッカーを乱暴に開いてから閉じ、どこかへ行った。

多分トイレだろう。


前の席で休憩していた、伊藤さんという総菜コーナー担当のおじさんがこちらを振り返っていた。

気まずくなって意味のない笑みを向けた。

伊藤さんも気まずさから意味のない笑みを向け、前を向いてお弁当を食べ始めた。


不思議だ。

瞳子さんに手を重ねられると俺のジョニーは制御が効かなくなるくらい元気一杯になるのに、ミズキに触られてもピクリともしなかった。

というか怖かった。

そうか、陶芸体験の時に横山が瞳子さんに手を重ねられても何とも思わなかったのは、こういう事なんだな。

俺は1人納得し、じっと手の平を見つめた。




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