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第1話 瞳子さん、Uターン初日の朝。

目が覚めた。ちゃんと朝に。


布団から上半身を起こし、後ろを向いた。

障子を通して差し込んだ光はとても柔らかで優しくて、

私はふっと目を細めた。


ここはとても静かだ。

外からは雀の鳴き声だけが聞こえてくる。

こんな穏やかな朝を迎えるのはいつぶりだろう。

私はしばらく、この静かで澄んだ朝の余韻に浸っていた。


この和室から廊下を挟んだ所に台所がある。

その隣にはコタツが真ん中に鎮座するリビングがある。

そのリビングから、ラジオの音がうっすらと聞こえてくる。

父はもう起きているのだろう。


軽く伸びをしてから、立ち上がった。

パジャマから普段着に着替え、

年季の入ったガラス障子に手をかけて戸を開けた。


廊下を歩き、トイレに行ってから歯を磨いた。

トイレは浴室の隣にある。

未だにボットン便所だ。

台所は浴室の向かい側にある。

真っすぐ短い廊下を歩き、この家で一番重いガラス障子を引いて開ける。


真っ暗な台所の向こう側のリビングで、

父が座椅子に座って朝ごはんを食べていた。


「おはよう」


「おはよう。パン、勝手に食べていいぞ」


「うん。ありがとう」


父はそう言うと、白地にブルーの縦ストライプが入った陶器のカップで

コーヒーを飲んだ。

私が小さい頃から見覚えのあるカップだ。

まだ使っているようだ。


「よく寝れたか?」


「うん。」


台所に行き、冷蔵庫を開ける。

この冷蔵庫も、かつて6人で暮らしていた時のままだ。

中には漬物、ジャム、食パン、牛乳、ヤクルト等が入っている。

17年前に離婚し、1人暮らしとなった父には大きすぎる冷蔵庫。

私はスカスカの冷蔵庫からヤクルトを取り出し、リビングに居る父に声を掛けた。


「ヤクルト飲んでいい?」


「あー、のめのめ」


父とははす向かいに座り、かつて長男が使っていた色褪せた座椅子に腰を下ろす。

ヤクルトを開けて、グイッと飲んだ。


父の背後の棚の上からラジオの軽快なトークが流れてくる。

リビングの右隣にある部屋は洋室で、同じ柄の大きなソファーが6つ並んでいる。

コーナーソファーが1つあり、幼稚園児の頃は壁とそのコーナーソファーにできた隙間によく入っていた。


今座っている場所からは、その洋室のすだれがかかった大きな窓から外が見える。

道路を挟んで向かい側に大きな銀杏の木があり、あまり強くない朝日に銀杏の葉の緑が

ぼんやりと、控え目に光を反射している。


人通りは全くなく、外からはやはりチュンチュンという雀の鳴き声だけが聞こえてくる。

ラジオを聞きながら、ぼうっと暗いキッチンを眺めていた。


「瞳子、ゆっくりしといたらいいからな。」


私はこの家で父と暮らしていくのだ。



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