「国旗に獣が書き加えられた話 」
オレは獣になった。
訪ねてきた吟遊詩人を追い返して笑ったら、呪いをかけられ、俺と家臣たちは魔物の姿となった。
獅子の体躯と背中に翼がある禍々しい姿になっちまった。
魔物となってオレたちの心は荒れ果て、近隣の町や村へ襲撃を繰り返した。
――なんで、オレたちがこんな姿となったのに、お前らは安穏と暮らしている。
そう思うと腹がたってしょうがない。
軍や警備兵があらわれるが、所詮、人間の力だ。
俺たちの皮膚の槍や矢は通じず、敵にもならなかった。
苛立ちをぶつけていた毎日。
しかし、ある時、国の姫がやってきて、「自分が人質になるから国は手を出さないで」と言ってきのだった。
オレは「所詮、箱入り娘だ。俺たちが毎日、脅してやればすぐに根を上げるだろう」と思い、その話に乗ることにした。
しかし、予想は覆さこととなる。
この女は脅したてようが、気丈さを一切ゆるがせなかった。
爪で服を割いても、へたりこんだりせず、爪で頬に傷をつけた際には「これはよい土産話ができましたわ」とのたまう始末だ。
腹がたって町でも襲いに行こうとすると、
「あら、あなたたちは私との約束をお忘れになったのかしら? いいわ、女一人を屈せなかった腰抜けだってかえって言いふらしてやりますわよ」といい、オレたちのまえで仁王立ちをして止めたのだった。
変なやつで、姫という割に家事もできて、オレたちの住処を見て、
「な、なんですか、この屋敷は……蜘蛛の巣だらけじゃありませんか!」
と怒り、掃除をはじめ、少しずつきれいになっていった。
初めて離れて食べていたが、少しずつ近く食事をするようになっていた。
「おまえなんで、姫のくせにそんなに家事とかできるんだ?」
「あたしは妾腹の子で幼いころは母と二人で暮らしてましたの。その時覚えたのですわ」
「……そのあと、王家に召し上げられたっていうのか? そりゃ、むかつくだろう。王城を無茶苦茶にしてやろうか?」
「いいえ、母はそれでも気丈に生きましたわ。あたしも同じようにいきますの」
一事が万事、そんな女だった。
それを見てると俺たちも何かいらだっているのが馬鹿らしくなって……国を荒らさないことを誓い、姫を城に返したのだった。
†
それから幾十年も月日がたち、姫がいる国に侵略者たちが攻めてきた。
近隣の国を初めて、幾多の国を征服した侵略たちは姫の国へと刃を向けた。
侵略者たちは精強であり、圧倒的な兵力を持っていた。
魔物の話を聞いても、おとぎ話だと笑い飛ばした彼らは悠々と陣営を構えた。
姫の国も抵抗するため必死に兵をかき集め、防衛線を作ったが、兵力の差は歴然であった。
敵の王が猛然と号令をかける。
地響きとともに敵軍が迫りだす。
しかし、その時、天を裂くような咆哮が響いた。
巨大な獅子に翼が生えた魔物、それを先頭に魔物たちが現れ敵軍へと襲い掛かった。
長い、長い戦いの末、魔物たちも敵軍に倒されつつも、暴れ、ついに獅子が敵の王の喉元を食い破った。
「どうして……どうして、あなたが命をかけてまで……」
「……はっ。だが、俺たちに屈しなかったお前が、あのようなものたちに屈せられるのを見るのが嫌だっただけだ」
そういって、獅子は斃れた。
†
――その後、国には翼の生えた獅子の紋章が書き加えられ、国を守る象徴して現在にも伝わっている。