第3話 魔王の継承と勇者の野望
〝ティアマト大陸〟最北部に国土を持つ国家〝サロメ王国〟最も魔大陸に近い国であり、〝アプス〟から迷い込んで来る強力な魔物から国土の防衛を行なっている。
〝オジマン帝国〟に次ぐ軍事力を誇り、大陸最多の〝勇者〟を保有する、列強諸国有数の軍事国家だ。
「魔物の進行を確認!!ガーゴイル多数!アークガーゴイル三体!!レッド種です!!」
魔王の出現が予言され五年、魔大陸から到来する魔物の数が例年の三倍以上に膨れ上がり、列強諸国有数の軍事力を誇る〝サロメ王国〟の屈強な軍隊でも、その対応は困難を極めた。
「第三魔導騎士大隊壊滅!!北門突破されます!!」
〝アプス〟の魔物は〝ティアマト大陸〟の魔物とは一線を画す強さであり、これの討伐は通常戦力では難しい。
「第一、第二魔導騎士大隊戦は戦況維持の為、応援に迎えません!!〝勇者〟出動を要請します!!」
最前線の要請連絡に、前線基地にて戦場を眺めて居た小太りの眼鏡をかけた男がニヤリと笑みを浮かべた。
「デュフフフ、遂に拙者の出番でござるな」
「〝解析の勇者〟マナブ様!第四魔導騎士大隊より出動要請あり!直ちに現場に急行されたし!!」
「了解でありますぞ、お任せ下され、それが〝勇者〟の務めでござるからな、デュフフフ」
列強諸国が保有する突起戦力〝勇者〟異世界〝ニッポン〟より召喚された存在、規格外の異能の力を有し、巨人にも比類する異常な基礎身体能力、戦闘の関する全ての才能がずば抜けて高く、素人同然だった者が僅か数日で熟練した兵士を上回る技量を身に着ける、例外無く一騎当千の戦力を誇る、文字通りの人間兵器である。
「しかしモブの皆様は何故拙者達に全て任せないのでござるかね?レベル十そこそこのモブ兵士が束になっても、この程度のモンスタースタンピードも防げく事も出来ぬと言うのに、この国はもう少し〝勇者〟を有効活用すればいいでござろうに」
〝解析の勇者〟マナブは心底不思議そうに首を傾げながら、一目で生活習慣病だと分かる、その小太りの体型からは想像もつかない素早い身にこなしで、戦場を駆け抜ける。
「デュフフフ、拙者見参!さぁ第四魔導騎士大隊の皆々様!後はこの〝解析の勇者〟マナブめに任せるでござる!!」
戦場の最前線に、クイクイと眼鏡を揺らしながら、ガニ股で登場した〝勇者〟に、爆発的な歓声が上がる。
「勇者様だ!!〝解析の勇者〟マナブ様が来てくださったぞ!!」
「勇者様万歳!!〝解析の勇者〟マナブ様万歳!!」
「おお!!何と言う凛々しきお姿か!!これが我が国最強の〝勇者〟!!」
「勇者様!!救援感謝いたします!!」
自身に向けられた歓声に気を良くしたマナブは、ニヤけが抑えられず、だらしない表情になっていた。
「デュフフフ、モブキャラと言えど、こうチヤホヤされるのは、悪く無い気分でござるな」
そのまま気の締まらない顔で、北門を突破してきたガーゴイルに目線を向ける。
「ではでは、お仕事を開始するでござる、いざ!〝鑑定〟!!」
レッドガーゴイル レベル三十
習得魔法
・ファイヤーボール
耐性
・炎属性耐性
・斬撃 耐性
弱点
・水属性攻撃
・殴打 攻撃
アークレッドガーゴイル レベル四十
習得魔法
・ファイヤーボール
・ファイヤーランス
耐性
・炎属性耐性
・土属性耐性
・斬撃 耐性
弱点
・水属性攻撃
〝解析の勇者〟マナブの固有能力〝鑑定〟は対象のステータスを観覧する事が出来き、独自の基準でその戦闘能力を測ることが出来る能力だ。
「お〜!レベル三十、アークはレベル四十でござるか!これは中々でござるな、魔導騎士が相手にならないのも頷けるでござるよ」
ガーゴイルのステータスを確認すると、魔導騎士大隊方へ振り返る。
「大隊長殿!第四魔導騎士大隊は部隊を二つに分け、第一、第二魔導騎士大隊にそれぞれ救援を!拙者も魔物共を一掃し次第合流するでござるよ!!」
「はっ!!了解いたしました!!ご武運を!勇者様に光の神の加護があらんことを!!」
第四魔導騎士大隊が戦場を離脱するのを見届けると、マナブはニヤリとほくそ笑んだ。
「デュフフフ、これでやっと魔物で遊べるでござるよ、まぁアークが居れば充分でござるし、雑魚はさっさと消えるでござる、〈ウォータージャベリン〉」
マナブの周囲に全長四メートルの水の大槍が数十本出現し、レッドガーゴイルに向けて射出される。
『ガァァァァァギャァァァ!!』
水の大槍がレッドガーゴイルのマグマで出来た強靭な皮膚を貫き、内部で水蒸気爆発を発生させ、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「た〜ま〜や〜!いや〜、実に綺麗な花火ですな!デュフフフ」
全てのレッドガーゴイルを爆散させる事に成功したマナブは、上機嫌に不気味な笑みを深め、残るアークレッドガーゴイルにニヤついた視線を向ける。
『あ、あー、此方の放つ言の葉が分かるか?』
『ギャャ!!?』
『貴様!人間が何故我等の言語を操る事が出来る!?』
『ガァァギャ!!』
突然唸り声を上げるマナブに対し、アークレッドガーゴイルも呼応するように、雄叫びを上げた。
『おー、知性有る上位種が一匹紛れ込んで居たか、これは上々、では残り二匹はご退場願おうか〈ウォータージャベリン〉』
『ギャァァァガァァ!!!』
『ガァァギャァァ!!!!』
マナブが唸り声を発すると同時に水属性の上級魔法が展開される、上級魔法が発動し、アークレッドガーゴイル二匹が水の大槍に貫かれ、断末魔と共に跡形も無く消し飛んだ。
『輩達よ!!おのれ人間!!よくも我が同胞達を!!』
荒ぶる魔物を見下しながら、マナブは唸り声を出す。
『可笑しな事を言う、我ら人の縄張りに攻め込んで来たのは貴様等であろう、であるのならこの結末は必然である、この〝勇者〟が座する縄張りに侵入したのが運の尽きよ』
『〝勇者〟だと!?馬鹿な!!〝光の勇者〟は〝魔王〟ルシファー様と共に滅びたはず!!仮に貴様が〝勇者〟なのであれば、何故神の代行者が人間と我等の戦に介入するのか!?』
何百年と生きたのであろう、ガーゴイルの上位種は五百年前の出来事を示唆しながら、尚も問いただす。
『それは〝勇者〟が今や神の代行者などではなく、人が私利私欲と為に呼び出した兵器であるが故』
魔物にとって今の〝勇者〟の回答は見過ごせない驚愕の真実であった。
『神の御業を模倣したと言うのか!?何と愚かな事を!人間は世界の均衡を破壊するつもりか!?』
『然り、人の欲望はもはや誰にも止められぬ、そして貴様も知能を持つ希少な上位種、是非とも我が所有物に加えたい』
『所有物だと?貴様まさか我等の領域で小さき同胞を攫った者か!?あの者達は今何処に居る!!?』
『同胞?あぁ宝石獣か、何と貴様達はわざわざあの獣を取り返しに来たのか、それはご苦労な事だ、宝石獣は人の世では高く売れるからな、希少種も居なかったので、残らずバラして売ってしまったよ』
長年共に共生してきた古き友の残酷な末路に、最早怒り以外の感情は消え失せ、憎悪の業火が爆発する。
『貴様ァァァ!!この外道め!!決して許さぬぞぉぉぉ!!!』
雄叫びを上げ襲い掛かるアークレッドガーゴイルを、マナブは馬鹿にするようにニヤニヤと表情を歪ませながら、舌舐めずりをした。
「デュフフフ、知能は有れど所詮は魔物でござるな〜、挑発すれば面白い様に踊る、まさに拙者に遊ばれる為に存在する玩具でござる!」
突撃してきた四メートルは有ろうガーゴイルの巨体を片手で鷲掴みにし、一歩も動く事無く静止させる。
『おのれ!!ガァァギャァァァ!!!』
拘束を逃れようと暴れるガーゴイルを無視して、マナブは鼻歌交じりに独り言を続けた。
「いや〜!カーバンクルを攫うだけで、ここまで上手く事が運ぶとは、もしかして拙者天才なのでは?デュフフフ!あぁ、これでコレクションが増えるでござるよ!デュフフ!大事に飾ってあげるでござるよ?禁術発動〈マリオネット・ドール・ドミネイション〉」
並の魔法使いが生涯を掛けても、習得出来るかどうかの禁術を世間話をするかの様に発動させ、アークレッドガーゴイルの上位種を人形に変えてしまう。
「レアモンスターゲットでござる!デュフフフ、ガーゴイルたん萌え〜!やっぱり生モノよりもフィギュアのが可愛いでござるよ!」
人形に変えたガーゴイルに頬ずりをしながら、うっとりと表情を崩し、鼻息を荒く妄想にふける。
「この間捕まえた植物精霊の隣に飾るでござるよ、デュフフフ!しかし、この程度でモンスタースタンピードを起こせるのなら、ちょっと魔大陸まで行ってコモンキャラを攫って来るでござるかね〜?あぁ早くレアモンスターをコンプリートしたいでござる」
ガーゴイルのフィギュアを持たない左手を、覚悟を表す様に、ギュッと握り締める。
〝解析の勇者〟マナブ レベル九十三
習得魔法
・全属性初級魔法 ボール 系統
・全属性中級魔法 ランス 系統
・全属性上級魔法 ジャベリン系統
・禁忌指定 魔法 マリオネット・ドール・ドミネイション
耐性
・炎属性耐性
・土属性耐性
・麻痺 耐性
・魅了 耐性
・冷気 耐性
・猛毒 耐性
・打撃 耐性
・斬撃 耐性
目線を移し、遥か北に有るであろう魔大陸の方角を見つめ、不敵に言葉を零した。
「そして必ずや、近い内に復活するであろう〝魔王〟も拙者のコレクションに、デュフフフ、デュフフフフフフ!!」
〝解析の勇者〟マナブのこの大いなる野望が、大陸全土に未だ嘗て無い、動乱を巻き起こす事になる。
◆
異世界の森をさまよい歩いていた冬司達は、偶然古い遺跡を発見し、休息を取っていた。
『ん、…………ひゃ、と、冬司、もっと優しく、あん』
遺跡の一室から艶かしい黄泉姫の喘ぎ声が漏れ出てくる。
「ば、馬鹿仕方のないだろう?俺こんな事するの初めてなんだから」
緊張したように震える声で応える冬司を、愛おしいく想いながらも、声を抑えるのに失敗し、黄泉は艶のある声を上げてしまう。
『あん、よ、良いのじゃ、もっと、もっとじゃ、ん』
真剣な表情で黄泉を見つめ、冬司は慎重に手を動かした。
「はぁ、はぁ、やっぱ難しいな、って言うか変な声出すなよな!集中出来ないだろ!?」
黄泉姫の刀身を綿で叩くのを辞め、たまらず声を上げる冬司に、黄泉は照れながら反応を返す。
『んもう〜、冬司のいけず〜、しょうがないじゃろう?妾は製造まれてこの方、他人に手入れしてもらう事など、初めてなんじゃからの!』
何故この様な事をしているのかと言うと、遺跡で休息を取る前に、森の中で食べられそうな樹の実を探している最中、綿科の植物を見つけたので、せっかくだからと、黄泉姫の手入れをしよう、と言う事になり今に至る。
「ふぅ〜、あー、こんなんで良かったか?」
何とか手入れを終え、冬司は緊張して凝った肩を回しながら、様子を聞く。
『うむうむ!上出来じゃ冬司よ!これはもう、定期的にやって貰わなくてはのう?チラ』
機嫌良く応えるも、物欲しそうに念を飛ばす黄泉に、冬司は照れながら頬を掻く。
「心配しなくても、やってやるよこれぐらい」
『そうかそうか!妾は理解のある担い手に恵まれて、とても嬉しのじゃ!!』
「それはそれは!おめでとう御座います!!何と素晴らしい主従愛!流石は魔王様!ワタクシ感動して、涙で前が見えません!!」
道化師の仮面の上から目元をハンカチで拭きながら、真っ赤なピエロがハイテンションで会話に割り込んで来た。
「『誰だよ(なのじゃ)!!!?』」
一人と一振りの会話に、毎触れも無く混ざって来た謎のピエロに、冬司と黄泉は主従揃って、驚愕の声を上げる。
「これはこれは失礼を!ワタクシ歴代魔王様に御使えしていた道化師、メフィストフェレスと言う、しがない一悪魔で御座います!どうぞお見知り置きを!!あはハはは!!」
敵意は無いと両腕を上げながら、カラカラと笑い声上げ、ペコリと器用にお辞儀をする悪魔に、油断しないよう黄泉を構え、臨戦態勢に入る冬司。
「何だこのピエロ、人間じゃ無いんだよな?自分で悪魔って言ってるし」
『冬司気を抜くなよ、この魔性只者では無いのじゃ』
懐疑の視線を送りながらも、一定の距離を保ちながら、隙を見て一太刀浴びせる構えを取る冬司を、それでも楽しそうにピエロは話を続ける。
「暫しお待ちを!ワタクシの話を聞いていただきたい!それが終わればこの命!その素晴らしき魔剣にて屠っていただいて一向に構いません!!あ!!やっぱり死にたくないので、話だけ聞いてください!!お願いします!!」
「なんかコイツ勢いだけで喋ってないか!?」
「ワタクシ!死にたく!ありません!!どうかこの命だけは!!お助け下さい!!!!」
その場でジャンピング土下座かましながら、無駄に威勢のいい命乞いを披露するピエロに、混乱が加速する。
「全力で命乞いされてるんだけど!?なんなの!?怖いよコイツ!!?」
もう、何が何だか分からなくなってきた冬司は絶叫した。
「お願いです!どうかお話を聞いて下さい!!!」
「わかった!聞くから!聞けばいいんでしょ!?」
パァァっと、道化師の仮面が輝き、ピエロは待ってましたと言わんばかりに、サッっと立ち上がり、捲し立てる様に喋りだす。
「ありがとう御座います!ありがとう御座います!!流石は魔王様!懐が深い!我が主ルシファー様に勝らずとも劣らない!大いなるカリスマ!!それでこ我が君!!さぁ!さぁさぁさぁ!!参りましょう!〝魔王の鎧〟が待ちに待って居ますよ!」
「待て待て待て!!いっぺんに喋るな!何を言ってるだお前!?」
気圧される冬司に黄泉は面倒臭そうに呟いた。
『なぁ冬司、此奴もう斬っていいんじゃないか?』
そんな異世界転移組を気にも止めず、ピエロは喋り続ける。
「ええ!ええ!!実はワタクシ〝魔王の鎧〟に付属される単なる使い魔なので御座いますが!何の因果か!先代魔王ルシファー様に御使えする栄誉を賜りまして!ルシファー様が神の代行者と相討ちになった後!死に際の主の命令にて!ルシファー様の代役として〝魔王〟の称号を一時的に!拝命させていただいていたのですが!残念な事にワタクシは実質魔王の〝証〟的な存在でして!正式には魔王として機能していなかったのです!!しかし!ルシファー様が倒れ幾百年!ワタクシの未来視により!何と!〝真の魔王〟が異なる世界から降臨される!っと言う事が分かりまして!何と言う行幸か!やっと仮初の魔王の時代が終わる!それはもう!ワタクシ胸が張り裂けそうなくらい高鳴りました!!そして!遂に見つけました!どうか!どうか!!〝魔王の鎧〟をお受け取り下さい!!!」
息も継かず、怒涛の勢いで喋り切ったピエロは、何処か満足気に天を仰いだ。
「だから話が長い!早い!!聞かせる気あんのかお前!?」
ピエロが長文かつ、ものすごい早口で喋るので、話の内容が全然入ってこない、本当に伝える気が有るのだろうか?
『なぁ冬司、やはり此奴斬り伏せるのじゃ、どの道魔性である事に変りはない、悪魔の話など聞くだけ無駄じゃ』
痺れを切らした黄泉が、強硬手段に打って出るべきだと提案してくる。
「…………じゃあ斬るか」
『うむ!!斬るのじゃ!!』
もう面倒臭くなったので、黄泉の提案を受ける事にした。
「そんな殺生な!?ワタクシはどうしたら!?」
「うるせぇーー!!じゃあ分かりやすく、説明しろ!二行以内に纏めろよ!?あとゆっくり喋れ!!じゃないと三枚下ろしにするぞ!!」
悪魔の活け造りじゃぁぁ!!腕が鳴るぜ!!
「ひぇ、本気だこの人!?えっと、貴方に魔王をして欲しです、なので魔王の証である、〝魔王の鎧〟を譲ります」
「『チッ!!』」
「舌打ちされた!?」
約束は約束だ、話だけは聞いてやる事にした。
「で?何で俺を魔王なんかにしたいんだよ?ぶっちゃけ嫌なんだけど」
『そうじゃそうじゃ、妾達は日ノ本に帰るのじゃ、このような異世界で魔性の王などやっておれるか』
そう俺達は魔王なんてしている暇は無いのである。
「あ、それは大丈夫です、やりたい、やりたく無い以前に、ワタクシが未来視した事象は固定化されますので、どうあがいても貴方様は魔王になる運命で御座います」
なんか、とんでもない事を言いだしたぞ、このピエロ。
「うん、やっぱり斬るかコイツ」
『お?やるのじゃ?やっちまうのじゃ?』
チャキッ、っと黄泉の鍔を指で鳴らし、ジリジリとピエロに近寄る。
「ま、待って下さい!今ワタクシを殺しても未来は変りませんよ!?さぁラブ&ピースに目覚めるのです!」
愛と平和を説く悪魔とはこれ如何に?
「あぁ、分かった魔王になってやるよ」
道化師の仮面から安堵する空気が流れて来た、どうやらピエロは安心したらしい。
「本当で御座いますか!?よ、良かった!んもう!魔王様ってば、冗談がお上手なんですから〜」
「魔王としてお前を最初に斬首する事にした」
『悪魔を斬のは初めてなのじゃ、どのような感触か楽しみじゃのう』
サッ、っと青ざめるピエロ、仮面付けてるのに器用なやつだ、だが許さん。
「何と言う風格!まさに〝魔王〟!!おま、お待ち下さい魔王様!そ、そうです!考えても見て下さい!魔王になれば魔物達に命じて、異世界へと渡る手段が見つかるかもしれません!魔物の中には何百年と生きる個体も居るので、必ずや御身の力となるでしょう!な、なんなら異世界へ渡る前に魔王の座を他の者に与えれば、事は丸く収まるのでは?」
言われてみると、確かに一考する価値はありそうだ、抜きかけた刀身を鞘に戻し、暫し熟考する。
「……………………分かった、その案を受け入れよう、俺達だけじゃ、帰れる保証も無いわけだからな」
『なんじゃ斬らんのか、つまらん』
実際右も左も分からない状況だ、この世界に詳しい奴は魔物だろうと利用しなければ、日本には帰れ無いだろう。
「ホッ、ではでは!話も纏まったところで!この神殿の最奥にある祭壇に〝魔王の鎧〟がありますれば!ささ!此方で御座いまする!」
神殿と呼ぶには随分とボロい遺跡だが、まぁ思い出とかも有るんだろう、武士の情けだ、言わないでおいてやるか。
「まぁ、ルシファー様が亡くなれてからは、何百年も放置してたから、ほぼ廃棄なんですがね!あはハはは!!」
やっぱコンツ、斬ったほうがいいんじゃ無いか?
「さぁ着きましたよ!此処が〝魔王の鎧〟の安置されてある祭壇です!!」
元いた部屋から少し歩くと、広い部屋に着いた、此処が祭壇と呼ばれる場所のようだ。
部屋の真ん中には玉座があり、其処には漆黒のフルプレートが鎮座していた。
「そしてあれこそが!魔王の証である魔王の鎧、〝ディアボロス〟です!って、あれ?ちょ、何してるんですか!?待って、まだ来ちゃ駄目ですよーー!!?」
ピエロの話は長いので、取り敢えず魔王の鎧とやらを着てみる事にした、中々着心地がいい鎧で、なんかもうこれ部屋着でいいんじゃね?ってぐらいしっくりくる。
「あ、あぁぁ、やっちゃいましたよ、はわ、はわわわわ」
これでもかって程に狼狽えるピエロが、ガタガタと身を震わしながら理由を語る。
「〝ディアボロス〟は魔王の証ではありますが、決して装着してはいけない鎧なのです、何せこれは、対神の代行者決戦用最終兵器、装着すれば莫大な力を得る事が出来ますが、一度装着したが最後、決して脱げる事は無く、半日経てば使用者は〝ディアボロス〟に吸収され…………………あれ?」
何か兜を被ってると、周りの音が聞きづらい気がする、外すか。
「ふぅ~、若干息苦しいけど、これはかなり着心地がいいよ、なんか悪いなこんな立派な鎧を貰ちゃて」
あれ?ピエロの奴どうしたんだ?急に固まっちゃって。
「え、えぇぇーーーーー!!!!?な、なな、なんで着脱出来るんですかぁぁぁ!!!?」
何を言ってるんだこのピエロ、鎧なんだから着脱なんて出来て当たり前だろに。
「き、規格外、規格外です、千年クラスの呪ですよ?なんで平気なんですか?あれ?もしかしてワタクシ、やべぇ御方を魔王にしてしまったのでは?」
何故か頭を抱えるピエロ悪魔は、ブツブツと独り言を呟きながら、蹲ってしまった。
「えっと、取り敢えずこれで〝魔王〟になったのか俺は?」
おずおずと顔を上げ、ピエロは頷く。
「あ、はい、後はお触れを出して、魔大陸中の魔物に認知させれば、貴方様は名実共に魔王様で御座います」
こうしてこの魔大陸に、ひっそりと新たな魔王が誕生した。
世界はまだ、この恐るべき事実に気が付かず。
そして世界が、この現実に気が付く時には、もう手遅れなのかもしれない。
現在所持している呪のアイテム
妖刀〝黄泉姫〟
魔王の鎧〝ディアボロス〟WIN
魔王の鎧〝ディアボロス〟性能
・所有者は〝魔王〟の称号を得る。
・全ての魔物に対する絶対命令権を行使する事が出来る。
・全ての魔物の言語を理解、使用する事が出来る。
・対神の代行者決戦用最終兵器、一度装着すれば、装着者は歴代全ての〝魔王〟の力や技能、固有能力が上乗せされる。
・神性が関わる全ての干渉を受けない。
・全ての魔法に対する耐性を得る。
・全ての物理攻撃に対する耐性を得る。
・異界の理を使用した異能力の強制消去。
・称号〝勇者〟にか関わる全ての事象に対する完全耐性。
・使い魔メフィストフェレスを召喚する事が出来る。
呪のデメリット
・使用中に歴代魔王全ての瘴気に当てられ正気を失う危険がある。
・使用中に歴代魔王の呪詛を身に受け発狂する危険がある。
・使用後、勝敗に関わらず使用者は〝ディアボロス〟に吸収され、機能の一つになる。
最近驚いた事
・自身の所有者であり、今代の〝魔王〟が人間で有る事に、めっちゃ驚いている!めっっっっちゃ驚いた!!あとあの人間、なんか歴代魔王の呪が効かないんだけど!?メッッチャやべぇぇぇぇ゙ぇ!!!?