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ハプニング

……今のところ、頼んで正解だった。


俺では、この空気に耐えられん。


目の前では女性達がキャッキャしながら下着を選んでいる。


俺は少し離れた位置ある椅子に座り、ずっと下を向いてスマホを見ていた。


「これは大きな借りになるぞ……こわっ」


「お兄ちゃん〜! 来てー!」


「なっ……無理だろ!」


「私たちいるから平気だよー!」


「……ァァ! わあったよ!」


この問答をしてる間にも注目が集まっている。

これ以上目立つのは勘弁なので、仕方なく下着売り場の中に入るが……そこは別空間だった。

当たり前の話だが、何処を見ても下着だらけ女性だらけ。


「あっ、お兄ちゃん、こっちこっち」


「お、おい? 本当に入っていいのか?」


「うん、清水さんが平気だって」


「逢沢君、平気だよ。結構、彼氏とか旦那さんを連れてくる人もいるから。ただ、堂々してればいいかも」


……なるほど、そういうもんか。

確かに店に来る女性が、そんなことを言ってたような気もする。


「わかった。それで、何をすればいい?」


「えっと、予算とかは?」


「まず相場が分からん。しかも、サイズも知らん」


「あぁー、そうだよね。逆に知ってたら問題かも」


「知ってたら怖いわ。まあ、五千円くらいなら出せるか」


普段から頑張ってる妹のため、それくらいなら頑張って出さねば。


「それなら買えるかな……じゃあ、これとこれとこれ。美憂ちゃん、試着してみようか?」


「は、はい! ありがとうございます!」


そう言い、美憂が試着室入る。


「んじゃ、俺は戻って……」


「待ちなさい、これを持ってここで待機」


……その手には下着があった。

何が悲しくて、妹用の下着を持ってないといけないのか。


「はい? いや、なんで?」


「私は中に入って手伝わないと」


「あぁー……そういうことか。というか、お前は恥ずかしくないのか?」


「……気にしてないようにしてるんだから黙ってなさいよ。というか、貴方が頼んだことでしょ」


よく見ると、ほんのり赤くなってるような気がする。

ほうほう、可愛いところあるじゃん。


「そうか、相変わらず猫かぶりが上手い」


「何か言いましたか? 貴方には貸しがあるのだけど?」


「すみませんでした……!」


「もう……それじゃ、私は手伝ってくるから」


そして、俺はこの下着売り場に取り残される。


これを持って歩くわけにもいかず、ここから動くわけにもいかない。


ちなみに……店員さんに頼べば良かったと気づいたのは、だいぶ後になってからだった。


どうやら、俺もあいつも相当テンパっていたらしい。





その後、どうにか試練を乗り越えた。


なんか、どっと疲れた気がする。


だが、こんなに喜んでいるからよしとするか。


「お兄ちゃん! ありがとう! 清水さんもありがとうございました!」


「ううん、これくらいならお安い御用だよ」


「まあ、普段から頑張ってるからな」


「えへへ、あっ……お兄ちゃん! あのね! 試着室で見たんだけど清水さんね!」


「ちょっ!? きゃっ——」


振り向くと階段に躓いて倒れそうになってる清水が——間に合うか!?

俺は咄嗟に身体で受け止める!


「っっ……いてぇ」


「へっ? ……っ!?」


「ま、間に合ったか……あっ」


「お兄ちゃん! 清水さん、平気!?」


どうやら間に合い、俺が下になって受け止められたらしい。

しかし、その際に……《《俺の手が清水の胸部分に触れていた》》。

そこには、見た目以上に重く柔らかな感触があった。


「い、いつまで触ってるのかな?」


「す、すまん!」


慌ててその場から離れる。

や、やってしまった……これは殴られるのも覚悟しておこう。


「……ううん、わざとじゃないし許します。それに、助けてくれたもんね」


「清水さん、ごめんなさい! 私が急に話しかけたから……ただ、清水さんの肌が綺麗だって言おうと思って」


「あっ……そっちだったんだ。 ううん、私が勝手に転びそうになっただけだから」


「……とにかく、一度座るとするか」


注目の的なので、ひとまずその場から退散する。

なんだか暑いので、外のベンチに座ることにした。


「……な、殴ってくれ!」


「ふえっ!? い、いいよ、それは」


「ううん! 殴るなら私に!」


「……ふふ、本当に仲のいい兄妹なのね。あれは事故みたいなものだから怒ってないよ。それより、逢沢君は平気?」


「ああ、大した段差じゃなかったし問題はない。美憂、ジュースを3人分買ってきてくれるか?」


「うん! 行ってくるね!」


俺がお金を渡すと、タタタッと自動販売機のある方へ向かっていく。

それを確認して、俺は再び頭を下げる。


「清水、この度はすみませんでした」


「もう、だからいいって……そりゃ、アレだけど……めちゃくちゃ恥ずかしいけど……わざとじゃないことに怒れないわよ。むしろ、助けてくれてありがと」


「そうか……本当に、今日は色々と助かった。借りを含めて、俺にできることがあれば言ってくれ」


「へぇ? そんなこと言っていいの?」


「ああ、男に二言はない」


恐ろしいといえば恐ろしいが、こればっかりは俺が悪いし。

一体、何を要求されるのか……ガクブル。


「ふーん……それじゃあ、少し考えておくわ」


「わ、わかった」


「めちゃくちゃ顔がこわばってるけど?」


「……気のせいだ。俺はそういうのはしっかりしたい人間だ」


「ふふ、面白い人」


髪をかきあげ、清水が軽く微笑んだ。


その笑みはいつもの仮面ではなく、自然体の笑顔に見えて……。


不覚にも、ドキッとしてしまった自分がいた。








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