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それぞれの事情

 そこから駅に向かわずに、歩いて住宅街に向かう。


 そして、とある家の前で立ち止まると……俺に向かって犬が吠えてくる。


「ワンワン!」


「あぁー、わかったって。ほら、撫でるから静かにしなさい」


「わふわふ」


「アポロンは、今日も元気だな」


 家の門を開けて、玄関前にいるアポロンを撫で回す。

 すると、ガチャという音がして、亮一叔父さんが出てくる。


「おぉ……きたか」


「まだ寝起きかな?」


「仕方ないだろう、それが俺の生活スタイルだし。どうする? 中に入るか?」


「まあ、そうだろうけど。いや、ここで待ってるわ。アポロンと遊んでるよ」


「わかった、十分で支度するから待ってろ」


「了解」


 俺はいつものように、玄関前でアポロンとじゃれつく。


「まったく、お前がうるさいと亮一叔父さんが起きちゃうだろ?」


「ワフ?」


「……こいつめ、わかっとらん」


 俺が倉庫の上で時間を潰している理由は色々あるが、その理由の一つはアポロンである。

 俺がくると嬉しくてはしゃいでしまい、寝ている叔父さんを起こしてしまう。

 だから、いつもギリギリの時間まで暇を潰していた。


「わふっ!」


「はいはい、わかったよ。こら、舐め回すな」


 そんな感じでいつも通り時間を過ごし、用意ができた叔父さんの車に乗って出かける。

 そして仮眠をとり、三十分くらいで東京の外れにある店に到着した。

 車から降りた俺は店の鍵を開けて、早速開店準備に入る。


「まずは電気をつけて、清掃っと」


 電気をつけると少し薄暗い部屋になり、大人な雰囲気が流れる。

 俺は布巾などで店内を綺麗にしていく。

 すると、十分くらいして叔父さんも店内に入ってくる。


「おっ、今日も仕事が早いな」


「叔父さんが遅いんだよ。どうせ、タバコ吸ってたんだろ? 身体を壊す前にやめたほうがいいけど」


「くっ、お前までそんなことを……あぁ、おじちゃんおじちゃんとついてきた可愛い甥っ子はどこに」


「昔の話はやめい。ほら、叔父さんも準備して」


「へいへい、わかったよ」


 叔父さんがカウンターに入り、仕込みを始めていく。

 この店は叔父さんが経営してるイタリアンバルだ。

 叔父さんが今日のパスタや肉料理を担当し、俺は主に雑用として働いている。

 俺は掃除が終わり次第、洗い物に入る。


「おっ、サンキュー」


「いえいえ」


「……なんかあったか?」


「えっ? どういう意味? おかげさんで、うちの家族は平気だけど」


 亡くなった親父の弟である亮一叔父さんには、本当にお世話になってる。

 親父が死んだ時も色々と助けてくれたし、俺をバイトとして雇ってくれた。

 身内の手伝いという名目があるので、十二時まで働けるし。

 母さんが大変な今、稼げるのは本当に助かる。


「いや、そういうのじゃなくてよ……なんつーか、久々にいい顔してるぜ。ここんとこは、無理してる感じがしたが。なにか、いいことでもあったか?」


「そうなのかな? うーん……いいこと? なんかあったっけ? あっ、そういや……でも、あれは違うか」


 ここ最近変わった出来事といえば、清水と知り合ったことくらいか。

 確かに印象的な出来事ではあったけど、良いことかと言われると微妙だ。

 ある意味で面倒事を抱えた感じだし。


「その顔は女だな?」


「……いや、確かに女の子ではあるけど。ただ、そういうアレじゃないし」


「おいおい、良いじゃんよ。高校生なんだから、彼女くらいいたって。明子さんだってそう言うはずだ」


「……よく言われるよ。私のことはいいから、高校生活を満喫してって」


 だから、病院に入院してる母さんに会うのは嫌だ。

 自分を犠牲にして俺たちを育てたせいで、体を壊してしまった。

 だから自分の学費くらいは稼ぎたい。


「だろ? ……まあ、お前の気持ちもわかるし。あんまりうるさくは言わんよ」


「……いつもありがとう」


「なに、いいってことよ。よし、そろそろ開店するか」


 叔父さんが俺の頭を撫で回す。


 叔父さんは滅多に説教くさいことは言わないから楽だ。


 ……そりゃ、学校生活を楽しみたくないと言ったら嘘になるから。




 ◇



「はぁ……なんで、あんなことしちゃったんだろ」


 ベットにうつ伏せになって、だらしない姿でうなだれる。


 理由はもちろん、逢沢君を生徒会室に入れたことだ。


 生徒会顧問から信頼を得ている私は、普段から鍵を自由に使える。


 人がいない時限定だけど、私とっては安らげる空間だ。


 その人がいない時に、思わず逢沢君を誘ってしまった。


「普段なら、絶対にしないのに。そもそも、手伝うよって言われてもどうにか断るし。それを逢沢君が帰るって言ってるのに招くとか……もう!」


 思わず枕を叩く。

 もやもやと、よくわからない気持ちが混同する。


「どうして、あんなことをしたのかな?」


 もちろん、借りを作るのは嫌というのは本音だった。

 それでも、密室で男子と二人きりになるなんて。


「あぁ、私に対して何も思ってないから安心したのかも……」


 あれ? なんでもやもやしてるの?

 男子に好かれたくないし、それでいいはずなのに。


「そうだ、男なんてろくなもんじゃないだから」


 お父さんが再婚したときに、そう思ったじゃない。


 お母さんがいなくなってから、私は良い子で頑張ってきたのに。


 ……でも、逢沢君といると心地よかったのはだけは否定できないかも。










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