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二人三脚

……どうしたもんかなぁ。

目の前で、子鹿のように震える森川がいた。

相変わらず、俺は苦手意識を持たれてるらしい。

特に何かしたってわけじゃないのだが。

「あぁー、二人三脚、俺とは嫌か？」

「い、嫌じゃないですっ！」

「……俺って嫌われてる？」

「そ、そういうんじゃなくて……私、強そうな人っていうか……オーラがある人を見ると縮こまっちゃって」

「……なんの話だ？」

すると、清水が話に入ってくる。

「うんうん、わかる。逢沢君、雰囲気あるもん」

「そうなのか？」

「こう、只者じゃない感じ？」

「それですっ。多分、修羅場をくぐったタイプの人……昔から、そういうのがわかるんです」

「あぁー……」

心当たりがありすぎる。

そういや、中学の時にも言われたことあった。

自然と道を開けてしまうとか。

「だから、苦手とかじゃないんです」

「いや、それなら良いや。ダチの彼女に嫌われるのは辛いし」

「ま、まだです！」

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

これは、あまりいじってはいけない。

「んで、どうするかね？」

「……私が出るしかないかな」

「そうなるか」

すると、俯いていた森川が顔を上げた。

「……い、いえ！やらせてください！私だって悔しいですっ！」

「……よく言った。それじゃ、よろしく頼む」

「は、はいっ」

「決まりっ。それじゃ、私は報告してくるね」

そうして俺達は、待機場所に向かうのだった。

準備をして待っていると、横山もやってくる。

「あれ？人が変わってる？」

「ああ、少しトラブルがあってな」

「君は……さっきの……ははん、逃げたのか。まあ、恥をかく前で良かったのかな」

……なるほど、腹の立つ顔してるな。

爽やかそうな雰囲気を醸し出しているが、良く良く見ると瞳の奥が濁っている。

この手のタイプは、無意識に人を見下す。

「んなわけあるか。ちょっと真面目が過ぎてな、足を怪我したんだよ」

「へぇ、そうなんだ。それより、君は清水さんとどういう関係？」

「何か関係あるのか？」

「へっ？か、関係？」

「彼氏ってわけでもあるまいし、答える義務はないな」

すると、一瞬——険しい顔を見せる。

なるほど、こっちが本性か。

こいつは清水とは違う。

普段はいい子ぶって、他者を見下してるタイプと見た。

「……まあ、良いや。こっちが負けることはないしね」

「そうだと良いな」

そして、放送席から合図がある。

横山も相方のところに行って、準備を始めた。

「平気か？」

「は、はいっ……！その……ムカつきます」

「ははっ、よく言った……同意見だ」

指示に従って、俺と森川はレーンへと並ぶ。

大した練習はしてないが……問題はない。

「森川は予定通り、思い切り走って良い」

「本当にいいんですか？」

「ああ、俺の方で合わせる」

「わ、わかりましたっ」

そして……ピストルが鳴る！

森川は前だけを見て、一生懸命に進む。

決して速いとは言えないが、それでもスピードが落ちることはない。

「おおっー！横山選手と佐々木選手のペアが速い！」

「慌てない、慌てない」

「そうだ、いっちに、いっちにだ」

実況の声を無視し、呼吸を合わせるように俺は歩幅を合わせる。

武道をやっていた俺からすれば、大したことじゃない。

じいちゃんから、合気道も教わっていたし。

「おおっと！逢沢選手と森川選手が追い上げてきた！いや、この場合はスピードが落ちないと言った方が正しいか！？」

「くそっ！お、おい！スピードを上げるぞ！」

「ま、待ってよ！急には——きゃっ！？」

「つまづいてしまったかー！」

どうやら、無理をして失敗したらしい。

独りよがりではいけないってことだ。

「森川、最後まで慌てずに」

「は、はいっ」

そうして俺達は、一位でゴールを決める。

横山達は結局、四位となった。

これで、点差的にはうちが追いついた形だ。

次はいよいよ……最後の種目であるリレーが始まる。