走る
ん? ……清水がいない?
昼休みを終えて戻ってきたが、隣には清水がいなかった。
スマホを見るが、特に連絡は入ってなかった。
少し待っていると、保健の先生が教室に来る。
「清水さん、少し具合悪いから預かってるわ。体育は休むって、先生に伝えといてください」
「はい、わかりました」
「清水さん、平気かな?」
「多分、勉強頑張って気が抜けたのかも」
……確かに一理ある。
意外と負けず嫌いの清水は、今回はかなり頑張っていた。
一位を取って、溜まった疲れが出たのかもしれない。
着替えを済ませたら、校庭に出て体育祭の練習が始まる。
大玉転がしや、障害物競走、二人三脚など分かれたり。
悟は森川と二人三脚らしく、一生懸命に練習をしていた。
そんな中、俺はというと……清水がいないので、三人でひとまずバトンの練習をする。
メンバーは陸上部の森田、同じく陸上部の中村だ。
「さて、どうする? それこそ、走る順番とか」
「そりゃ、あんたがアンカーでしょ。悲しいけど、私より清水さんは早いから三番目? 私か逢沢君……だっけ? どっちかが、最初と二番目になるんじゃない?」
「まあ、お前は短距離専門じゃないっしょ。そういう俺も、ハードルがメインだし……アンカーはきついわー」
ふむふむ、二人は専門ってわけではないのか。
それだったら、もしかしたら俺の方が速いかもしれない。
「あぁー、話してるところ悪い。一度、俺が全力で走ってるのを見てもらっても良いか?」
「おっ、そういや先生が速いとか言ってたっけ」
「まあ、どちらにしろ確かめないといけないし」
「それじゃ、タイムを計ってくれ」
「……なんか、そんなだったか?」
「確かに雰囲気違うかも」
「まあ、気にしないでくれ」
すぐにイメージは払拭できない。
テストもそうだが、今回の走りはそのための一歩だ。
俺はリレー用のレーンに行き、軽くストレッチをする。
さて……全盛期の力が残ってると良いが。
「それじゃ、準備はいい?」
「ああ、いつでも」
「よーい……ドン!」
俺はタイミングを合わせ走り出す。
実際と同じように一周を回る。
足と手を動かし、ぐんぐんと伸びるイメージを。
武闘もそうだが、イメージというのは大事だ。
「おおっ!? はやっ!!」
「ちょっ!? うちの短距離選手より早くない!?」
「なになに!? 走ってるの誰!?」
「あ、逢沢君!?」
遠くからそんな声が聞こえてくる。
そして、 一周してゴールに到着した。
「ふぅ……どうだ?」
「……うそでしょ……二十三秒代よ」
「はぁ!? 県大会クラスじゃんか!」
「そんなものか……やっぱり鈍ったな」
運動自体はサボってないから、体力は問題ない。
だから、本来なら後半で伸びてもいい。
俺の最速は、50メートルを5,40秒だったはず。
おそらく、あと一秒は縮められる。
「な、なに言ってんのよ!? これ、うちの陸上部のエース並みよ?」
「おいおい、今から陸上部入らね?」
「いや、それはやめておく。本気でやってる奴らに失礼だからな」
「へぇー、良いこと言う」
「確かに言えてるわ」
「んで、俺はどこが良い?」
俺が問いかけると、二人が顔を見合わせた。
「「アンカーに決まってるし!!」」
「了解。んじゃ、精一杯やらせてもらう」
「それより、なんで隠してたのよ?」
「大した理由じゃない。帰宅部希望だから、部活勧誘とかされると面倒でな」
「あぁー、それは言えてる。こんな逸材いたら、うちの部が放っておかないし」
「二年生の今なら勧誘も来ないからってことね」
「まあ、そんな感じだ」
どうやら、誤魔化せたようだ。
体育祭のアンカーになれば目立つことは間違いない。
正直言って、いちいち聞かれるのは面倒だ。
だったら、イメージを一回で払拭すれば良い。
……帰ったら走り込みが必要だな。




