順位
翌日の朝、学校に向かうと……何やら玄関が騒がしい。
「……あぁ、中間テスト順位の張り出しか」
そういや、すっかり忘れていた。
一応、確認のために近づくと……騒ぎの原因がわかった。
「ねえねえ、横山君ぬかれてるよ」
「ほんとだ、初めて聖女の勝ちか」
「なんか、清水さんってますます隙がないって感じ」
……そういうことか。
俺も人混みの後ろに行き、張り出された紙を眺める。
「へぇ……清水、一位になってんじゃん」
そこには生徒会長を抜いて、清水が一位となっていた。
俺の知る限り、生徒会長の横山が一位じゃないのは初めてな気がする。
この男はいわゆる天才タイプで、勉強と運動神経が元々良い奴だったはず。
「あいつ、今回は頑張ってたもんな……やるな」
「あっ、優馬君!」
「おっ、悟か」
ふと振り返ると、何やら興奮した悟がいた。
「すごいね!」
「うん? ああ、清水のことか。確かにすごいな」
「それもすごいけど、優馬君もだよ! ……あれ? まだ確認してないの?」
「なんのことだ?」
「ほら、順位を上から見ていきなよ」
言われた通りに上から見ていくと……二十番代に俺の名前があった。
間違い無く、今までで最高順位だった。
「おっ、結構上がったな」
「いやいや、三十番以内って凄いんだよ!」
「サンキュー……ほら、教室行こうぜ」
どうにも照れくさくなり、俺はその場を離れようとする。
すると、生徒会長である横山が呆然としているのが目に入った。
俺はそれを見て……少しだけざまぁと思ってしまう。
天才型のあんたは遊んでたけど、その間に努力型の清水は頑張ってたんだよ。
「ふっ……」
「なになに? どうしたの?」
「いや、我ながら性格悪いなと」
「えっ? ……優馬君ほど性格良い人も少ないと思うけど」
俺は悟の肩を組んで引き寄せる。
そういや、先にきちんと言っておかないといけない。
「悟……俺、変わるけど良いか?」
「……やっぱり、そういうことなんだ。うん、僕は関係ないよ。だから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「当たり前だろ。そう言えるお前の方が、よっぽど性格良いよ」
結局、寂しかった俺を救ってくれたのは悟だ。
もし何かあったら、力になりたいなと思っている。
◇
教室に入ると、話題はそれ一色だ。
隣に座る清水は、皆にかこまれていた。
「清水さん、すごいね!」
「いやー、一位とかやばいし」
「会長、全国でもトップクラスだもんなー」
「ううん。たまたまだよ。いつもより、国語の点数が良かったから」
そう言い、一瞬だけ隣に座る俺を見た。
どうやら、少しは力になれたらしい。
すると、礼二さんが手を叩く。
「ほら、いつまでやってんだ。もう、チャイムは鳴ってるぞ」
「先生、すみません」
「別に清水は悪くないさ。とりあえず、一位おめでとう」
「ありがとうございます」
「さて……これで完全に中間テストが終わったが、期末試験はすぐだからな。高校二年生の夏休みは、実質最後みたいなものだ。赤点取ったやつは、最後の夏が消えないようにしっかりやっとけよ」
その言葉に、一部の生徒たちが消沈する。
確かに、高校三年の夏休みは受験や就職で忙しいだろう。
そうなると、今年が遊べる最後のチャンスってことか。
……俺も遊んでおくかな。
「それと、今日から体育の授業は全て体育祭の練習になる。もし優勝したら、俺が焼肉を奢ってやるから頑張ると良い」
「おおっ!」
「やばっ!」
「それなら話は別だ!」
……よっぽど、例の先生に負けたくないらしい。
まあ、礼二さんには世話になってるし、俺も頑張るとしますか。
その日のお昼休み、清水は来なかった。
別にそれ自体は、そんなに珍しいことじゃない。
弁当だって二日に一回だし、付き合いもある。
特に今日は目立ってるし、話したい奴らもいるだろう。
ただ、俺はその事を後で後悔することになる。




