崩壊
その後、清水が打つのを眺めて待っていると……。
「うん、大体わかったわ」
「おっ、そうか。確かに様になってきたな」
「それじゃ、勝負をしましょ」
「はい? いやいや、俺と清水じゃ勝負にならんだろ」
「むぅ、そんなのやってみなきゃわからないじゃない」
そう言って頬を膨らませて、子供みたいな顔をしてくる。
へぇ、こんな顔もするんだな。
そして、相変わらず負けず嫌いってわけだ。
「ほう? 泣き面をかいても知らないぞ? 俺は手加減とか嫌いなんでね」
「当たり前よ、そんなことしたら許さないから」
「んじゃ、始めるとするか。最初のショットは俺が打つとしよう」
キューを構えて軽めに打ってボールを散らす。
手加減をしないとは言ったが、最初のショットで狙うような真似はしない。
うまい具合に散ったし、これなら清水もやりやすいだろう。
「ほら、次は清水の番だ」
「よし、負けないわよ」
普段のお淑やかさとはかけ離れた雰囲気で、キューを構えて——打つ!
「おっ、当たったな」
「でも、入らなかったわ」
「いやいや、当てるだけ上等だよ」
時間がないので、俺もすぐに構えて打つ。
すると、あっさりと一番がポケットに入る。
一瞬、しまったと思い清水の方を見ると……案の定、仏頂面をしていた。
「……」
「……そんなに睨むなって」
「に、睨んでなんかないわよ」
「やっぱり、手加減するか?」
「そんなことしたらキューで殴るわ」
「それはやめい……んじゃ、本気でやりますか」
その後、ゲームを続けるが……俺が次々とボールを落としていく。
清水も落とすことはできたが、何ゲームやっても俺が勝利し続ける。
「な、なあ、そろそろ他の……」
「お願い! もう一回だけ!」
「くく……わかったよ」
両手を合わして言ってくる様は素直で可愛かった。
なので、もう一回だけチャンスをあげて見守っていると……二番のボールを落とそうとして、清水が九番のボールを落としてしまう。
「あれ? この場合、どうなるの?」
「……清水の勝ちだな。先に九番に当たったらダメだが、二番のボールが九番に当たって入ったからセーフだ。そして、ナインボールは九番を落とした者が勝ちとなるって言ったろ?」
「……勝った? や、やったぁ! 勝ったわ!」
「ったく、滅多にないことなんだが。狙ってやったならともかく」
「ふふん、悔しい?」
そう言い、ドヤ顔をしてくる。
可愛いが、なんだか腹が立ってきた。
久しく忘れてたけど……そういや、俺も負けず嫌いだったな。
「はっ、さっきまで全敗してた奴の台詞とは思えねえな」
「うっ……最後に勝った者が勝利なのよ」
「ほう? それじゃ、次のやつで決着つけるか」
「望むところよ」
ひとまず休憩スペースに行き、ドリンクを買って飲む。
「まさか、ビリヤードに一時間半以上使うとは思ってなかった」
「仕方ないじゃない……楽しかったんだから」
「まあ、それならいいが。んで、次は何かしたい?」
「うーん、ゴーカートとか? あれなら、そんなに長時間やらないだろうし」
「はいよ。んじゃ、飲んだら行くか」
休憩を終えたら場所を移動し、すぐに順番がやってくる。
これは何回もできないので、一回勝負とした。
……結果からいうと、散々だった。
清水の名誉のために詳細を省くことにする。
ただ一つ言えることは……こいつに免許を取らせてはいけない。
「ひ、酷い目にあったわ。まさか、運転があんなに難しいなんて」
「あちこちにぶつかってたな……お前、絶対に免許は取るなよ」
「むっ……そしたら、どうしたらいいのよ?」
「そりゃ、運転が上手い彼氏でも見つけるんだな」
清水なら引く手数多だろうし。
こっちの本性が良いって奴も、きっといるだろうしな。
「……貴方、上手かったわ」
「あん? なんて言った?」
「な、なんでもない! それより、もう時間がないわ」
「あと、四十分ってところか。最後は何する? 勝負ごとがいいんだろ?」
「そうね……バトミントンがしたいわ」
「了解。んじゃ、やるとしますか」
場所が空いていたので、早速コートを挟んでラリーを開始する。
やはり運動神経は悪くないのか、的確に返してくる。
「よっと……こっちも、初めてにしては上手いもんだ」
「えいっ……これでも、小さい頃はスポーツ少女だったのよ。ちょっとビリヤードは別だけど」
「今はお淑やかな印象があるな……学校に限っての話だが」
「イメージを守るのも大変なのよっ……みんな、好き勝手に私の中身を決めてくるから。そうじゃないと、きっと文句を言ってくる人がいるもの。こんな人だと思わなかったとか、イメージと違うとか言って……嫌になるわ」
次第にシャトルの勢いが増していく。
どうやら、感情を込めて打っているらしい。
まあ、ストレス発散だから良いのか。
「個人的には好きにすれば良いと思うが」
「えっ? そんなことしたら、嫌われちゃうじゃない……!」
「お前のことをよくわかってない連中に嫌われて困ることあるのか?」
「なっ……! 貴方は良いわよね、他人にどう思われても強いし……私は、そんなに強くないもの」
「別に強くないし。それに、連中だってある意味でお前に騙されている。本当の姿を見せずに、勝手に嫌われると思ってるだけだろ。もしかしたら、気にしない奴もいるかもしれない」
「……っ〜!?」
清水の顔が憤怒に染まる。
本当なら、こんなことは言いたくない。
だが、このままずっと仮面を被っていたら……いつか壊れてしまう。
それは自分でも気づかぬうちに蓄積して……やがて、うちの母親のように崩壊する。
「う、うるさいわね! それで嫌われたらどうしてくれるの!? また虐められたら!?」
「そんな奴は俺がぶっ飛ばす」
「ふぇ?」
清水のシャトルが空を切り、ぽとりと落ちる。
その表情は目が点になり、驚いているようだ。
今日一日で、色々な顔が出てくるな。
「おっ、落としたな。つまりは、俺の勝ちってわけだ」
「い、今のはノーカンよ! それより……なんて言ったの?」
「もし清水が耐えきれなくなったら好きにすればいい。それで文句を言う奴は、俺が叩き潰す。当然、理想を押し付けた相手も悪いしな」
「っ……! な、何よ……何なのよ」
「何って友達だが?」
「も、もう! いいから続き!」
「へいへい、わかったよ」
そして、時間ギリギリまでラリーを続けるのだった。




