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目立ちたく無い俺、腹黒聖女様に懐かれる  作者: おとら@9シリーズ商業化


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約束

これはまずいぞ、いや美味いのだが。


いやいや、そういうことじゃなくて……この弁当めちゃくちゃ美味い。


俺好みというか男好みというか、とにかく美味い。


一度食べてしまったら、次も欲しくなってしまう。


はっ、もしやそれが狙いか?


先ほどの狙いとは別に、俺を餌付けして何か大きな要求をするのでは?


「この腹黒聖女め……恐ろしい奴」


「ちょっと、殴るわよ? 何よ急に」


「弁当が美味くて困ってるんだよ」


「へっ? ……ありがと。じゃなくて、何が腹黒なのよ?」


「こんな美味いものを食わせて、俺を籠絡しようっていうんだな?」


「ろ、籠絡なんてしないわよ!」


「そうなのか。まあ、それならいい」


ひとまず、美味いので食べ進める。

すると、あっという間になくなってしまった。


「は、早いわね……しかも、結構量があったのに」


「そりゃ、美味いから。ただ、少し足りないくらいだな」


「あれで足りないのね……なるほど」


「作ってもらった身で贅沢なことは言わん。さて、まずは何がお望みだ?」


借りは早く返すのが俺のモットーだ。

いつのまにか積み重なって返せなくなる前に。


「お望みって……何からがいいのかしら?」


「何からって、どんだけあるんだ?」


「えっと……料理のレパートリーを増やしたり、行ったことない場所に行ったり、一人じゃできないこと……」


「味見役に、護衛に、遊び相手ってことか。なるほど、わかった」


確かに、それらは相手がいないとできない。

下手な男子に頼むようなら、変な勘違いをされるだろうし。

その点、俺なら安心というわけか。


「い、言い方……」


「ん? 何か間違ってたか?」


「ま、間違ってないわよ。あと、もう一つ頼みというか……」


「ふむふむ、なんだ?」


「……勉強を一緒にやって欲しいの。というより、教えて欲しいなって」


「……嫌味か?」


方や学年二位の才女、方やギリギリ五十番代の俺。

どう考えても、教わるのは俺の方になる。


「ち、違うわよ」


「じゃあ……ははん、俺に勉強を教えて借りを増やす気か?」


「うっ……」


「なるほどなるほど」


そうして、借りを増やして何か大きな要求を……って言っても何か分からんが。

それに……別に困るようなことないか。


「ほ、ほら、貴方って国語の成績だけは良いじゃない? というより、古典といった方が良いかしら?」


「だけっていうなし。というか、なんで知ってる?」


「大体の生徒の成績は把握してるわ」


「こわっ」


「と、とにかく! 私は唯一の弱点は国語なのよ。というわけで、私は他の科目を教えるわ。貴方は、国語を教えてちょうだい」


……交換条件ってやつか。

それなら借りにはならないから良いか。


「わかった、そういうことなら」


「これで口実が……」


「ん? どうした?」


「いえ、なんでもないわ。そしたらファミレスとか……私、あんまり行ったことないから」


そういや、カラオケも行ったことがなかったくらいだ。

一体、どんな人生を送ってきたんだか。


「それじゃ、ファミレスで勉強でもすれば一石二鳥だな」


「そういうことになるわ。貴方は、何曜日が空いているの?」


「木金土日以外だったら、前もって言えば空けられる。つまり、月火水は基本的に平気だ」


「そうなんだ……それじゃあ、明日にしましょう」


「了解。んじゃ、空けとくわ」


俺は久々のまともな昼飯に満足して、午後の授業を受けるのだった。







その日の放課後、俺が日直を終えてから教室を出ていくと……廊下で生徒会長である横山と、清水がいるところに出くわす。

眼鏡をかけた優男で、しきりに清水に話しかけている。

清水は書類の束を持っているが、奴は気にした様子もない。


「ところで、次の試験はどうだい?」


「うーん、どうかなぁ」


「じゃあ、俺が勉強を教えてあげようか?」


「ううん、勉強は自分でやるものだから」


「そう? 放課後とか、俺は時間あるんだけど。別に休みの日とかでもいいし」


「そうかもしれないね。でも、別に一位が取りたいわけじゃないから」


その顔は笑っているが、今の俺にはわかる。

あれは、相当にイラついている。

しかし、無理もない……相手は如何にもなマウントを取った態度だ。

何というか……好きになってもらいたいならアレでは駄目だろう。


「まあ、女の子だしね。二位くらいの方が可愛げもあるか」


「うん、そうかも」


「それより、勉強とは関係なく出かけたり……あっ、最近は新しい趣味を見つけてさ」


そんな会話に、清水はニコニコしながら頷いていた。

それにしても……随分と一方的に話しかけてんな。

好きだというのはわかるが、あれでは駄目だろう。

お姉さん方も、好きならまずは相手の話を聞くことが大事と言っていたし。


「清水さん、ちょっといいか?」


「逢沢君っ……クラスメイトが呼んでるから行くね」


「ちょっ……」


制止を振り切り、清水が俺に近づいてくる。

俺は一瞬だけ、目線で相手に威圧をかけた。

すると、横山は目を逸らして去っていった。

俺はそのまま、誰もいない教室に清水を引っ張り込む。


「平気か?」


「あ、ありがとう……別に頼んでないのに」


「お節介だったらすまん」


「そ、そんなこと……ほんと、私って可愛くない……困ってたから助かったわ」


「そうか、それならいい。しかし、随分と一方的だったな」


側から見てたことはあったが、ああして会話をしてるのは初めて聞いた。

アレでは、清水でなくても逆効果だろうに。


「そうなのよ。いつも、あんな感じで……学年一位の俺が教えてあげるって。そもそも、貴方がろくに仕事をしないから私に負担が来てるっていうのに……! そりゃ、貴方は大したことしてないから時間はあるでしょうね……!」


「お、おう?」


「……ごめんなさい、愚痴って」


「いや、吐けるものは吐ける内に吐いた方がいい。それを我慢すると、それすらも言えなくなることがある」


俺の母さんもそうだったし、お姉さん方も言っていた。

感覚が麻痺してきて、自分が溜め込んでることに気づかなくなるとか。


「……そうかもしれないわ。でも、どうやっていいかわからない」


「別に今みたいのでいいだろ。ところで、その書類はどこに持って行く?」


「えっ? これは職員室に持っていくアンケートよ」


「んじゃ、行き先は一緒だな。ほら、職員室行くぞ」


俺は書類の山を清水から受け取り、代わりに軽い日直帳を渡す。


そして、教室を出て歩き出すのだった。




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