想定外
時間は18時になり、辺りは暗くなってきた。
予定では、カラオケだけ行って解散ということになっていたが。
どうやら、清水の気が済まないらしい。
「むぅ、払うのに」
「だから平気だって。清水はバイトもしてないだろ?」
「それはそうだけど」
「古くさいかもしれないが、女の子に払わせるなっていうのが教えなもんで。悪いが、俺に払わせてくれ」
ただいま男女平等の世界、人によっては嫌がるかもしれない。
女性だって払った方が気が楽な場合もあるし、男性も払うのが嫌って人もいる。
しかし刷り込みっていうのは厄介なもので、俺はじいちゃんや親から言われてきたからなぁ。
「……ずるい言い方ね。それじゃ、ありがたく」
「おう、ありがとな」
「もう、なんで貴方がお礼を言うのよ……変な人」
「へいへい、変ですみませんね」
「ただ、私の気が済まないわ……そうか、夕飯をご馳走すればいいのね」
「はい? いやいや、夕飯の方が高くつくだろ」
ゴールデンウィークとはいえ、所詮は学生の昼間フリーだ。
一人当たり千円もいかないから大したことはない。
外食となると、物によるが一人千円くらいするだろうし。
「……そうよね。そうなると、私が作るしか……でも、家に呼ぶのはアレだし」
「当たり前だろ。お前の家になんか行ったら、親や学校の奴らに殺されるわ」
「別に平気だと思うけどね……あっ、そうすればいいかも。ちょっと待って……」
すると、スマホをぽちぽちと打ち出す。
俺も手持ち無沙汰なので、スマホをいじっていると美優から通知が来る。
そこには……『お兄ちゃん、しっかり案内してあげてね!』と。
「あん? なんの話だ?」
「許可が取れたわ。美優ちゃんに、今日の夕飯を作らせてもらえないかってお願いしたの。同居してるおじいちゃんも、是非にって言ってくれたみたい」
「……はい? どういうこと?」
「だから……私が貴方の家に行けば解決ってことよ。そしたら安全だし、美優ちゃんも知ってるし。それに、私も料理とか作れるから」
「……つまりは、清水がうちに来るってこと?」
「ダメかしら? ……貴方が嫌っていうなら仕方ないけど」
「いや、二人が良いなら大丈夫だろう」
しかも、すでに根回しは済んでいるらしいし。
ちなみに、じいちゃんと美優が認めたなら俺に拒否権はない。
ただし、俺の家のことを説明することになるが。
……まあ、別に清水になら言ってもいいだろう。
短い付き合いだけど、それを吹聴するような奴ではないとはわかってるから。




