到着したが……
そのまま山を登り続け、人目につく前に離れる。
怪我をしてるとはいえ、この状態を見られるのはよろしくない。
「あとは行けるか?」
「ええ、ありがとう……」
「おいおい、しおらしくなるなよ。これで、少しは借りを返せたか?」
「う、うるさいわね。まだまだ貸しはあるんだから覚悟しなさい」
「へいへい、そうですね」
変にしおらしくなるより、こっちの方が楽だ。
そうすりゃ、俺も気を使わずに済むし。
そして、少し離れた位置から頂上に到着する。
すると、ちょうど礼二先生が降りようとしていた。
「おっ、二人ともきたか。遅いから、探しに行くところだったぞ。携帯にも出ないしな」
「あっ……ごめんなさい」
「先生、俺が悪いんですよ。ちょっと目眩がしまして。清水さんには気遣ってもらいました」
「……ふっ、無事ならいいさ。それじゃ、点呼を取るからお前たちも列に並んでくれ」
そうして、生徒たちの元に戻っていく。
すると、清水から視線を感じる。
「どうした?」
「別に庇わなくても良かったのに……」
「うん? まあ、お前が怪我なんかしたら男子が大騒ぎするからな。というか、俺がリンチされそうだ」
「ふふ、そうかもしれないわね」
「ほら、ゆっくりで良いから行くぞ」
「……我ながらほんと嫌、なんで素直にお礼が言えないのかな」
「あん? なんか言ったか?」
「う、ううん、何でもない」
そうして俺達は悟達と合流し、礼二先生の話を聞く。
「よーし、これで全員揃ったな。とりあえず、お疲れさん。この後の予定だが、二時間の休憩兼オリエンテーションがある。近くに生簀があるので、そこで釣り体験もできるぞ。もちろん、食べたりできる」
「先生、夕飯はありますけど良いんですか?」
「清水、良い質問だ。夕飯は六時半だし、まだ二時半だから平気だろ。それにカレーをうまく作れるとは限らんからな。あとは普通に川遊びもできる。注意点は常に監視員もいるが、入るときは気をつけること。それと足湯もあるから自由に使うと良い……くらいか? んじゃ、あとは四時半まで各自自由にしてくれ」
「「「ウォォォォォォ!」」」
「小腹空いたし釣り行こうぜ! 俺、うまいんだぜ!」
「疲れたから足湯行きたい!」
「川でのんびりしたい〜」
そんな声が上がる中、生徒達が移動を開始する。
当然、男子達が清水を放っておくわけもなく……他クラスのイケメンやら、同じクラスの奴らが群がっていた。
当然、それに勝てないと思った連中は引き下がって行く。
「ねえねえ、清水さん。俺、釣りが上手いんだよね」
「いやいや、あっちに良い景色があるみたいだから行こうよ」
「せっかく川があるから川遊びだろ」
「え、えっと、いっぺんに言われても困っちゃうな……」
明らかに清水は困っているが、男子達は気にした様子はない。
ずっと、自分のことを話し続けている。
そのことに自己嫌悪を感じつつも、あいつらにも腹が立ってきた。
あいつが足を痛めてることに気づきやしない。
「……借りはまだまだあるしな」
「はぁ? 清水さんは俺と釣りに行くんだよ」
「いやいや、良い景色がいいでしょ」
「断然、川遊びだろ」
「み、みんな落ち着いてね?」
少しずつ気まずい空気が流れて始める。
清水も足が痛いのか、いつものような余裕がなさそう。
俺は咄嗟にスマホを取り出し、文章を打ち込む。
すると、すぐに返事が帰ってきた。
流石は、頼りになる先生だ。
「おーい! 清水! こっちきてくれるかー!? 少し手伝って欲しいことがある!」
「は、はい! ごめんね、みんな。ちょっと先生が呼んでるから行くね」
「「「そんな……」」」
男子達ががっくしと肩を落とす中、清水が先生に駆け寄って行く。
それを確認した俺はお礼の文章を打ち、一人で川を眺めに行くのだった。




